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第51話 ルイ君、大人の階段登る


シエラ目線→アリエス目線で参ります〜。


ちょっとR-15?かも?

それでは〜よろしくどうぞ!

 






『シエラ〜! ルイ、帰って来た〜!』

『転移したみたいだよ〜!』

『アリエスのとこ〜!』




 精霊達からの報告で義弟であるルイ君が帰って来たことを知った私は……編み物をしていた手を止めて、サロンからアリエスさんの部屋へと向かったわ。




 面会謝絶宣言が出されてから三日ーー。

 五年前からほぼ毎日一緒にいた二人だもの。きっと、精神的にかなり参っていることでしょうね。

 そして、それは……この子達も。


「………ぁ……シエラ、様……」


 不安げな様子で部屋の前に立ち尽くすセリナとセル。

 アリエスさんが部屋に篭っていることは聞いていたけれど……この子達、朝からずっと部屋の前でウロウロしていたのかしら?

 ……仕方ないかもしれないわね。

 セリナは良くも悪くも責任感が強過ぎるからこそ。

 セルの方は叶わぬ想いを抱いているからこそ。

 全てを拒絶していきなり引き篭もったアリエスさんが心配で、他のことなんて手をつけられなかったのでしょう。

 私は二人を安心させるために、なるべく穏やかな声音で声をかけたわ。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。安心なさいな」

「ですが……急に部屋に篭ってしまわれてぇ……」


 セリナは手を握り締めながら、目を伏せる。

 ………あら。アリエスさんから何も聞かされていないのかしら?

 説明する余裕がないほど、情緒不安定だったのか……それとも、説明する必要はないと判断したのか?

 アリエスさんが引き篭もっている理由を、私が言っていいものなのかしーー……。



『ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっ!?!? 助けてく ださいっ、シエラさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ルインさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』



「「「!?!?」」」


 唐突に扉の向こうから響いたSOSに、私達は息を飲む。


「アリエス様っ!?」


 一番初めに動いたのはセリナ。

 彼女は悲鳴に近い声でアリエスさんの名前を呼びながら、扉の取っ手に手をかける。

 そしてーー。


「アリエスさーーふわっ!?」



 扉を勢いよく開け放つなりーー〝ビキーーンッ!〟と硬直してしまったわ。



「…………」


 じわじわとセリナの顔が赤くなっていき、ぱくぱくと魚のように口を開閉させる。

 そんな姉の姿に焦れたのか、セルが後ろからセリナの肩を掴んで動かそうとする。


「姉ちゃん、何してんだよ! 退いーーっ!?」


 けれど、中の様子を見たセルも同じように……〝ビキーーンッ!〟と顔を真っ赤にしながら硬直したわ。

 完全に固まってしまった姉弟を尻目に、私も中を確認する。


「あら……」


 実際に中の様子を見て、二人が固まった理由を理解した。

 だって……そこに広がっていた光景は、かな〜り目に毒だったんだもの。

 ベッドの上で顔を真っ赤にしながら抱き合う、ルイ君とアリエスさん。

 はぁはぁと荒い呼吸を零すルイ君と、幼い見た目に反してとろんっとした顔をするアリエスさんは……そうね。かなり、破壊力がある姿と言うべきかしら?

 自身の娘ながらに無駄にお色気ムンムンなシェリーに負けず劣らずなアッハ〜ン♡な光景に、私は口元を手で隠す。

 ついでに耳元で聞こえた精霊の言葉に、私は驚かずにいられなかったわ。


『あっ。ルイ、発情してるっぽい?』

『うわうわ! ルイも発情出来るんだ!?』

『今の今まで発情なんてしてなかったのにね!?』

『アリエスと関わると成長が著し過ぎて驚き〜!』

『というか、ルイに吊られてアリエスも発情気味?』

『なんか二人、繋がってるっぽくない?』

『だからかも!』

『まぁ、とにかく……おめでたいね〜!』


 …………。

 …………………。

 ………………あら。発情してるの?

 それも……初めて、ですって?


「あうあうあうぅぅ……」

「…………うぅぅぅ……」


 二人ともかなり動揺しているのか……私達が見ていることに気づかない。

 それどころか、とーってもテンパっているみたい。

 ……まぁ。初めての発情+欲を向けられている状況……なんて、動揺しないはずがなーー。


「助けてぇ……アリエスぅ……ボクの身体……どうしちゃったの……? 何が起きてるの……? 熱い……どうしたらいいか……分かんないぃぃ……」


 ………涙声でそう呟くルイ君の姿に、私は何故かーー嫌な予感を感じたわ。

 まるで、何も知らない幼子のような言葉にーー……。


(精霊達に聞くわ。ルイ君って……性知識、あるのかしら?)

『え?』

『え?』

『え?』


 キョトンとする精霊達に、私の予感が的中したことを悟る。


『………………ない、かも、しれない、かな?』

「…………」


 ………私はスッと目を閉じた。

 だって、流石に義弟の性教育をする訳にはいかないじゃない?

