第39話 耳朶に響くは、邪神の囁き
???目線→???目線です。
なんということでしょう……! 二日連続更新に成功しました!
という訳で〜相変わらず不定期だけど、今後とも〜よろしくどうぞ〜!
気に食わない。
自分達よりも優秀な妹が。
気に食わない。
選ばれし精鋭が所属できる特殊部隊に所属する妹が。
気に食わない。
女であるのに、軍人をやっている妹が。
気に食わない。
家の駒でしかない自分達と違って、自らの足で立つ妹が。
気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わない。気に食わーー……。
「その気持ち、とっても良く分かるわぁ」
そっと肩に手を添えられて、耳元で囁かれた言葉。
深夜ーー寝室のソファに座ってグラスを煽っていた俺は、気配なく背後に現れた存在から直ぐに距離を取る。
漆黒のローブを纏った人がいた。いや、豊かな胸元から女か。
浅葱色の長髪が、顔を覆い隠すほどに深くに被ったフードから溢れている。
「何者だ」
「そうねぇ……折角だもの。名乗らせて頂こうかしら? あまり、好んでない名なのだけど」
警戒心が更に高まる。
けれど、女は艶やかな所作で……唯一覗く、ぽってりと厚い唇に弧を描く。
「わたくしの名前は……《***》」
「……《***》?」
「そう。うら若き乙女にそんな名前、酷いと思わない?」
クスクス、クスクス。女は笑う。
……さっきまで、警戒心が高まっていたのに。
何故か今はそんな風に思えない。
「まぁ、わたくしの名なんてどうでもいい話ね。話は戻るのだけど……貴方が怒りを抱くのは、当然のことよ」
そっと耳に響く声。
甘やかで、優しげで……毒のように染み渡る声。
「だって、貴方達の方がとってもと〜っても優秀だわ。それでも彼女が目立つのは……そういうコトをしているからじゃないかしら?」
ーーそういうコト?
あ……ぁ……あぁ、あぁあぁ、あぁ!!
「あの女はその身体を使って、権力に取り入ったのか!!」
だからアイツは、俺達よりも上にいるのだ!!
だからアイツは、特殊部隊なんかにいるのだ!!
なんて卑怯で!! なんて醜いことなのか!!
アイツの兄として、情けなくて仕方ない!!
「…………ふぅん。そう考えるのね」
「……? 何か言ったか?」
「いいえ。何も言ってないわ」
一瞬だけ口元を歪めた彼女は、何かを誤魔化すように、そう告げて……優しく語りかけてくる。
「だからね? 貴方達がちゃーんと評価されるように……わたくしが協力してあげるわ」
スッと近づいてくる女。
甘い匂いが鼻をついて、クラクラしてしまう。
白魚のような手に手を取られて、そっと包み紙を握り込ませられる。
「……これ、は……?」
「この包み紙の中身を、彼女に呑ませるの。飲み物か何かに溶かすといいわ。そうしたら……貴方が幸せになれるわよ」
思考が回る。
視界が回る。
世界が回る。
「…………分かっ、た……」
「では、頑張ってね? あぁ、そうだわ。わたくしのことは誰にも話しちゃ駄目よ?」
「…………あぁ……勿論、だ……」
「ありがとう。それではね」
そっと頬に落とされるキス。
あぁ……たったそれだけのキスで、なんて恍惚的な気持ちに……。
「…………あ?」
ふと我に返った俺は、辺りを見渡す。
今、誰かと話していた気が……。
「…………そんな訳ないか」
俺以外は誰もいない部屋の中で、そう呟いて……俺は自身が握り込んでいた包み紙に視線を向ける。
そうだ。これを呑ませないとーー。
部屋に微かに残った甘い匂いを嗅ぎながら……俺は再度、包み紙を手で握り締めた。
*****
月の光が届かない暗闇の中ーー。
路地裏で待っていたわたくしは、ケラケラ笑いながら現れた傀儡師をちらりと見る。
あぁも調子が良さそうなら、滞りなく終わったのでしょうね。
……本当。固有能力は優秀なのに、人格に問題ありよね。
「どーだったぁ?」
馬鹿にしたような声。
本当、不愉快極まりない態度ね。コイツは。
「問題ないわ」
聞かれたのだから……一応、聞き返した方が良いのかしら?
