第50話 ヤンデレに染まった愛の言葉で仲直りを
ヤンデレ、マシマシ(?)で参りまーす!
若干、R-15です〜。
※ アリエスは見た目は幼女ですが、中身は成人しておりますので……そこを忘れずに!
それでは〜今回もよろしくどうぞ!
「アリエス」
一瞬、幻聴かと思った。
閉じていた瞼を上げれば、そこには泣くのを堪えながら微笑むルイ君の姿。
その姿を見た瞬間ーー私の目から、ボロボロと涙が溢れ出た。
「ル、ルイ、君っ……!」
バッと身体を起こして手を伸ばす。
慣れた手つきで私を膝に抱き上げた彼は、ぎゅうっと強く抱き締めてくれる。
三日ぶりの温もりに更に涙腺が崩壊した。私はぴーぴー泣きながら……離さないと言わんばかりに、ルイ君にしがみついた。
「あ、会いたかったよぉぉ……! ルイくぅぅぅん……!」
先に彼のことを拒絶したのはこっちなのに、それを棚に上げて、私はそんなことを言ってしまう。
でも……あの時は、仕方なかった。
それぐらい、怒ってたんだから。
「…………ごめんね。面会謝絶って言われてたのに、我慢出来なくなって会いに来ちゃった」
「う、うんっ……」
「もう、面会謝絶は解除でいい?」
「いい……! いいよぉ……!」
「ありがとう」
ホッとした吐息が、耳に響く。
……その様子に、どうやらルイ君も面会謝絶がかなり効いていたらしいと、理解した。
「……ごめんね、アリエス。君をそんなに怒らせて」
ルイ君からの謝罪に、私はピクリッと震える。
ほんの少しだけ身体を離して……ジト目で、彼を睨んだ。
凹んでいた気分がちょびっとだけ持ち上がって、ほんの少しだけ怒りが再燃する。
「私が怒ってるりゆー、ちゃんと分かってるの?」
「分かってるよ。ボクがアリエスがアリエスじゃなくてもいい……なんて考えてたからでしょ?」
「そう……そう、だよ!」
ポスポスッと彼の胸元を殴る。子供の手だから、そんなに威力はない。
だけど、ルイ君はとても痛そうに……顔を歪めていた。
「私は! ルイ君じゃなきゃイヤなのにっ……ルイ君は私が私じゃなくてもいーなんてっ……! 許せるワケないでしょぉっ!?」
「うん」
「ルイ君にとってのアリエスはっ……! 私じゃなきゃイヤなのっ……! ルイ君のアリエスはっ……私だけっ、だよ!」
「うん、そうだね。ボクのアリエスは……君だけ、だ」
「ほんとーに分かっての!?」
「本当に、分かってるよ。最初は君じゃなくてもいいと思ってたのは否定しない。でも……ちゃんと考えを改めたんだ。ううん、実際に君の姿だけど君じゃないアリエスと話して、ちゃんと理解した。ボクにとってのアリエスは〝今の君だけ〟だって。だからね? アリエスに頬っぺた叩かれる前に……ボクはもう、君だけがボクのアリエスだって……思うようになってたんだよ?」
………………。
……………………………。
…………………………………………………。
「え?」
私は大きく目を見開いて、固まる。
いや……え? ちょっと、待って?
「…………ドウイウ、コト?」
片言になった私は、きっと悪くないはず。
ルイ君は苦笑を零しながら、今の今まで隠していたことを話してくれる。
異なる世界の話、異なるルイ君の話。
自身の身に宿る異なる世界の邪神のこと。
《邪神兵団》のこと。
私の能力のこと。私の中にある沢山の前世と、そのデメリット。
召喚術のデメリットを補うために、ルイ君が私を溺愛してたこと(勿論、それだけが理由で溺愛してた訳じゃないらしい)。
ネロさんの事件で起きた、私の変化。
私じゃない私と実際に話して、その変わりようを実際に見て。自分のアリエスは〝私だけ〟だと考えを改めたこと。
ついでに……その前世の一人格に諭されて、隠し事を止めることにしたこと。
…………全てを聞き終えた私は暫く思考停止に陥った。
そしてーー……。
なんかこう、タイミングが悪かったがゆえにこんなことになったんだと理解した。
「……い、いろいろと、ツッコみたいところはあるけど……まぁ、それは置いといて……じゃー……何? ほんとーは……面会謝絶とか、無意味だったってこと……?」
「………まぁ。アリエスを怒らせるようなことをしてたのは事実だから……なんとも言えない、かな」
「………………」
「ごめんね、アリエス。色々と隠してて。不安にさせたくない……ってのもあったけど、どこかで不安を感じてて欲しくて。不安ゆえにボクにもっと依存してくれないかなぁ〜なんて、だいぶ最低なことを考えてたのも本当だよ」
「……………………………………」
「でも、アリエスが大切なのは真実だから。それだけは疑わないで」
…………なんて……言うか、ね?
