第44話 闇の中にて、ヤンデレアリエス覚醒(※厨二病ではありません。)
描き進めるうちに、あれー? なんでこーなったかなぁー? 的な感じになりました。
という訳で……シリアスは長く続かぬ。
それではアリエス視線で〜、どうぞっ!
そこは、深い深い闇の中だった。
ずるり、ずるりと下に引きずられる。上手く息が出来ない。闇が泥のように纏わり付いて、身体の自由が効かない。
ーーあぁ……私が、消えてしまう……。
薄れゆく意識の中で、私はそう悟ってしまった。
だけどーー。
ーーがくんっ!!
唐突に身体を縛り付けた鎖。
ギチギチと耳障りな音をたてながら、離さないと言わんばかりに雁字搦めに縛られる。
冷たいはずのその鎖が、何故か温かくて。流れ込んでくるその温もりに、理解した。
「…………ルイ、君……」
この鎖は、先程結んだばかりの、結婚の誓いだと。
私を繋ぎ止めてくれているのが大好きなルイ君なんだと理解して、私はほんの少しだけ泣きそうになってしまった。
『………狡い』
そんな私の耳に届いた、小さな声。
『狡い』
『ズルイ』
『ずるい』
『狡イ』
男とも女とも、それ以外ともとれるノイズ混じりの複数の声が響き渡る。
身体に纏わり付いていた闇が僅かなカタチを成した。それは、人の姿をしていたり……それ以外のカタチをしていたり……。姿すらも多種多様だった。
『ワタシだって、自由に動きたいのに』
『オレだって、好き勝手したいのに』
『なんで一番初めに出た程度で、お前が主人格になっている?』
『寄越して? 寄越して? その身体を頂戴?』
『空っぽの器。それを使うのはワタクシこそが相応しいわ!』
『違う、おれだ!』
『いいえ、私だよ!』
声は争いあって、互いに憎しみ合う。
その会話を聞きながら、私は〝そうだったんだ〟と一人納得してしまった。ううん、色々と理解して、安心していた。
だって……思わずにはいられなかった。
私が目覚めた時には私としての前世の記憶を思い出していたけれど……。
元の人格はどうなっていたのかなって、考えずにはいられなかった。
だって、ルイ君は私のことをアリエスと呼んでくれるけれど、私は前世の記憶を取り戻した存在って感じだったんだもん。
なら、この身体本来の持ち主は?
本物のアリエスはどうなっちゃってるの? って不安が心の隅に残っていた。
だけど、彼らの話が本当ならーーこの身体には何もなかった。空っぽだった。
本物のアリエスはーーいない。
私はーーこの複数の前世の記憶の中で一番に出たから、アリエスになれたんだ……。
そして……。
『チッ……なんで消そうとしてるのに、コイツの意識は消えない?』
『この鎖の所為。あの混ざり物が、この子の意識を繋ぎ止めてる』
『アイツの愛がこの女の心の隙間を埋めて、揺らぎ難くしてる』
『目障りな半精霊め……』
『違う、違う。今は邪神』
『どちらにせよ目障りだわ』
その言葉を聞いて、今度こそ私は泣き出してしまった。
そんな私が少しでも揺るがないように手助けしてくれていたのがーールイ君だったんだね。
きっと……彼は色々と知ってた。
でも、それでも黙ってたのは……私を不安にさせないため?
その心遣いは嬉しいけど……流石に、こういうことは聞かせておいて欲しかったよ、馬鹿。
帰ったら……沢山聞かせてもらおう。隠してたこと、話してないこと。
そしたら私は……もっと彼が好きになる。
『…………羨ましい……』
「っ……!?」
ーーねっとり……!
ドロドロとした手が私の頬を撫でて、背筋がゾッとした。
至近距離に顔らしきモノが三つ近づいて、眼球がある部分の虚の奥底が……それぞれの奥底で揺らぐ真っ黒な炎のようなモノが不気味過ぎて。恐怖から、無意識に喉が鳴った。
『こんなに愛されてて、羨ましい』
『わたしもこんな風に愛されたかった』
『ねぇ、ねぇ。あたくし、思うの』
どこかうっとりとした様子で、それらは語る。
『彼ならばーー……あの、邪神である漆黒の君であればーー』
………………は?
