第55話 こうして《時間変異病 発病事件》(別名・ネロ事件)は終幕を迎えました。
偶にはヤンデレ(?)ってもらいましょう。
「あー……。大変だったねぇ……アリエス」
「……そうだねぇ、ルイ君……」
ルイ様の私室。
説教を乗り越え、夕食も済まして。お風呂すらも終えた私達は、大きめのベッドに一緒に横たわりつつ……疲れ切った声でポツポツと会話を交わしていた。
いやぁ……三時間お説教コースは中々に効いたわ……精神的にも肉体的にも。
ルイン様はルイ君より(物理的? 能力的? には)弱いとか言ってるけど……お兄ちゃんだからか永生きしてるから、なんか逆らえない圧があって凄かった。
まぁ、何はともあれ……打ち上げ? 慰労会? 的な夕食会も無事に済んだことだし。これにて今回の事件は解決。
それでも……うん。今日は一段と疲れたなぁ……。
「…………眠い……」
お風呂で身体ががあったまったからか、手足がすっごく重い。動くのもダルい。瞼もとっても重くなっている。
なんか、気を抜いたらこのまま寝てしまいそーー。
ーーさわさわ。
「……ん?」
うだったんだけど……。
何かを確かめるように撫でられた指先の感覚に私は閉じかけていた目を開ける。
そして、左手の薬指を撫でているルイ君になんとも言えない視線を向けた。
「…………どしたの……? 急に指なんて触って……」
「いや……結婚指輪(仮)でも用意しようかなぁ、と」
「…………けっこん、ゆびわ(かり)」
「そう。結婚指輪(真)はちゃんと結婚式を挙げる時に用意するけど、一応新婚だからね。必要かと思ってさ」
ルイ君の口から放たれた〝結婚指輪(仮)〟というパワーワードに、私の眠気が一瞬で消え去る。
まさか……ルイ君にもそんな思考があるなんて……!(←中々に失礼)
驚きのあまり、私は目を大きく見開いて固まってしまった。
「…………」
「ん?」
返事がないことに違和感を覚えたのか、ルイ君はちょっと拗ねたような顔をする。
そして、私の頬っぺたをツンツンしながら呟いた。
「なぁに? 指輪、嫌なの?」
「えっ!? 嫌!? 嫌じゃないよ!? ただ、ルイ君がそーゆーこと考えるとは思ってなかったというか……!?」
「あははっ、否定出来ないけど結構失礼だね?」
ルイ君は〝クスクス〟と笑いながら、私の頬を撫でる。
「!」
でも、優しい手つきとは裏腹に……徐々に目の光が消えていくのに、私は動揺を隠さずにはいられなかった。
あれぇ!? どこにヤンデレスイッチあったかなぁ!?
「指輪はね。分かりやすい目印なんだよ」
「………めじるし?」
「そう。結婚しているという証明。自分にはもう大切な人が、最愛の人がいると周りに知らしめる証。そして……指輪は所有印の代わりだ。君がボクのモノだって、周りに指し示す分かりやすい証拠」
「…………」
「でも、アリエスはまだ小さいから……きちんと周りにボクのモノだって理解してもらえないかな? 子供のままごと、とか思われちゃいそう。或いは意味を理解せずに嵌めてる……とか。一緒に首輪ーーゴホンッ。首飾りを用意するのも良いかもしれないなぁ……」
ほんのりと頬を赤く染めながら、うっとりと熱を帯びた瞳で見つめてくるルイ君は……視覚的にとんでもないエロ爆弾状態だった。だけど、発言が中々にアウトだった。
今、首輪って言ったよね? 言ってたよね?
まぁ、別に良いけどね!? ズレてるのは今に始まった話じゃないし!!
