第52話 恥ずかしルイ君は可愛い
別名、ひよこ最強説爆誕。
ルイ→アリエス目線です。
食堂での会話は次回も続きます。
今後とも〜よろしくどうぞ!
「……………」
兄様の部屋で、今更過ぎる性教育を受けたボクは、死んだ魚のような目をしながら遠くを見ていた。
向かいのソファに座った兄様は口元を片手で覆って、ぷるぷると震えている。いっそ笑ってしまって欲しい。笑われるの我慢されてる方がキツいんだけど……。
「本当、アリエスが関わるとお前は成長が著しいな?」
兄様は震える声でそう告げる。
そうだね。アリエスに出会ってから、ボクはとんでもなく変わった。
人間(ハーフエルフだけど)味が増したというか、やっと心も成長したというか。
アリエスが関わる前のボクと今のボク、きっとその変わりようは凄まじいモノだろう。うん。
「まぁ、とにかく。年頃になれば性欲を抱くのは普通だから、気にすることはない。だけど、アリエスの肉体年齢はまだ五歳だからね。少なくとも後九年は待ちなよね」
「それぐらい分かるよ、馬鹿兄様!」
「そう? なら、良いよ。流石に弟を捕まえるのは嫌だからね。犯罪は駄目、絶対」
この国で犯罪者の逮捕権を持つのは軍部に所属する軍人になる。
そして、この国では成人(十四歳)未満の子供に手を出すのは犯罪だ。
つまり、アリエスに手を出す=兄様に即逮捕される、になる。
………でも、さ?
…………ボク……アリエスともう既に結婚しちゃったんだけど……それはセーフになるかなぁ……。
……。
…………。
………………まぁ、手を出さなければ大丈夫だろうってことで。
「んじゃ、そろそろ夕食の時間だ。行こうか?」
「あ、うん」
考え事に意識を沈めていたボクは兄様に促されて、ほぼ無意識で食堂に向かう。
でも……この時、ボクは兄様にアリエスと結婚したことを伝えておくべきだったんだ。
そうすれば、この後の騒ぎ後のお説教(正座で三時間)を回避出来たかもしれなーー……いや、普通にこの時にお説教されただけかもしれないけど、それでも多少は短縮された《マシだった》かもしれなかった。
だけど……この時のボクはそんな考えに至らないのであった。畜生。
*****
シエラ様と共に食堂を訪れた私は、落ち着かない気持ちで食堂の椅子に座っていた。
なんかしてないと居た堪れなくて、前髪を指先で弄り続ける。そんな私を見てシエラ様は〝ニヤニヤ〟と笑っていて……余計に居た堪れない。
だけど、そんな時間も直ぐに終わる。
ゆっくりと開いた食堂の扉。ルイン様と現れたルイ君を見て、私は〝ピクッ!〟と硬直した。
「あっ、先に来てたんだね。シエラ、アリエス」
ルイン様の言葉にルイ君も私に気づいて、〝ビクッ!〟と固まる。じわじわと赤くなっていく彼の頬。私の頬も熱くなる。多分、同じぐらい赤くなってるんだろうな……。
「………えっと……」
「…………」
「………その……」
モゴモゴと口籠る彼は、ルイン様に背中を押されて私の前に突き出される。
それに意を決したのか……。ルイ君は私に近づくと、そっと跪いて……緊張した面持ちで、手を握ってきた。
「その……さっきは、ごめん。ボク、情操教育が不充分だったと言うか……なんというか……ボクのこと、恐かったりしない? 大丈夫?」
自分より緊張してる人を見ると、逆に冷静になるよね。
微かに震えてるルイ君の手を、余裕を取り戻した私は強く握り返す。
そして、ちょっと弄るようにパチンッとウィンクをした。
「うん、だいじょーぶだよ。恐かったりしないよ? というか……私のせーしんねんれー、既に大人だってわすれてない?」
「………あぁ……そういえば、そうだったね……なら、良かった……のかな?」
「…………だから。前にもいった気がするけど、エロエロは、大人になってから……ね?」
「分かってるよ! 兄様にも言われたからね!」
顔を真っ赤にして叫んだルイ君に、私は声を出して笑ってしまう。
私に弄られたからか、ちょっと緊張が解けたみたい。
ルイ君は大きく息を吐いて、私の身体を抱き上げる。そして、いつものように膝の上に乗せて席に着く。
〝大丈夫かな?〟と思って顔を上げると、ムスッとした顔の彼がいて。ルイ君は悔しそうに呻きながら、告げてきた。
「………あの時は初めてだったから反応しちゃったけど、弁えてるから。だから、いつでも発情すると思わないで」
「…………なら良いけど……無理そーなら、ひざから降ろしてね?」
「……うぅ……はい……」
