第35話 この五年間で変わったこと、変わらないこと
スランプ? お疲れモード? による執筆遅延から微妙に復活〜……(多分)な島田です。
長らくお待たせしました。そして書いたら、これ、話が前後するやんっと思いました。という訳で、割り込みです。
まだびみょーに遅筆状態になりそうなので、気長にお待ちくださいませ。
新ネタばかり思い浮かんでて、本作品が進まねぇ進まねぇ。もしかしたら、気分転換で新作書くかもしれません。
まぁ、長々と書きましたが……今後とも、よろしくどうぞ!
あぁ。今夜もまた始まった。
静寂の帳が下りた、誰もが眠っているであろう真夜中。
ボクはゆっくりと起き上がり、同じベッドで隣に眠っていたアリエスの口から零れ落ちる言葉に耳を傾ける。
『*****、***……』
……うん。今夜の寝言は完全に理解できない異言語だ。何言ってんのかさっぱり分からない。でも、切羽詰まったり、苦しそうではないから大丈夫かな?
ボクはアリエスの頭を撫でながら、この五年間を。彼女の身に起きたことを思い返す。
本人は気づいていないけれど、確かに変わってしまったアリエスのことをーー。
五年前ーー。
あの〝傀儡師事件〟を起因に、アリエスは一層ボクから離れられなくなった。
それぐらい怖かったんだろうね。まぁ……自分が理由で他の人が死ぬーーなんて脅されたらそうなるか。
まぁ、それに悪用してボクとアリエスが一緒にいるのは当たり前だって甘やかして、愛して、溺れさせて、洗のーーごほんっ。教え込んだのはボクだから、ぶっちゃけ傀儡師君様々って感じなんだけどね。
でも、まさかこの溺愛が別のカタチで役に立つことになるなんて、思いもしなかった。
ボクがアリエスを溺愛する理由。始まりは、異なる世界のボクと邪神の干渉だったけれど、今ではボク自身の意思で彼女を可愛がっている。
加えてもう一つ。
ボクがアリエスを溺愛するのは、アリエスをアリエスでいさせるためだ。
どういうこと? って思うかもしれない。
まぁ、簡単に言えば……アリエスには、複数の前世があることが分かったんだ。
なんで分かったの? って聞かれたら、この寝言が答えだと言おう。
アリエスの寝言ーー。
それは、聞いたことのない、理解できない異言語だったり、男口調のモノだったり。楽しそうな声を出している時もあれば、切羽詰まったような時もある。
それに……〝来ないで〟とか〝死にたくない〟とか〝助けて〟とか。聞いてるこっちの心臓が抉られそうになるぐらいに、重苦しい悲鳴をあげる時もあった。
流石にね? ここまで多種多様な寝言を言うとなれば、普通じゃないって考えるでしょう?
それに……寝言が増えれば増えるほど、アリエスの召喚術は優れていくんだ。
これは、ボクと同化した邪神の記憶と知識を基に、推測したんだけどーー。
アリエスの召喚術と前世は、繋がっているんじゃないかって考えたんだ。
邪神の知識曰く。
召喚術は、何かしらの縁を持たないと召喚できない。つまり、アリエスの前世がその縁になっている可能性が高い。ゆえに、召喚術が長ければ長けるほど……その縁も強くなって。前世の記憶の残滓も表面化し易くなる。
つまり、今のアリエスは義姉様と同じ世界線(ぶっちゃけ、似たような世界であって完全に一致してるとは限らないらしい)の前世が前に出てるけど……それ以外の記憶が出てきて、アリエスがアリエスじゃなくなる可能性があるって訳なんだ。
起きてる時はまだアリエスのままだけど、寝てる時はその境界線が曖昧になるのか……こうやって前世の残滓が出てくる。
それってつまり……いつ他の前世が表立ってもおかしくないってことでしょう?
起きてる時のアリエスが。今のアリエスの人格が揺らげば、他の前世に上塗りされてしまうかもしれないってことでしょう?
