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第29話 見学しながら話をしてたら、面倒ごとがやって来る


風邪をひきました。寒さに勝てませんでした……。


と言うわけで、まだ本調子ではないのでまた更新が遅くなるかもしれません。

もしくは急に思いついたネタで、新作を書くかもしれない(未定)ので、遅くなるかも……?

まぁ、気長にお待ちいただけたら幸いです。


それでは、ゲイル(ルイの同僚)→アリエス目線で。

よろしくどうぞっ(*´∀`*)


 






 昨日の今日。

 あんな騒ぎを起こしたというのに、ルイは普通に出勤してきた。

 ううん、訂正。



 エクリュ特務と、ついでに何故か幼女抱っこして連れて来やがったわ。



 それも、なんで頭に黒いひよこ(?)乗っけてんの……?



 きっと二度見しちゃったオレらは絶対悪くないと思う。

 というかですよ?




「…………アリエスが可愛い……!」



『っ……!?』


 ーーざわりっ!?



 あの無表情がデフォルトのルイがっっ、笑った!?!?!?



 めっっっっちゃあっっっまいっ!

 何っ、あれ!? 見てるこっちが砂糖吐きそうなぐらい甘々な笑顔なんだけどっ!?

 なのに、男のオレでも気圧されるぐらいの色気増し増しとかっ……なんなの!? 歩くエロテロリストなの!?

 あんな顔してるルイ、初めて見たんだけど!? いつも淡々したお前はどこ行った!?

 すっげぇ美人で色気ムンムンな女性とか貴族令嬢とかに詰め寄られても、容赦なく切り捨ててたじゃん!

 というか……あの幼女はあの顔を至近距離で向けられて、なんで平然としてんの!? 凄いな!?

 オレ、なんか色々と心配になるんだけどっ!?


 訓練が思わず止まるほどの衝撃を受け、呆然とするオレ達は……幼女とにこやかに会話をするルイを見つめ続ける。

 少しして……ニコニコ笑顔のルイが、オレらの方にやって来て。



 ーーーーぞわりっ……!



 ……本能的ニ、命ノ危険ヲ感ジマシタ。



 そして、そんな予感はまさかまさかの的中をする。



 ルイ……オレ、お前が()()()()()()()()()()()なんて……知らなかったヨ……。






 *****






 晴れやかな空の下ーー。



 訓練場に響き渡る絶叫に……私はドン引きしていた。




 ーーザンッ……!


「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁあっ!?」

「ゲイル、煩い」

「そりゃ煩くもなるだろうがぁぁっ! なんでっ! 刃を潰してんのに普通に斬れるのっっ! 血が出てます!」

「……それは剣だからだと思うけど……血が出たら精霊術で直ぐに治してあげてるでしょう? そんなに騒がないでよ。煩いな」

「あ、それはありがとう。お前、精霊術使うの上手いよな……じゃなくてっ! ストップ! 一時中断を希望します! 手を止めて!?」

「何言ってるの? 剣がなくなっても戦えるようにっていう訓練も兼ねてるんだよ? 時間が来るまでは止めないよ」


 パァンッ!


「うぉぉぉぅっ!? なんで刺突で破裂音がすんのっ!? そんだけ早いの!? お前っ、そんな細腕で実はゴリラだったのっ!? いや、昨日ガランを吹き飛ばしてる時点でそれも分かってたか。でも、昨日の吹き飛ばしもそうだけどっ……なんで今日、こんなにやばいの!? 今までのお前は何!? 何がお前を変えた!? あの幼女かっ……幼女がいるから今日は無駄に気合入ってんのかぁぁぁ!」

「アリエスのこと、目に入れないでくれる? 減るから」

「うわぁ、殺意が増したぁ〜☆ ぎゃぁぁぁあっ!?!? 早く終わってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ……えーっと。状況を説明すると?

