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第49.5話 恋のキューピッドならぬ恋のひよこ


ひよこ目線(見習い開始三日目、第48話後)→ゲイル(ルイの同僚)目線でーす。

イケ(メン)ひよこに胸トゥンクして下さい(笑)


それでは〜よろしくどうぞ!

 






 吾輩はひよこ。ひよこである。



 まぁるい艶黒ボディに輝かしい赤目を持つ、手の平サイズの愛らしい美ひよこである。………決して、創造主とそっくりな色合いとは言ってはいけない。


 そんな吾輩は今、とある幼女(偽)に仕えている。

 物理的に光っている薄水色のふわふわな髪にコバルトブルーの瞳。吾輩に負けず劣らずのまぁるい幼女ボディに、成人した精神を持つエルフだ。

 名前はアリエス。なんともまぁ数奇な運命の星の下に産まれてしまった憐れな幼女である。

 まぁ、そんなことを言っても吾輩はアリエスが大好きなのだが。邪神(アリエス大好き〜♡)由来で創られたというのもあるが、アリエスは能天気である。良く言えば、性根が良い。

 そういう訳で……色々とひっくるめて、吾輩はアリエスが大好きなのである。



 そのため……吾輩はフライ・オンすることにした。



 うむ? 唐突過ぎて意味が分からない? 否、事は簡単である。

 アリエスが泣いているから、フライ・オンしたのである。



 ぶっちゃけ、今回は阿呆阿呆しい痴話喧嘩である。

 タイミングが悪いとも言う。全てを見ていた吾輩は分かる。

 ルイはアリエスをただ一人のアリエスだと理解出来たのに……アリエスはそれを知らぬ。その上で、アリエスのちょっと前までの考え方を知ってしまったのだろう。


 だから、こんな風にすんばらばらしいぐらいにすれ違ってしまっているのである。


 ゆえに、吾輩は飛んだ。

 アリエスの憂いを取り除くために。 



 ーーーーいつまでもウダウダしている創造主のケツを叩いてやるためにーー。



『ぴぴぴ〜! ぴ〜ぴ〜ぴ〜ぴぴ〜!』



 ぱたぱたぱたと軍部まで飛んだ吾輩は、軍部の中庭で暗黒を纏う創造主を見つけた。

 足元まで伸びた黒髪に、こめかみ辺りから生えた捻れた黒い二角。禍々しい淀を足元からコポコポと溢れさせるその姿は……うむ。まさにーー邪神。

 遠くでどっかで見たことがあるような平凡そうな男がギャーギャー騒いでいたが……吾輩はそれを無視して、勢いよく創造主の頭にくちばしをブッ刺した。


 ーーぶすっ!!


「……………ア"……?」


 濁った真紅の瞳。ぐるぐると変な黒い模様が走った目で見つめられ、吾輩は呆れる。

 そんなことしている暇があるんであれば、アリエスを慰めに来ぬか、阿呆め。


『ぴぴっ』

「え? アリエスがボクに会えなくて泣いてる?」

『ぴぴぴっ』

「………アリエスがボクに会いたいって言ってくれてるって!?」


 吾輩はアリエスの状態を伝えてやると、創造主の姿は徐々に元に戻り始める。


『ぴぴぴぴぴっ』


 〝とっとと転移せぬか!〟と怒鳴ると、次の瞬間には創造主が目の前から消えていた。

 うむ、それで良いのだ。吾輩の手を煩わせるでない。

 お主らはそうやって周りのことを考えずにイチャコラしておれば良いのだ。

 吾輩は幸せなアリエスを見るのが好きなのだから。


『ぴぴ〜』


 吾輩は額を拭うような仕草をしてから、ぱたぱたと来た空を戻り始める。

 …………速さを優先したため咄嗟に〝とっとと転移しろ〟と言ってしまったが……吾輩も一緒に連れてってもらえば良かったかもしれぬ。また飛んで帰るのは……微妙に面倒くさい……。

