第51.5話 ひよこ、暗躍
別名、ひよこイケメェェェン回です。
セリナ→ひよこ目線。
今後とも〜よろしくどうぞ!
ルイ様はルイン様に。アリエス様はシエラ様に回収され……わたくし達は、夕食準備の手伝いに行くことを指示されました。
エクリュ侯爵家は家人と使用人が共に食事を摂る特殊な貴族なのですが……わたくし達はアリエス様への接触禁止令が出ていたので、食事は使用人の休憩室で食事を摂っていました。
そのため、食堂を使うようになったのは、接触禁止令が解かれたここ最近のこと。
わたくしは気もそぞろになりながら……食堂へと向かって歩いて行きました。
「………なぁ、姉ちゃん」
……唐突に、隣を歩いていた弟のセルがわたくしに声をかけて来ました。
チラリとそちらに視線を向け、「なんですぅ……?」と続きを促す。
すると……セルは、とても馬鹿なことを言い出しました。
「…………なぁ。あの……アリエスは……本当に……オレの知ってるアリエスなのかな……?」
「…………はい?」
思わず足を止め、先を歩き続けるセルの後ろ姿を見つめてしまう。
だって……それほどまでに、わたくしは弟の言ってることが、理解出来なかったのです。
「……あんなアリエス、オレは知らないよ。なんで……あんな、怖いんだろう……?」
「…………」
おかしいです。おかし過ぎです。
セルはそんなことを言える立場ではないはずです。
だって……セルは、アリエス様と、あの一件以来の関わりがないのですから。
「…………何を、言って、いるんですか……?」
「オレが知ってるアリエスは、優しくて、可愛くて、良い子なのに……」
おかしい……おかしいです……!
まるで、アリエス様のことをよく知っているような発言はーー異常、以外のナニモノでも、ありません!
「ここ最近のアリエスは、恐くて仕方なーー」
「セルッ!」
わたくしは弟の名前を叫びます。
ピタリと立ち止まるセル。ゆっくりと振り返った弟の瞳は……濁っている。
……いつ、から?
………なんで、今まで、気づかなかった?
「っっ……!」
今のセルはーー普通じゃないーー!!
「ルインさーー」
『ぴっぴよーっ!』
「!?!?」
緊急事態だと判断し、ルイン様の名前を叫ぼう(※エクリュ侯爵家は精霊達がそこかしこに飛んでいるので、名前を呼べばルイン様とシエラ様に伝わるようになっています。)としたその瞬間ーー唐突に、ひよこが現れました。
アリエス様の頭に生息(?)しているひよこです。彼(?)の口には……白いジャバラ状の棒(?)。
ひよこは〝きらりーんっ〟と目を輝かせると、セルの頭に向かって勢いよく落下していきます。
そしてーーその頭に、白い棒を、思いっきり叩きつけました。
「ぶふっ!?」
「!?!?」
ーーきらきらきら〜ん☆
物理的に出た星(!?)を頭から飛ばしながら、ぶっ倒れるセル。
わたくしは悲鳴をあげながら、慌てて倒れた弟に駆け寄ります。
「セル! セル!」
わたくしの悲鳴を聞きつけて現れた他の使用人達。倒れているセルと、動揺するわたくしを見て徐々に騒ぎになっていきます。
そんな光景の中ーーひよこは『ぴぴっ』と満足げに鳴くと、そのままパタパタと飛び去っていきました。
取り残されたわたくしは、何が起きてるかが分かりません。
「………一体……何が……!」
わたくしが全てを知るのはこれから数時間後のことーー。
それまで、わたくしは気を失った弟のことで気を病むことになるのでした。
*****
吾輩はひよこ。ひよこである。
吾輩は人造生命体。創造主に造られたため、普通のひよこにはない特殊能力がある。それは……アリエス単体に限り、どこにいようがその居場所を見つけることが出来る能力である。
ストーカーちっくな能力ではあるが……この力は我が創造主の、アリエスがどこにいようが見つけてみせるという怨念に近しい想いで生み出された……まぁ、うむ。中々に恐い能力だ。
けれど、吾輩は停滞を許さぬ素晴らしいひよこ。
この五年間ーー吾輩は、自身の能力に(良い方向での!!)磨きをかけるべく、研鑽を積み重ねてきた。
そしてーーここ最近、吾輩の能力はある進化を遂げた。
それは……アリエスに向けられた不利益に限り、その気配を感じ取るというモノ。
本当はアリエスを格好良く守れるような進化が良かったのだが……吾輩、この時ほどこの進化を遂げといて良かったと思った日はなかったのである。
ルイに発破をかけ帰宅した直後ーー吾輩は嫌な気配を感じ取った。
それがなんなのかは確認していないから分からない。しかし、吾輩は直感的に創造主の部屋に飛び……タンスの奥底にしまわれていた(放置されていたとも言う)あの魔道具を五年ぶりに引きずり出した。
『ぴよっ!(特別意訳:行くぞ、ハリセンよ!)』
ハリセンーーこれは、《邪神兵団》の傀儡師に操られし者の頭を叩くことで、傀儡化を解くことが出来る有能な魔道具である。
同じ創造主に造られたモノ同士だからだろうか?