現に……って言うのはちょっと変かもしれないけれど。
邪神が召喚された世界にいたアリエスの精神は、色んなものが混ざっている状態だったみたいなんだ。邪神の知識から推測するに、多分、《邪神兵団》にされたことが原因で、本人格の心が隙間だらけだったから……その隙間に他の人格が入り込んでそうなったんじゃないかって思うんだ。
だから、ボクはアリエスを溺愛する。
アリエスが必要なんだって。今ここにいるアリエスを求めているんだって証明して、愛して。
不安を抱いて、自我が揺らがないように。精神が不安定にならないように。心が折れないように。心に穴が空かないように。
そうやって……外部から向ける愛情で、アリエスの意思を補強する。
……。
…………。
……と、まぁ……こうやって色々と言ったけれどさ?
本音を言うと……ボクは、アリエスがアリエスじゃなくなっても別に構わないんだよね。
だって、どんなアリエスだろうとボクは愛せる自信があるもの。
たとえ、今のアリエスじゃなくなって拒絶されても。逃げようとしても。離れようとしても。
捕まえて、閉じ込めて、洗脳して、愛してあいしてアイシテあいして愛して、どろっどろに甘やかして溺れさせちゃえばこっちの勝ち。
今のアリエスみたいにボクと一緒にいるのが当たり前だって考えるようにさせちゃえばいいんだから。
あぁ、でも。勘違いしないでね? 勿論、今のアリエスもちゃーんっと愛してるよ? 今のアリエスが消えるなんて、嫌だって思ってるよ?
可愛いし、素直だし、慕ってくれるし、ボクが向ける感情……本当は愛情なんて生易しいモノじゃなくて、異常なほどの執着とドロドロした濁った感情を向けられても、それが当たり前だって思うようになった彼女が、愛おしくて仕方ない。
今のアリエスが今のままでいられるなら、それに越したことはないんだ。だから、他の前世の記憶が君を消しちゃうかもしれない……なんて、アリエスの精神を不安定にさせるようなことも言ってない訳だしね。
でも、もしもーー。
もしもーーアリエスが、アリエスではなくなってしまって、別のアリエスになってしまったら……。
たとえ、そうなっても……ボクは何も変わらない。ただただ、アリエスを愛し続ける。
ふふふっ……。ふははっ……異常だよね。
でも、異常なのは当たり前なんだ。だって……。
ボクの根本にあるのは病的な愛だ。
大好きだから、大切にしたい。大好きだから閉じ込めたい。大好きだから、壊したい。大好きだから、不安にさせたくない。大好きだから、依存して欲しい。大好きだから、縛りつけたい。大好きだから、愛して欲しい。大好きだから、愛してる。
そんな……醜いけど、とっても恍惚的な感情。
始まりがボクの感情でなかったとしても、今のボクがアリエスを愛してることは事実だ。
だから、他人にどう言われようが、他人からなんと思われようが、どうでも良い。
うん、そうだね。難しいことはどうでも良いんだ。
ボクがいて、アリエスがいて。これからも、ずっと離れない。側にいるーーただ、それだけで……。
強いて言えば、アリエスからも愛されるようになれば万々歳。まぁ、この五年間でアリエスもボクのことを少なからず想ってくれるようになってきたみたいだし?
…………ボクに対してアリエスが好意を抱くように甘やかして優しくしてきたから、好きにならない方がおかしいんだけどね。
恐がりなアリエスを恐がらせないように。脅えさせないようにーーでも、甘い言葉で確実に、彼女の首を真綿で締めるようにギュッと押さえつけながら。
ボクは今日も、アリエスを甘やかし続ける。
『*………すぴー……すぴー……」
謎の言語が途切れて、いつもの穏やかな寝息に変わる。
それを確認してから数十秒。ボクは再度、横たわって……アリエスの小さな身体を抱き締める。
そして、そっとその白いおでこにキスを落として、目を閉じた。
「良い夢を、アリエス」
ーー今日も明日も、この先も……ずっとずっと……一緒にいようね。