 ということはーー……。



「ルイン、来て頂戴。私の手には余るわ」



 実の兄であるルインに任せるのが、この場における一番の最善だってことよね。





 その後ーー転移して来たルインは、精霊達による状況解説を聞き……爆笑し……。

 大きな笑い声を出しながら、「初めての性教育(笑)をしてくるね」とルイ君を回収していったのだった。




 勿論、私の方はアリエスさんを回収したわ。

(※なお、本件はデリケートな問題なので、セリナ達には夕食の手伝いに回るよう命じたのでした。)






 *****






「大丈夫かしら?」




 シエラ様の声で我に返った私は、ハッとした顔で辺りをキョロキョロと見渡す。

 燦々と陽の光が差し込む大窓に、ふかふかのクッションが沢山置かれた長ソファが二脚。その間には編み物セットが乗っかってるローテーブル。

 あれぇ!? いつの間にかサロンに移動してる!?

 私は、向かいのソファに座ったシエラ様に……焦りながら質問をした。


「あ、あの……ルイ君は!?」


 余りにも鬼気迫る様子だったのか……シエラ様は驚いたように目を見開く。

 彼女は、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せながら……首を傾げた。


「あら? ルイ君のことが心配? 〝助けて〟と言ったのは、アリエスさんなのに」

「うぐっ!」


 どうやら……私のテンパりSOSを聞きつけて、動揺している間にここまで連れて来られたらしい。

 シエラ様は〝にっこり〟と……かなりの圧を感じさせる笑みを浮かべながら、言葉を続けた。


「私達に助けを求めるぐらいだもの。ルイ君にとっても嫌なことされたのね。でも、安心して頂戴。私達に助けを求めた以上、ルイ君にはきっちりと〝()()〟しておくわ」

「!!」

「貴女が望むなら、もう二度と……嫌なことをさせないように」


 強調された〝教育〟という言葉に、私は血の気が引く。

 いや、だって……シエラ様、すっごく恐いんだもん……。目が笑ってないんだもん……。

 そんなシエラ様の姿を見ると……嫌な予感が……ルイ君がとんでもない目に遭ってしまうような気がして……顔面蒼白になってしまう。

 私は思いっきり顔を横に振って、ストップをかけた。


「ち、違います! ルイ君はなにも悪くないです!」

「……でも、助けーー」

「そりゃーいきなりあんな色気マシマシを向けられたらね!? えすおーえすぐらい、出したくなるよ!?」

「………嫌だったんでしょう?」

「嫌じゃないですっ! だって、ルイ君が私のこと、ちゃんと女だと……私のこと、意識してるってことでしょ!? 全然、嫌じゃないっ!!」


 ーーシィィン……。 

 …………静まり返るサロン……。私は思わず、遠い目をしてしまった……。

 だってさ……? 今、私、すっごい恥ずかしいこと言ったよね……? いや、まぁ……本心だけどさ……?

 思わずSOS出しちゃったのは……ルイ君の色気に負けて、動揺したからで……別に嫌だった訳じゃないの。

 というか……うん。今更ながらに喜びが込み上げてくる。

 疑っていた訳じゃないけど、〝愛してる〟って言葉だけじゃなくて……そういう欲も向けられた方が、ちゃんと女として愛されてるって安心感があるでしょ……?

 私は恥ずかしいんだか嬉しいんだか、なんかもうなんとも言えない気持ちになりながら……熱くなった頬を両手で覆った。


「ふ、ふふふっ……」


 そんな中ーー唐突に響いた笑い声。

 鈴を鳴らすような軽やかな音に、私はゆっくりと顔を上げる。

 まぁ、この部屋には二人しかいないんだから笑っているのは必然的にシエラ様になる。視線の先にいる彼女は、目尻に浮かんだ涙を拭いながら今だに笑い続けていて。

 でも……流石に悪いと想ったのか、今度は優しい笑顔を浮かべて口を開いた。


「ふふふふっ……ご、ごめんなさいね……? 悪ふざけが過ぎたわ」

「……………わる、ふざけ」

「えぇ。あまりにも面白かったから揶揄からかってしまったの。大丈夫よ。本当は全て、ちゃんと分かっているから」

「………………ふぇ?」


 …………思わず、気の抜けた声が漏れる。


「ちなみに……ルイ君は今、ルインから〝初めての性教育〟を受けてるだけなの。だから、そんなに心配しなくて大丈夫よ?」

「…………」


 つまり……ルイ君への〝教育〟とは……性、教育。

 恐れていた(?)ような事態にならないことを理解した私は……ソファの上にぐでっと崩れ落ちた。


「よかった……! シエラ様がっ……めっちゃ恐いから……! ルイ君が、とんでもない目にあうかとっ……!」

「ある意味はとんでもない目かもしれないけれどね。あの歳で初めての性教育だもの。恥ずかしいんじゃないかしら」

「というか、初めて!? そーゆーこと、何も知らなかったっていうの!? だから、ルイ君もテンパってたの!?」

「えぇ、そうみたい。精霊達も性教育を忘れていたみたいでね? ルイ君自身も、性欲を抱いたことがなかったから……すっかり忘れていたみたい。私達も気づかなかったわ」


 ……そういえば……ルイ君、精霊に育てられたから常識がぶっ飛んでるって言ってたね……。

 成る程……なんの知識もなかったら、あぁなーー……。


「まぁ、何はともあれ。ルイ君はこれでまた一つ、大人の階段を登ったということだけど……エッチなことは、大人になってからじゃなきゃ駄目よ? 精神年齢大人でも、身体は子供……犯罪だからね?」

「ぶはっ!?」



 唐突にぶっ込まれたシエラ様の爆弾発言に、私は思いっきり噴き出す。



「きゅーに爆弾、落とさないでくださいます!? そこらへんの分別はつきますから!」






 思わず怒鳴った私は、決して悪くないと思いました(マル)






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