 まぁ、二人っきりの時間を与えてやったのだと考えればいいか。吾輩の定位置はアリエスの頭の上だ。

 イチャイチャしてるであろう二人の間に吾輩が混ざるのは……お邪魔虫をしているようなモンである。

 吾輩、空気が読めるひよこなのだ。大人しく帰るとしよう。


『ぴぴぴ〜♪』



 吾輩は達成感に包まれながら……再度、広大な空へフライ・オンしたのであった。





 *****





 ーーーー時を少し遡り……。




 第一部隊の消耗品補充の依頼書を提出した帰り道ーー中庭に面した外回廊を歩いていたオレ(忘れている人もいるかもしれないけど、ルイの同僚ゲイルでっす)は、中庭に置かれたベンチに座って……負のオーラを放ちながら空を見上げるルイを見つけた。いや、見つけてしまった。


「…………」


 思わず立ち止まり、ジッと見る。

 漂う哀愁がヤバい。背景が真っ黒だ。とんでもなくヤバい。なんかイケナイモノを召喚しちゃいそうな闇っぷりだ。

 ぶっちゃけ、嫌な予感がする。関わらない方が良いと本能が叫んでいる。

 でも、なんかヤバそうな(今の)状態の知り合い(ルイ)を放置するのも気分が悪い(もっとヤバそう)っていうか……。

 ……。

 …………はぁ。

 オレはガシガシと頭を掻きながら、ルイの方へと歩み寄った。


「よう。どうしたんだ、ルイ。死んだ魚みたいな目してるぞ?」


 濁った真紅の瞳を向けられて、オレの頬が引きった。

 顔が綺麗な人が、こんな顔をしてると、不気味という言葉以外、思いつかないデス。めっちゃ怖ぇっ!!


「………………あぁ。ゲイルか……」

「なんかヤバそうだな。悩み事でもあるのか? 話ぐらいなら聞いてやれるぞ?」


 ーーガシッッ!!

 その瞬間、オレは選択肢を間違えたことを悟りました。


「本当に? 相談に乗ってくれるの? ボク、ボク、ボクっ……もうっっ……!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあっ!? 肩、骨、折れるっ……折れるぅぅぅう!!!!」


 ピキピキピキッ……と危険な音がしたのは気の所為じゃないはず。

 オレの訴えが功を奏したのか、ただのタイミングなのかは分からないが……ルイは泣きそうなほどに顔を歪めて……ガバッと両手で顔を覆った。


「もうっ……もう三日もアリエスと面会謝絶なんだよぉぉぉっ!! ボク、ボクッ……!! アリエスに嫌われたらどうしよぉぉぉぉぉぉぉお!!」

「……………」


 ……………はい。ルイから話を詳しく聞きますと。

 どうやらちょっと前までアリエスちゃん(あの、ルイがクッソ溺愛してる幼女ちゃんか)に対してかなり失礼な考えをしていたらしく。

 でも、その考えを改めたタイミングで、アリエスちゃんにそれを知られちゃって。

 弁解をする前に怒ったアリエスちゃんによって、面会謝絶を言い渡されてしまった……と。

 …………うわぁ……。


「なんてタイミングの悪い……」

「アリエス……アリエスに会いたいよ……」


 唸るルイを見つめながら……オレはなんていうか……その、若干の感動を覚えていた。

 いや……だってさ? オレの知ってるルイって、仕事は出来るのに他人に興味を抱かないタイプの奴だったからさ。

 こんな風に誰か(幼女だけど)を大切にしたり、(幼女のことを)溺愛したり……相手のこと(…………コイツ、いつか一線越えたりしないよな……? 大丈夫だよな……? 同僚を捕まえるとかスッゲー嫌だぞ……?)でこんなに悩んだりするような奴じゃなかったって言うか……。

 あぁ、うん。人間味が増して、やっと中身が成長している感じがして……子供の成長を喜ぶお父さんのような気分を味わっているようだった。

 まぁ、それはいいとして。


「ちなみに……アリエスちゃんを怒らせるような失礼な考えってなんだったんだ?」

「アリエスの中身が変わっても、アリエスなら愛せるって思ってたこと」

「………………はい?」

「…………アリエスの記憶がなくなったり、性格が変わったり、今のアリエスがアリエスじゃなくなっても、大切に出来るって思ってたことだよ」


 ……………。

 ……………え? それって、つまり……今のアリエスちゃんが消えても、外面がアリエスちゃんなら愛せるって思ってたってこと……?