「……ルイ君は私にゆびわだけじゃなくて、くびわもつけたいの?」
「…………首飾りだよ?」
ーーにっこりと、どこか胡散臭く笑うルイ君の額をペシッと叩く。
「はいはい、おぶらーとに包まなくて良いから。つけたいかつけたくないかで言うと?」
「勿論、つけたいよね」
どことなく危険な手つきで、私の首筋を横切るように撫でるルイ君。
きっと、彼の目には存在しない首飾りという名の首輪が映っていることなんだろう。
私はそんなルイ君にちょびっと呆れつつ……にっこりと笑った。
「くびわ、つけられてもいいよ?」
「…………ふぅん? その顔は……交換条件でもあるのかな?」
「うふふっ、せいかーい」
そう答えた私は、自分からも彼の首に手を伸ばす。
触りやすいようにルイ君が差し出してくれた首に触れ……色白な肌の下で脈動する鼓動の感覚を指先に感じながら、うっとりとした声で告げた。
「私にくびわをつけたいなら、ルイ君もつけられてね?」
「…………ボクにも首輪?」
「そう。だって、私はルイ君のモノでルイ君は私のモノでしょう?」
一方的じゃよくないよね。
私につけるんなら、勿論ルイ君にもつけてもらわらないと。
というか……。
「どちらかというと、ルイ君の方がくびわはひつよーじゃないかな……?」
「えっ。なんで?」
「ルイ君、格好良いし。イケメンだし、脱いだら凄いし、優しいし……ふつーに考えたらルイ君、モテモテだよね?」
なんか、改めて声に出してみると……ルイ君って凄い優良物件なんだよねぇ。
イケメン(勿論、身体能力とかも高い)、軍人(定職)、血筋(精霊王の息子)、三拍子揃ってるもん。
きっと何も知らない女の子であれば〝キャーキャー〟言って、ルイ君とお近づきになろうとーー……。
あっ。想像しただけでイライラしてきた……。
思わず暗黒オーラを放ち始めるけど、ルイ君はそんな私に気づかずにキョトンと首を傾げる。
そして……「ふはっ」と小さく笑ったかと思うと、微妙に目の光を取り戻しながら優しく私の髪を指先で梳き始めた。
「取り敢えず、アリエスに格好良いと思われてるのは嬉しいな。でもね? 脱いだら凄いって知ってるは一緒にお風呂に入ってるアリエスだけだし……優しくしてるのもアリエスだけ。アリエスだから、なんだよ?」
「…………」
「というか……アリエス以外の有象無象にモテても意味ないよね。ボクとしてはアリエスにモテているか。アリエスがボクを好いてくれているかどうかが重要なんだけど……な?」
………目尻を赤く染めながら、伏し目がちで見つめてくるルイ君は、とんでもないエロ兵器でした。
「……………」
「おーい、アリエス〜?」
顔を真っ赤にしているであろう私の頬をツンツンと突いてくるルイ君。
分かってる。なんで固まってんのって思ってるんでしょ?
でもね? 君の所為だからね!?!?
何、その無駄に色気ダダ漏れなの!! なんかいつもよりも数百倍の威力あるよ!? 何がルイ君に起きたの!?
アッ、貴方初めての発情期迎えたましたね!? ソレガ原因カッ!!
「大丈夫?」
「……ルイ君……私いがいの人の前でそんな顔しちゃダメだからね……?」
「…………どんな顔かが分からないけど、取り敢えず分かったよ」
こりゃ絶対、分かってないな……?
………こんな顔、他の人に見せたら絶対惚れられちゃうって。
まぁ、でも? 結婚した以上はそう簡単にルイ君を手放すつもりはないから、問題ないかもしれないけどね。
そのためにも……ルイ君が誰のものか、しっかりと知らしめないと、ね。
「今度、いっしょにゆびわとくびわ、買いにいこーね?」
「うん、早速次の休みに買いに行こう。きっと……アリエスの白い首に、赤い石がついた黒い首輪が似合うよ」
赤い石のついた黒い首輪……あぁ、それって素敵。ルイ君の色だ。
なら、ルイ君には私の色を纏ってもらわなきゃね。
そしたら、もう……。
ーールイ君は私から、逃げられない。
「うふふっ〜。楽しみだねぇ、ルイ君」
「そうだね、アリエス」
にっこりと微笑み合う私達だけど、ルイ君の瞳はまた光を失っている。きっと、私もそう。
だって、私達は同じことを考えているだろうから。
指輪と首輪を繋ぐんだから……自分以外に目を向けることは、〝許サナイ〟って。
もし、そんなことになったら……どんなことをしてでも、後悔させてやるって。
…………あぁ。
本当……すっかり貴方色に染められちゃったなぁ。
でも、それでもいっかって思っちゃう私はーーもう完全に手遅れだった。




