第33話 軍部見学の裏側
お家でリアル破壊神(コンクリ破壊)やったら、筋肉痛で死んだ私です。
という訳で、セリナ目線(※心の声は間延びしてません)〜。
アリエスが誘拐された日〜軍部見学までの裏側です。
今後とも〜よろしくどうぞっ(・∀・)ノ
アリエス様が屋敷からいなくなってしまったーー。
それに気づいたわたくしは自責の念から涙が止まりませんでした。
「あぁ……アリエス様っ……!」
屋敷の一室にて待機するように命じられたわたくしは、執事のお父さんと同じ侍女であるお母さんに慰められながら、涙を零します。
わたくしの仕事はアリエス様の専属侍女。あの方の側にいることが役目。
だというのに、アリエス様の意思を尊重して目を離してしまったからこそ……アリエス様はいなくなってしまった。
精神年齢が大人だと聞いていましたが、やっぱり目を離すべきではありませんでした……。
後悔が押し寄せて、胸が苦しくなります。
どうすればいいのか?
アリエス様は無事なのか?
不安で、仕方なくて。でも、わたくしはただシエラ様が無事にアリエス様を連れて帰って来てくださるのを、待つしかできませんでした。
「……今、帰ったわ」
ーーシュンッ!
急に部屋に現れたシエラ様に、わたくし達は慌てて振り向きます。そして、驚きに目を見開きました。
そこにいたのは……シエラ様と、三人の子供。
使用人の子供であるメイサと気絶したオリー……そして、弟のセル。
何故、セル達がいるのか?
何故、セル達は泣いているのか?
嫌な予感がして……冷や汗が止まりませんでした。
「……シ、シエラ様っ……」
「ごめんなさい。先に中庭にいる人達をなんとかしなくちゃいけないの。今日は色々と忙しいから……明日、再度集まってもらうわ。メイサとオリーの家族にも伝えて頂戴」
シエラ様はそう指示を残されると、お父さんに意識がないオリーを託して改めて転移なされます。
顔面蒼白になったお父さんがセルとメイサを見つめます。
そして、震える声で問いました。
「セル、メイサ……一体、何があったんだ……?」
ーービクリッ!
二人は可哀想なぐらいに震えて泣き出します。
ですが、アリエス様のために出て行かれたシエラ様が三人を連れ帰ったということ。
それが意味するのは、セル達が関わっているということ。
わたくしはセルの胸倉を掴んで、叫びました。
「何をしたんですぅっ、セルっ!」
「うっ……ぁっ……」
セルはボロボロと泣きながら、話し始めます。
オリーに言われて、アリエス様をお屋敷から外に連れ出したこと。
そうしたら洗脳されてしまっていたらしい、知らない大人とオリーに襲われたこと。
アリエス様が連れて行かれそうになったけれど、ギリギリルイ様が間に合って助けてくださったこと。
そして……ルイ様に殺されかけたこと。
わたくしは思わずその場に崩れ落ちてしまいました。
「あぁ……あぁぁっ……!」
アリエス様が無事であったこと。それがとても嬉しいけれど。
アリエス様を危険に晒したのが、わたくしの弟だと思うと申し訳なくて申し訳なくて、堪りません!
一体、わたくしはどうすればいいのか?
わたくし達はどうすればいいのか?
…………その日に答えが出ることはありませんでした。
*****
泣き腫らした目で迎えた翌日ーー。
応接室に呼ばれたわたくしと家族、メイサとオリーの家族。
全員が顔面蒼白で……ソファに座ったシエラ様の前に立っていました。
「もうセル達から事情を聞いているかもしれないけれど……改めて何が起きたかを説明させてもらうわね。仕事がしづらくなるだろうかと思って、貴方達に伝えていなかった内容もあるから」
疲れたようなお顔でそう告げられたシエラ様は、昨日に起きたことを教えてくださいました。
アリエス様はこの世界で唯一〝精霊王を殺せる手段〟を持っていて、世界を滅ぼすことを目的としている組織に狙われていた。
ですが、この屋敷には奴らが入らないように結界が張られている。だから問題がないかと思ったが……敵はオリーを洗脳して、セルとメイサを煽って、アリエス様を屋敷の外に連れ出してしまった。
だが、それに気づいたシエラ様がルイ様に緊急連絡。
それによってギリギリ、アリエス様が連れて行かれる前に救出に成功。
ルイ様がオリーの洗脳を解こうとしましたが……セルとメイサが殺すのだと勘違いし騒ぎ、ルイ様は洗脳を解く道具を残してアリエス様を連れて先に帰られました。
そうして、実際に洗脳を解き、シエラ様が三人を連れて帰宅……。
全てを聞き終えたわたくし達は、どうすればいいのかが分かりませんでした。
セル達がアリエス様を屋敷から連れ出したのは確か。けれど、オリーが洗脳されてたのはわたくし達にはどうしようもありません。
しかし、屋敷から連れ出してしまったことで……精霊王様が死ぬかもしれない事態までいきかけたのです。
この件は、ただの一般人でしかないわたくし達には身の丈に合わない事案でした。
「……取り敢えず、オリーが洗脳されてしまっていたということで、今回の件はどうしようもなかった……で終わることになるわ。貴方達の責任も問いません」
自分達の子がエクリュ侯爵家が保護しているアリエス様を誘拐したことーー本来であれば、わたくし達は解雇されるべきなのです。
けれど、シエラ様が〝責任を問わない〟と言うことは、情状酌量の余地ありとして、もうそれで終わることになっているのでしょう。
「ただし、一つだけ命令するわ。当分の間ーー貴方達はルイ君とアリエスさんに会わせないようにして頂戴な」
ーービクリッ!
滅多に命令をされない女主人からの命令。
驚きに目を見開くわたくし達に、シエラ様は困ったように告げられます。
「……私もルインも仕方ない、とは思っているけれど……予想以上にルイ君が、アリエスさんが関わると危険度が増すみたいなの。ルイ君は本当にアリエスさん以外に興味がないみたいだけど……アリエスさんを傷つける者にも容赦がない。それに……アリエスさんからしたら、セル達は拉致した人……だから。下手にセル達……セル達の家族である貴方達が近づいたら、アリエスさんは昨日のことを思い出して苦しむかもしれない。ルイ君を刺激してしまうかもしれない。だから、アリエスさんのために……貴方達の身の安全のために近づかないで」
「…………」
わたくし達は何も言えません。
連れ出されたことでアリエス様は身の危険に晒されました。連れ出した本人に会ったら、アリエス様はどんな嫌な思いをされるでしょうか?
それにーールイ様はアリエス様を大切にしておられます。溺愛しておられます。
だから、洗脳されてたとは言え……アリエス様を連れ出したセル達を許していないのでしょう。
本当は殺してしまいたいほどなのでしょう。セル達の家族であるわたくし達も許し難いと思っているのでしょう。
だけど、何もしないでいてくれている。
アリエス様のことを思って、セル達に何もしないでいてくれる。
だからーー。
「…………分かりましたぁ……本日を持ちまして、専属侍女を辞任させていただきます……」
「………そうね。その方がいいかもしれないわ」
シエラ様は反対することなく頷かれました。
これこそがきっと……今のわたくしが取れる最善。
「…………申し訳ありませんと、お伝えくださいませぇ……」
「えぇ。分かったわ」
わたくしは頭を下げます。
いつかまたーーアリエス様に会える日が来るのでしょうか?
もしかしたらーーその日は、永遠に来ないかもしれませんーー。




