第47話 嫌がらせという名のお仕置き開始。
未来の??目線→(ダークヤンデレモードな)アリエス目線に参ります。
それでは〜よろしくどうぞ!
また彼女と会える。今度は一緒にいれるようになると聞いた時ーー最初に感じたのは喜びだった。
だって、オレにとってあの子は初恋の相手だったから。
キラキラと輝く薄水色の髪と、コバルトブルーの瞳。可愛い顔に、小さな身体。
…………流石に、五年ぶりに会ったのに何も変わってなかったのは驚いたけど。でも、寿命が長いエルフだって聞いてるからそれも仕方ないのかもしれない。
でもーーその時のオレは知らなかったんだ。
いや、分かっていなかった。
例え姿形は変わらずともーー彼女は確かに変わっていたってことを。
そして、今のオレはあの時のオレに一言言っておきたいと思う。
今すぐアリエス様に関わるのヤメとけ。
無駄に心に傷を負うだけだからーーと……。
*****
セリナを説得してから最初にしたのは、シエラ様に会うことだった。
だって、報・連・相は大事だもん。これからすることは、まぁまぁなことだから……先に言っておかないとね。
それに……彼らへの接触禁止を言い渡したのは、エクリュ侯爵家だしね。接触禁止を解除する旨も、一応伝えておかなきゃいけないでしょう。
……シエラ様の乾いた笑みと「くれぐれも、程々にして頂戴ね?」という言葉は気づかなかったふりをすることにします。この件は、ルイ君に反省させるために必要なことなので。
という訳で。
まぁ、色々とありましたが……私は五年ぶりに、私を誘拐した犯人達に再会することになったのでした。
「入って」
扉のノック音に入室の許可を出すと、応接室の扉が開いて、二人の男の子が入ってくる。
顔を若干赤らめた動きやすそうな服装の茶髪の子と、子供用執事服みたいな服を着た緑髪の真面目そうな子。
真面目そうな子はスッとその場に膝をつき……深々と頭を下げて、謝罪の言葉を口にした。
「お久しぶりでございます、アリエス様。五年前は操られていたとはいえ、御身を危険に晒してしまい……申し訳ございませんでした。いかなる処分もーー」
「長い。しょぶんはしない。身をこにして、働いて」
「…………畏まりました」
彼ーーオリーだっけ? はゆっくりと立ち上がり、再度頭を下げる。
そして、改めて自己紹介をした。
「オリーと申します。本日より、アリエス様の侍従見習いとして働かせて頂くことになりました。どうぞよろしくお願い致します」
「…………」
「……セル」
「!」
オリーに脇腹を小突かれて、ハッとしたもう一人の子も、慌てて自己紹介をする。
「セルです! オレは護衛見習いとしてお側にいることになりました! よろしくお願いします!」
「「…………」」
ソファに座った私の背後に控えていたセリナと隣にいるオリーが険しい顔をしてから、私の方を見る。
セリナは申し訳なさそうな様子を隠さずに謝罪した。
「失礼致しました、アリエス様……弟がちゃんと挨拶が出来ないようでして……」
「いいよ。気にしないで」
「過分なお言葉、ありがとうございます……」
ぶっちゃけ、本心なんですけどね。
だって、〝見習い〟という言葉が付いているように、彼らが私の側につくのは〝お試し〟というか……〝ルイ君に対する嫌がらせ〟だもの。
シェリー様とのお茶会の時に出た……セルが私に好意を抱いているという話と、彼らが私の側仕えになりたいと申し出ていたという話。
それを聞いたルイ君は、セルが私の側仕えになることをとても嫌がっていた。とても不安を抱いていた。
だからこそ、今回のコレは〝お仕置き〟に最適だった。
私の側に私を好いている男がいる……。
近しい距離いるからこそ、私が〝ルイ君以外を好きになるかもしれない〟という、もしもが起きてしまうかもしれないという状況……。
そんな風に不安になれば良い。自分の愚かさを知れば良い。
後悔して、後悔して、後悔して、悔やんで、悲しんで、怒って、怨んで……もう二度と私に隠し事なんてしないと誓わせたい。
だって、隠し事なんて許せない。ルイ君のことはなんだって知りたいんだもん。
だから、頭の中がぜーんぶ私になってしまうように。
ーーーー苦しませてやる。
「うふふっ……うふふふふっ……」
口から溢れたドス黒い笑い声に、ピシリッと部屋の空気が固まる。
恋は盲目というか、セルは相変わらず頬を赤くしているけれど……セリナとオリーは、私の笑い声に顔面蒼白になっている。
あぁ……嫌な予感を感じちゃった?
まぁ、それを感じたところで関係ないけどね。
「ところで……もう一人、いたよね?」
「! メイサのことでしょうか?」
「そー。その子はどーしたの?」
私の質問に、オリーは若干遠い目をする。
…………なんだろう。彼が一気に老けた気がする。
「メイサは……その……五年前の件で、〝自分の意志がもっと強かったらセルを止められたかもしれない〟と、とても後悔したようでして……」
「うん」
「〝強い女になってきます〟と、現エクリュ侯爵であるルーク・エクリュ様の細君ミシェリア・エクリュ様のご実家、レティアント公爵家へ修行に出向いております」
「……………はい?」
「正確には、ミシェリア様のご両親……前々公爵夫人であるノエル様から暗殺者ーーごほんっ。失礼しました。メイド教育を受けております」
………。
……………。
「………………そ、そう、なの」
「…………はい……」
思わず引き攣った顔をしてしまった私は悪くないはず。
いや、だって驚かずにはいられないでしょう? これ。
五年もここで暮らしてるのに今だに会ったことないけど……ルーク様達のことは話には聞いたことがある。
でも、ルーク様の奥さんのご両親については……初耳だった。
というか……普通、公爵夫人だった人が暗殺者教育してるってどういうことなの……。
…………。
…………………。
まぁ、いっか。今回はセルぐらいしか必要じゃないし。
「………ごほんっ。メイサのことは置いておきまして……今後の予定をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか? アリエス様」
オリーはワザとらしく咳払いをしてから、本題に入る。
私はそれに乗っかって、頷いた。
「しばらく、ぐんぶには通わないの」
「そう、なのですか?」
「うん。ルイ君とはべつこうどー。当分は、お屋敷で過ごすよ」
「では、我々はアリエス様の生活のお手伝いをするカタチでしょうか?」
「ううん? セリナには側にいてもらうけど、オリーとセルは今まで通りでいいよ? 大事なのは、側仕えにしたっていうじじつだから」
「…………つまり?」
「うふふっ。聞いたらこーかいすると思うから、聞かない方がしあわせ、だよ?」
ーーにっこり。
優しく笑ったつもりだったんだけど、セリナとオリーは完全に硬直した。
あははっ、本当にルイ君が関わると私の中のネジが一、二本、五本ぐらい飛んじゃうなぁ〜。本当に困るよ〜。
「オ、オレは護衛見習いなので! 毎日側にいます!」
「「「…………」」」
「必ず守ります!」
…………そんな中で空気が読めない恋する男の子が一人。
頬を赤く染めながら、キラキラとした目で見つめてくるセルの空気の読めなさに……逆に思ってしまう。
(((これはこれで……大物かもしれない……)))
『ぴよ〜』
私の頭の上に乗っているひよこが、〝ただ馬鹿なだけだと思う〟と言っている気がしたのは、気の所為ではないと思う。うん。