「…………そりゃ、普通に考えたら嫌われるんじゃね……?」



 ーーぴしゃーーーんっ!!

 心の中で呟いたつもりが、どうやら口に出てしまっていたらしい。

 ルイは衝撃を受けたような顔で固まり、瞬きすらしなくなる。

 そしてーー……。



 ーーズモモモモッ……。

 ルイの髪の毛が……東方の島国に伝わるという呪いの魔道具(人形)の如き勢いで伸び始めた。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!?!?」


 オレは叫びながらルイから距離を取った。

 というか、距離を取らずにはいられなかったよね!!


「あは、あはははははっ……アリエスに、嫌われる……嫌われる、かぁ……うぅぅ……」


 こめかみ辺りから捻れた黒いツノが左右から生え始め、目にぐるぐると変な黒い模様が浮かび上がる。

 ルイの足元には黒い泥みたいなのが広がり始め……プツプツと泡を立てながら、腐った臭いをーー……って、マジで草が腐ってやがるぅぅぅう!?

 オレはそこでやっと、自分が一番言ってはいけなかったらしいことを言ってしまったのだと気づいた。

 遅過ぎですねっ、オレの馬鹿!!


「…………アリエスに嫌われるなら……アリエスに嫌われるような世界……消えちゃえばいいんだ……うん、そうしよう……ボクごと消そう……うん……」


 ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!!

 何がヤバいって? なんかもう色々とヤバい!!

 目がイッてやがるし、この感じだと本当に世界を消しそうで恐いっっ!!

 いや、オレの失言が悪いんどけどね!? でも、なんでこんなに直ぐに闇堕ちしちゃうかな!?

 こんなんまるで、病んでるみたいなーー………あ。


 ーーサァァァア……。


 オレは顔面蒼白になりながら、思い出しました。

 エクリュ侯爵家ーー。

 百年以上続くその一族は、精霊王の血を引くためとんでもない力を持っているという。しかし、その力の代償として……ある欠点デメリットを背負っているという。


 それはーー……ヤンデレ。


 それは病んでしまうほど愛してしまうという……よく言えば超重い溺愛体質。悪く言えば、狂気的な病気。

 オレの知ってるルイは淡白だった全然そんなイメージなかったけど……エクリュ侯爵家の血を引いているというならば。

 そうであるならば、保護者として保護対象であるアリエスちゃんを溺愛していたルイがこんな風になってしまうのも想像に容易い訳でして。



 本当、オレ、馬鹿やらかしましたねっっ!! 畜生っ!!



「ルイ、ルイ、ごめん! 話を聞いーー」

「こンな世界……失クナーー」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁあっ!! もう駄目だぁぁぁぁーー……と。オレは思ったのですが。




『ぴぴぴ〜! ぴ〜ぴ〜ぴ〜ぴぴ〜!』



(多分)世界が終わりかけたのを救ったのはーー手の平サイズの丸いひよこでした。


 …………いや、なんでっ!?!?



 そこからはもうダイジェストでお送りしましょう。

 ひよこのくちばし、刺さる→ひよこと会話する→ルイ、消える→ひよこ、空に羽ばたく→残されたのはオレただ一人……。

 …………いや、マジで何これ?



「…………えぇぇぇ……?」




 その場に立ち尽くすしたオレは……困惑のあまり、暫くの間、ひよこが去っていった空を見続けていたのでした。








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