 戦闘訓練は組手のような感じで。十分間ずつ相手を交代していっているみたい。

 ……で。

 開始一秒で、ルイ君が相手にしていた男の人の剣が細切れになって。

 そして、相手さんがひたすらルイ君の猛攻から逃げてる……と。

 …………うん。


「……………ルイ君って、あんなにつよかったんですね……」


 ぽつりと呟くと、隣に座っていたルイン様がクスクスと笑う。

 そして、軽い調子でとんでもない爆弾を落としてきた。


「それはそうだよ。ルイは精霊王の息子であり、《ドラゴンスレイヤー》である俺の弟だからね。まず、その時点で中々にヤバい」

「やばい」


 ルイン様、ヤバいとか俗っぽい言い方するんですね……。


「ついでに、ちょっと邪神(強くなる)ものを吸収し(食べ)たらしくて……更に強くなっちゃってるんだ。だから、今のルイなら軽く世界を滅ぼせるよ」

「はっ!?!?!?」


 絶句しました。絶句しねぇはずがないねぇです。

 だって、強くなるもの(……本音を言うと、「いや、強くなるものって何それ?」って感じだけど……聞いたらまた正気度が削られそうだから敢えて聞かないでおく)食べたとか……えっ!? 異世界って何か食べるだけで強くなるの!? 何、そのとんでも世界!?

 というかっ……軽く世界を滅ぼせるとか……!

 ルイ君どんだけ強いの!?


「まぁ、ルイは世界滅亡とか興味ないっぽいからそこら辺は置いといて。とにかく……そういうことだから、アリエスは安心すると良いよ。世界を滅ぼせるぐらいに強いルイが君を守るんだから、どんなに強い奴だって。《邪神兵団》だって。君には手を出せない。きっと、この世で一番君が安心できるのは……ルイの隣だよ」

「…………!」

「そして……ルイもまた、君の隣にいることで楽しそうな日々を送れている。本当に、ありがとう。アリエスのおかげだ」

「えっ……!?」


 急な感謝の言葉に、私は思わず慌ててしまう。

 慌てる私を見てルイン様はハッとしたのか……「ごめん、急すぎたね」と苦笑を零した。


「少しだけ、昔話をしようか。アリエスが知らないのは当然なんだけど……君に出会う前のルイは凄く淡々とした奴だったんだ。人にも、物にも興味を示さないような……つまらない奴」

「えっ!?」


 …………私はそれを聞いて、目を見開く。

 だって、私が知ってるルイ君は……甘々なルイ君だけだもの。


「…………ルイが精霊王の下を離れたのは、精霊寄りすぎたから。ううん、精霊でも好き嫌いがあるんだから……それすらなかったルイは更に酷いかな。精霊達と暮らしてたから、常識外れにもなってたし。生き物らしくなかった、というか。見てるこっちが心配になるぐらいだった、というか。だから、環境を変えることで……感情で生きる人々の営みに混ざることで、ルイに良い影響を与えられたら良いなと思ってたんだ」

「…………」

「でも、俺の下で暮らし始めてもルイは変わらなかった。常識の矯正は多少できたけどね。だけど、アリエスに出会ったら……今まではなんだったんだ!? ってくらい変わったんだよ」


 ルイン様は、ルイ君を見つめながら柔らかく笑う。

 その顔は……まさにお兄ちゃん、って顔で。

 本当に穏やかな笑みだった。


「だから、アリエスには感謝してる。あの子と出会ってくれて……ルイを良い方に変えてくれて、ありがとう。これからも、ルイのことをよろしくね」


 …………本当に今更すぎるかもしれないけど。

 今までを振り返ってみたら、私はお礼を言われるようなことをしてないと思う。

 だって、ルイ君と会ったって言われても……捨てられてた私が見つけてもらった方だし。

 保護者になってくれた。住む場所も用意してくれた。

 この時点でルイ君だけじゃなくて、シエラ様とルイン様にも迷惑をかけているのに……。

 駄目押しとばかりに、私が《邪神兵団》に狙われている所為で更に迷惑かけてしまってる。

 なのに……お礼を、言われるなんて……。


「…………その顔は、自分の所為で迷惑かけてるのにお礼を言われるのは……って感じ? 顔に出やすいね」


 ルイン様は顔を覗き込みながら、そう聞いてくる。

 私はほんの少し泣きそうになりながら……口を開いた。


「…………だって……だって……私……」

「アリエスに何してんの、兄様?」

「「!」」


 ーーふわりっ。

 急な浮遊感に慌てて振り向けば、そこには冷たい目をルイン様に向けるルイ君がいて。

 慌てて周りを見渡したら、キーンさんが〝勝手にやってくれ〟と言わんばかりの顔でシッシッと手で合図を出していた。

 …………え? 戦闘訓練、抜け出したの……? 大丈夫……?