久し方の出番に、ハリセンが張り切っているのを感じ取れる気がする。
吾輩は意気込むハリセンを咥えーー感じ取った気配の先に向かう。
そこにいたのは……アリエスの専属侍女セリナとその弟。
ハリセンが訴える。〝あの男が、あの傀儡師に操られている〟と!
なんということだろう! あの変人、また屋敷の使用人を操っていたのか!
いつ、また、あの傀儡師と接触したのだろうか?
もしかして……あの五年前の時点で、もう既に仕込んでいたのかもしれない。確か、あの子供は当事者であったはずだ。バレないように隠していて……吾輩らが傀儡師のことを忘れた頃に操り、アリエスを拉致しようとしていたのかもしれない。
その可能性は高そうだ。吾輩の能力が進化したのはここ最近のことであり、まだ感度は高くない。
しかし、三日ほど顔を合わせていたのに彼奴が操られていたことに気づかなかったのだから……今の今まで傀儡化していることを、隠匿していたに違いない。これからは更に研鑽を積み重ねるべきだな。
もしも、吾輩の能力が進化する前にコトが起きていたら……アリエスに〝何か〟が起きていたかもしれぬ……。そうなる前に見つけられて良かったと思うべきだろう。
だが、傀儡師よ! 気づいたが百年目! 貴様の駒は、今ここで潰させてもらう!
『ぴっぴよーっ!』
大きくフルスイングして、男の頭にハリセンを叩きつける。
傀儡化を綺麗さっぱり解除するため、かなり本気でやった。だからなのか、男の頭から星(物理)が沢山、飛び出た。
ーー〝やったぜ!〟
ハリセンが満足げにそう訴えてくる。どうやら完全に解けたらしい。
セリナが悲鳴をあげたため使用人達が集まり始めていたが……生憎とアフターフォローは管轄外。無責任と言われようが話の通じぬ此奴らには、吾輩達の行動は意味不明にしか映らぬであろう。ゆえに、後のことは任せるに限るのである。言い訳は話の通じる創造主と合流してから行うのだ。
吾輩は〝良い仕事をしたな、ハリセンよ〟と満足げに頷きながら、ハリセンと共に創造主の部屋へと向かう。
その途中、ハリセンから悩み相談をされた。
どうやら、タンスの奥底にしまわれるのではなく……もっと活躍したいらしい。
『ぴよ、ぴーよぴよぴよぴよ(意訳:ならば、お主も進化するしかなかろうよ。今のお主は傀儡師の傀儡化を解くしか出来ないのだから)』
此奴は対傀儡師特化の能力だ。それ以外に使いようがない。
ゆえに、吾輩のように能力を進化させるしかないだろう。アリエスの役に立つように。アリエスを守れるように。
ーー(多分)これからも探索系の進化しかしないであろう吾輩の代わりに、アリエスを守れる剣であり盾となれるように。
吾輩の話を聞いたハリセンは、やる気を激らせている。その素直な姿は好感を抱ける。
『ぴよぴよ〜(意訳:吾輩も協力してやろう、ハリセンよ)』
ゆえに、吾輩はそう申し出る。
進化経験済みの吾輩が手伝えば、多少の助けにはなれるはずだ。
本当、吾輩は良い仕事をしているのである。
これもアリエスと創造主を影から守るため。
恙なくイチャイチャ出来るようにしてやるため。
全ては……アリエスの幸せのため。
だがしかし……吾輩、こんだけ頑張っておるのだから、ご褒美にとうもろこしの種を貰っても良いと思うのである。うむ。
吾輩は、そんなしょうもないことを思いながら……創造主の部屋へと戻ったのであった。