なんかこう、容量過剰だよ? いきなり、ぶっちゃけ過ぎだと思う。
…………………うん……うん……。
なんか考えるのちょっと面倒くさくなっちゃった。多分、人はこれを思考放棄とか言うんだろうね。
………取り敢えず……私は、一番大事なことをルイ君に確認することにした。
「…………ルイ君」
「なぁに?」
「とっても大事なこと。一つだけ、聞きたいの」
「うん。一つと言わず幾らでも」
「私のこと、好き?」
私の質問に、ルイ君はにっこりと微笑む。
ハイライトの消えた……グルグルと渦巻いた黒い紋様が浮かぶ、濁った真紅の瞳に見つめられて、私は息を呑んだ。
「うん。君のこと、好き、大好き。とっても……愛してる。君がボクを殺したいと思うならば、それを厭わぬほどに。君が望むなら……世界を滅ぼしても、構わないほどに」
…………重過ぎる愛の言葉に、私は大きく目を見開く。
「…………ふぅ」
私は、止めていた息を深く吐いて……無意識に強張っていた身体をリラックスさせた。
緊張? 恐怖? …………ううん、違う。
これは……歓喜、だ。
……………だって……私に殺されちゃっても良いって思っちゃうぐらい、好いてくれてるんだよ?
私のためなら、世界すら滅ぼしちゃうって言ってくれてるんだよ?
……そんなにも私のことを好きていてくれるなんて……愛してくれるなんて……嬉し過ぎる。
あー……もう。うん。それが聞けただけで、全部どーでもよくなっちゃった、かも。
…………。
……………。
………やっぱり、嘘。全部がどうでもよくはない、かな。
「……これから、隠し事はきんしね」
「うん」
「面会謝絶もだめ」
「そうだね」
「離れるのは、もう二度といや」
「うん……うん。アリエスに会えないとか……本当に辛過ぎる」
しみじみと言うルイ君。
………たかが三日程度と思うかもしれないけど、この五年間でこんなに離れたこと自体が初めてだったんだもの。
離れたことで不安定になったのは、私だけじゃなかった。
…………私達、互いに互いで依存しあってるね。全然、嫌じ ゃないけど。
「あとね」
「うん、なぁに?」
私は一回、深呼吸をする。
覚悟を決める……んじゃない。ただただ、事実だけを告げるだけ。
「私も……ルイ君のこと、愛してるよ? あなたに嫌われたら死んでしまいそうになるぐらいに。あなたが私から離れようとするなら……殺したくなってしまうほどに」
「…………!」
ルイ君が驚いたように目を見開く。私も自分が思うよりも低い声が出て、驚いた。
でも、これは本心だから。
私は、ルイ君じゃなきゃ駄目なの。ルイ君にとっての大切な人が私じゃなきゃ嫌なの。
だから……貴方に嫌われたら、手放されたら生きていけない。
もしも、君が私以外を好きになろうとするなら。私を手放そうとするなら……。
ーーーールイ君のことを殺してしまうかもしれないけど、それも仕方ないよね?
「……………」
「……ルイ君?」
「…………………」
「おーい?」
顔を真っ赤にしたまま固まったルイ君の顔の前で、私は手をひらひらと振る。
……。
…………。
…………本当に反応がないんだけど。これ、どうすればいーー……。
「………うひゃっ!?」
ーービクリッ!
私は唐突に感じた感触に、飛び上がった。
え? えっ!?
この……お尻に感じる……か、硬……むにゃにゃは……えっ!?!?
「ルイ君!? なーー……っ!?」
驚きのあまり悲鳴に近い声でルイ君の名前を呼ぶ。
でも、次の言葉は続かなかった。
だって……ルイ君っ!! 顔を真っ赤にしながらっ、とんでもなく色っぽい顔してるんだもんっ……!!
ちょっと!? 何このとんでもない顔っ!?!?
凄まじいんだけど!?!? シェリー様なんて相手にならないぐらいっ、エロい顔してるんだけどっ!?!?
ルイ君の色気に当てられて、顔を真っ赤にした私に向かって……彼は困ったような顔をする。
そして……震える声で、呟いた。
「…………何これ……? ボクの身体……どうなってんの……? なんかよく分かんないけど……身体が、熱い……」
「……………えぇっ!?」
熱い吐息を零しながら、ルイ君は熱に侵された瞳で私を見つめてくる。
……ど、もう見ても……その……ムラムラ、してる……感じ、っぽい……よね……?
「な、なんで……急に……?」
「………わ、分かんな……アリエスの言葉を、聞いたら……なんか……なんか……ぐわぁって……こう、腹の底から込み上げてくるモノが……」
私の所為!?!?
「アリエス……ボク……どうすれば……いい……? どうすれば、これ……治る……? 分かん、ない……助け、て……?」
赤く染まった頬。潤んだ瞳。
僅かに開いた唇から覗く……舌の赤さ。
………あまりの刺激的過ぎる光景に私はーー。
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっ!?!? 助けてくださいっ、シエラさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ルインさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
第二(?)の保護者へ、SOSを叫んだのであったーー……。