「ゲイルが〝ルイとやるのは無理です! というか、今日のこいつはノリノリすぎて他の奴と戦闘訓練させるのは危険すぎると思います! 下手したら、心折れます!〟って副部隊長に訴えたら、以降の戦闘訓練は見学になっちゃった」


 ………あっ(納得)……。だから、こっちに来たんですね……。

 そんな感じで見学になったらしいルイ君は……「で、話は戻るけど」と私を優しく抱き締めながら、低い声でルイン様に質問をした。


「なんでアリエスが泣きそうになってるの? 場合によっては兄様でも許さないけど?」


 ルイ君は私を優しく抱き締めながらも、ルイン様に剣呑とした威圧を向けていた。

 ちょっ……待って! 纏ってる空気が物騒です!


「ち、ちがうよ! ルインさまは悪くないよ!」

「本当に?」

「私がっ! ルイ君にめーわくかけちゃってるのに、もーしわけなくなっただけなのっ!」

「…………迷惑……?」


 私の言葉を聞いて、ルイ君はキョトンとする。

 まるで何が迷惑か本当に分かっていないみたいな顔。

 彼はちょっと困ったような様子で……私に聞いてきた。


「えっと……ごめん。ボクにアリエスが迷惑かけてるの?」

「うん」

「え? どこら辺が?」

「……保護者になってもらったこととか、じゃしんへーだんとか……」

「………………」


 ルイ君は黙り込む。そして……。



 私の頬をみょーんっと引っ張った。



「馬鹿だなぁ」

「…………ふへ?」

「別に迷惑なんて思ったことないから、その申し訳なさをアリエスが感じる必要ないよ」

()()もっ……!」

「アリエスはボクに迷惑かけてるって思っても、ボク自身が迷惑だと思ってないんだよ? それでもアリエスは申し訳ないって気持ちでボクに接してくるの?」

「っ……!」


 ルイ君は頬を引っ張っていた手を離すと、今度は優しく頬を撫でてきた。


「アリエスだって逆の立場だったらどう思う? 迷惑なんて思ってないのに、相手が申し訳ないって顔し続けてたら……嫌な気分になると思わない?」

「それは……」

「だから、ボクのことを思うなら気にしなくていいよ。ボク、アリエスには笑ってて欲しいんだ。だからね? 申し訳ないと思うぐらいなら、笑ってよ」


 ルイ君の声はとても優しい。

 多分、本気で言ってくれている。

 …………なんで……ここまで優しくしてくれるのかな……? 優しすぎるよ……。


「俺達も迷惑なんて思ってないよ。同郷の君が一緒に暮らし始めてから、シエラも楽しそうだし。シエラが楽しんでるなら、迷惑だなんて思うはずがない。というか……逆に君が《邪神兵団》に拾われてた方が、将来的に迷惑被ったよ」

「兄様もそう言ってるから……ね? アリエスは申し訳なさなんて抱かなくていいよ」


 エクリュ兄弟の言葉に、私はちょっと泣きそうになる。

 …………本当。私、良い人に拾われたね。

 ルイ君の首に腕を回して、ぎゅぅっと抱きつく。

 そして……ちょっと震える声で、お礼を告げた。


「ありがとー……ございーー」



「ルイ様っっ!」



「「「………………」」」


 ……。

 …………。

 …………なんか良い空気が一気に霧散した。

 声をした方を振り向けば……訓練場に入ってくる赤毛碧眼、赤ドレスのキラキラゴージャス美少女(with金髪メイドさんっぽい人)。

 美少女さんはすっごい満面の笑顔で、ルイ君めがけて小走りしていて。

 …………うん。





 ………何故だか、めっちゃ面倒ごとの予感がしました……。







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