『どのようなアリエスであろうともアリエスならば愛してくれる彼ならばーー』
『っ!! この娘に成り代わったわたし達を愛してくれるーー?』
『!! あぁ、あぁ! 素敵、すてき、ステキ! なら早くこの娘を消してしまいましょう! 成り代わりましょう! わたくし、あの美しい男に愛して貰いたーー』
「ーー何言ってんの?」
ーーぶわりっ!!
熱い熱い風が私を中心に吹き荒れて、さっきまで溶けかけていた意識がハッキリとした。
お身体に纏わり付いていた重い泥も離れていく。鎖の温もりに手を伸ばしながらも、今はそれに対しての苛つきが隠せない。
今、コイツらはなんて言った?
ルイ君の代わりに、自分達が愛されよう?
それに……ルイ君は……。
アリエスがアリエスなら、私以外でも良いって言ってるって????
そんなのーー。
「ふざけないでよっ、ルイ君っっっっ!!」
ーーゴウッッッ!!
更に強い熱風が吹き荒れて、幾つかの泥達が悲鳴をあげながら逃げていく。
それでもイライラが止まらなかった。
何それ、なにそれ、ナニソレ。ふざけてんの、ふざけてんだな。
あんなにドロドロに溺れさせておいて、その癖して私以外のアリエスでも良い?
そんなの許せるか。許せる訳ないでしょ。
いや、まぁ……色々とご迷惑をおかけしてるとは思うけどね? 今だに養ってもらってますし、なんか気づかぬ内に色々としてくれてたみたいだけど。
でも、それでもそれはないと思う。
ルイ君の所為でルイ君なしじゃ生きれないぐらいにさせられちゃったんだよ?
愛してるって言われて、愛してるって返して。結婚までしたのに?
…………ルイ君の所為で、私にもヤンデレ感染だってしちゃったのに?
なのに、ルイ君から手を離すなんて……許せる訳ないじゃん。
……………。
………………………。
………………………………………。
「…………ふ、ふ、ふふふふふっ……」
そっかー。そっか、そっか。そっかー。
ルイ君がその気なら、こっちにだって考えがあるよ。
うんうん、ふはははっ。
……………………後悔させてやる…………(怨)
『…………えっ、なんかヤバいオーラが……』
『目、目が、据わって……』
『ありゃいかん。ありゃ逆らっちゃいかんヤツや』
「煩い。今、どうルイ君を後悔させるか考えてんだから、黙ってろ」
『『『口悪っっ!?』』』
「黙れって言ってるでしょ?」
ギロリッと睨めば、泥達は直ぐに押し黙った。
よし、それで良いの。目障りなことしたら、消すーー。
『…………一体全体、どういう状況ですか?』
鎖の先ーー多分、上? から聞こえてきた声に、私はゆっくりと顔を上げる。
そこにいたのは、他の泥よりも色が薄めの泥。
どことなく女性らしい雰囲気を纏ったソレは私と周りを見渡すと……不思議そうに首を傾げた。
『……どうやら何かあったようですが』
「だから?」
『…………何故か貴女が途轍もなくキレているようですが』
「だから?」
『…………』
無言で〝マジで何があった?〟って質問された気がしてけど、スルーした。
今の私は、ルイ君に対するイライラの所為で、そこまで丁寧な対応が出来ません。
『………まぁ、とにかく。彼らが貴女に纏わり付いていない以上、どうやらわたくしの手助けは要らぬようですね』
ーーがくんっ!!
ちょっとした衝撃と共に、ズルズルと身体が上へ上へと持ち上げ……引っ張り上げられていく。
感覚的に、ルイ君が引っ張っているんだと理解した。
…………また、怒りが増し始めた気がするぅ……。
『どうか彼とお幸せに。彼の隣にいるアリエスは、貴女だけなのですから』
「…………え?」
だけどーーその言葉に思考が停止する。
ひらひらと手を振る誰か。ほんの一瞬だけ、彼女の優しい笑顔が、見えた気がした。
ーーどぷんっ……!
たっぷりの水の中から出るような音と共に、視界が真っ白に染まる。
次に目を開けた時には……そこには、泣きそうな顔で笑うルイ君の姿。
「お帰りーーアリエス」
震えた声でそう告げた彼に私はーー。
「ただいま、ルイ君」
ーーばちぃぃぃーんっっ!!
怒りが再燃したので、笑顔で平手打ちをお見舞いしたのでした。
※なお、五歳児の手だったので、ダメージは殆どないようでした。チッ!
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