恥ずかしそうにするルイ君の頭を撫でる。
……ちょっと子供っぽい反応が、可愛いなぁ……。
そんな私達を見て、シエラ様とルイン様は〝ニヤニヤ、ニヤニヤ〟。
それに気づいた私は〝ビシッ!〟と固まって恐る恐る手を離す。
だけど……そんな穏やかな時間は、直ぐに霧散することになるのだった。
「大旦那様。ご歓談中、申し訳ありません」
スッと気配もなく現れたエクリュ侯爵家の家令セバティン(※いつからか、エクリュ侯爵家の家令はその名を受け継ぐシステムになっていたらしい)。
初老のダンディなオジ様なんだけど、忍者かってぐらいに気配がない。とんでもなく気配がない。そして、すっごい万能。
そんなセバティンが声をかけてくるなんて、よっぽどの事態だった。
ルイン様の顔が一気に緊張感あるモノへと変わり、纏う空気も張り詰めたモノになる。シエラ様もスッと背筋を伸ばして、静かに話を待った。
「なんだ」
「アリエス様の頭に生息していらっしゃるひよこ様が、セルの頭をぶっ叩きました」
「「えっ?」」
思わず私とルイ君の口から驚きが漏れる。
ルイン様はチラリとこちらを見てから、続きを促した。
「それで?」
「目撃者であるセリナの話を聞くと……ひよこ様は白いジャバラ状の板をもっていらしたとか。加えて、叩いた時に物理的な星も出現していたと。本件は五年前にお聞きした《傀儡師事件》に類似しておりましたので、ご報告をさせて頂きました」
「「「「!!」」」」
それを聞いて私達は、ハッと息を飲んだ。
多分、白いジャバラ状の板はーーハリセンだ。
ルイ君の部屋の箪笥の奥底にしまってあったはず。確か、ひよこもそれを知っていた。
で……ハリセンの能力は〝傀儡師の能力を解除する〟という、対傀儡師特化能力だったはず。
つまり……。
セルも、オリーと同じように傀儡化されていたという意味同然だった。
「…………いつ。あの子も傀儡化されてたんだろう……? この五年は《傀儡師》に対して警戒してたはずだから……そう易々と接触出来るとは思えない……。まさか、五年前から……? 全然、気づかなかった……」
ルイ君の呟きに、私も頷く。
《固有能力》は精霊術では判別出来ない。だから、目に見えるカタチで現れてないと、《固有能力》にかかってしまっていることに気づけない。
「五年前ーーオリーとか、他の人達は分かりやすく操られてた。でも、セルは普段通りだった。だから、セルとメイサは操られていないと判断したんだけど……」
「でも、兄様? あの時点で傀儡化だけしておいて、今の今までそれを隠していたなら……?」
「成る程。警戒がある程度緩んだところで、傀儡を操ってアリエスをまた誘拐していた可能性があるのか……」
ルイン様とルイ君は、真剣な顔で意見を言い合う。
そんな中ーーまさに話の当事者であるひよこが扉の小窓(※犬とかが入れるようにしてるヤツ)から食堂に入ってくる。
それに気づいたルイ君は、私の頭に乗っかる前に〝ガシッ〟とひよこを鷲掴みにする。
『ぴっぴよー!?!?』
悲鳴をあげるひよこに対して、ルイ君は真顔で命令をした。
「報告」
『ぴ?』
「ハリセン、叩いたろ?」
『ぴっぴー』
………毎度、謎なんだけど……なんで話が通じるんだろう?
ルイ君は『ぴよぴよ』言い続けるひよこの話を聞いて、ふむふむと頷く。
そして、信じられないような顔をして……ひよこを私の頭の上に乗せた。
「なんだって?」
ルイン様の質問に、彼はなんとも言えない顔をする。
だけど、隠しても無駄だと思ったのか……ゆっくりと口を開いた。
「………ひよこ、ここ最近、能力が進化したんだって」
「…………へぇ?」
「で。アリエスに対するモノに限り、アリエスに害がある原因を見つけれるって能力らしいんだけど……それで、あの子から《傀儡師》っぽい気配を感じて、ハリセンで叩いてみたら当たったらしい……よ?」
「「「………………」」」
「…………ちなみに、ひよこも五年前から傀儡化されてた可能性が高いって考えてるらしい。まぁ、傀儡化の確認なんてしょうがないけど」
「「「…………………おぉう……」」」
『ぴっよー!』
私からは見れなかったけど、鳴き声な感じからしてドヤッってるんだろうなって思った。多分、勘違いじゃない。
きっと、この時の私達の心の声は、全員一緒だったと思う。
ひよこ、最強なんじゃないかな……? って……。ぜ〜ったい、み〜んな同じこと考えてたと思う。うん。
※なお、ルイン様による説教は次回に続く