「そっちは」
「あははっ!! 誰だと思ってんのぉ? 傀儡師クンだよぉ!? 失敗するワケねぇーじゃん!」
「…………」
ケラケラと、ケラケラと。嘲るような笑い声。
………あぁ、失敗したわ。聞いたりするんじゃなかった。
「なら、構わないわ」
わたくしはクルクルと指先で毛先を弄りながら、そう答える。
すると……馬鹿な癖に変なところで目敏い傀儡師が、ニヤニヤと笑いながら、わたくしの前に回り込んだ。
「なぁに? 機嫌悪々なのぉ?」
嫌ね。コイツにバレるなんて本当に最悪。
でも、それぐらいにあの男は不愉快だった。表面上は笑っていたけれど、心の奥底では嫌悪感が満ち満ちていた。
けれど、それを素直に話すはずがない。
そんなことをしてしまえば……コイツは、いつまでもいつまでも。それでわたくしを遊び続けるでしょうから。
「…………帰還するわ」
わたくしは傀儡師を無視して、路地裏の奥に。更に深い闇に向かって足を進める。
後を追いかけて、前に躍り出て。後ろ歩きでこちらを見つめてくる傀儡師。
その顔には、子供のような拗ねたような表情が浮かんでいた。
「えぇ〜!? 教えろよぉっ!! いいじゃん、いいじゃん!! 教えてよ〜っ!!」
「嫌よ。貴方なんかに教えるはずがないじゃない。馬鹿な人」
「あぁっ!?」
「煩い。本当に煩いわ。今は深夜よ? 静かにしなさいな」
「なら素直にーー」
「嫌」
「このっ……!!」
傀儡師は無理やり、わたくしから話を聞き出そうと……腕を振るう。
……その動きは、相手を操るための動作。
傀儡師という名の通りに。相手を糸で操るが如き動作を、コイツは能力発動のキッカケとしている。
だから、わたくしは「ふぅっ」と息を吐いて、その身体に**を送り込んでやった。
「っっ!!」
ーーガクンッ!!
傀儡師の身体が傾き、その場に崩れ落ちる。
それを冷たく見つめながら、わたくしは溜息を零す。
本当に面倒くさい男ね。仲間じゃなければ、殺しているわ。
「お、前っ……!」
「面倒事は嫌いなのよ」
わたくしは魔道具を使って通信をする。
相手は……〝獣使い〟。
傀儡師を回収するように頼んで、わたくしは先に歩き出す。
「おいっ!! 置いてくのかよぉっ!!」
「そうよ。もう少ししたら迎えが来るわ。それまでそのままでいなさい」
「く、そぉぉぉ!!」
深夜だというのを考えずに罵詈雑言を大声で放つ傀儡師。
……一応、《静寂の魔道具》を発動しておいて良かったわ。
わたくしは只でさえ悪かった機嫌が更に悪くなるのを感じながら、また溜息を零す。
「………女を卑下するような男の相手をした後に、アイツの相手をするのは疲れるわ」
意識しなくても顔が歪む。
本当、本当に不快だったの。
男だからって女を卑下する奴。女という存在が全員、女であることを利用して媚を売っていると思ってるような奴。
彼女へ悪意が向かうように誘導したのは、わたくし。
悪いことをしているのも、わたくし。
でも、あぁいう答えに至ったのは……あの男が普段からそう考えているってコト。
「…………あぁいう奴こそ、とっとと消えてしまえばいいのに」
わたくしは髪を弄りながら、そう呟いた。




