第25話 眠り姫の傍らで、会議は進む(2)
書いてたら、プロットと違う方向に走ってしまって。
内容を調整してたら、ちょっと更新遅くなってしまいました。ごめんなさい〜。
という訳で、ルイ君のヤンデレを微妙に滲ませながらお送りします。
国王目線→ルイ君目線でよろしくどうぞっ☆
嫌な、予感がしていたんだ。
エクリュ特務に召集をかけられた時点でも既に胃が痛くて痛くて堪らなかったが……。
彼が連れてきた青年と、眠った幼女。
どうしてだか、その二人を見たら更に嫌な予感がしたんだ。
だから……後ろにいた青年の足元から黒い影が蠢き、彼の髪が一瞬で伸びて、そのこめかみから悍ましいほどに黒い二角が生えた瞬間ーー。
本能的に、死ぬかもしれないーーーーと思った。
*****
「今更だけど……今回のボクはアリエスの保護者としてこの場にいる。だから、君らが勝手にアリエスを引き取ろうとしたら抵抗させてもらうよ。それこそ……君らを殺すことすら躊躇わずに、ね」
ボクの物騒な言葉にガンマ総帥は怒りを覚えたのか、顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしてくる。
けれど、実際に声を出す前に……ボクは彼を睨みつけて、黙らせた。
「はっきり言うけど。《邪神兵団》がアリエスを狙い続ける以上、この世界に安全な場所なんてどこにもない。それこそ、奴らを全滅させなきゃね。なのに、君らはアリエスを引き取るって言うの? 所詮、精霊術しか使えない君らが? 精霊術が効かない奴ら相手にアリエスを守れると思ってるの? そしたら、相当おめでたい頭をしているんだね。君らじゃただ、アリエスを奪われるだけだと言うのに」
「なら、君なら守れると言うのか?」
感情を抑えた声で、顔を強張らせた国王から問われる。
……きっと答えは分かっているのに、なんでそんなことを聞くんだろう?
あぁ、周りの奴らを納得させるため? なら、素直に答えてあげよう。
ボクは笑顔を浮かべて、頷いた。
「当たり前だろう? アリエスを守るのがボクの役目なんだから」
『…………』
決して大きな声ではなかったというのに、しんっ……と静まり返った会議室内。
だけどーー兄様だけは変わらずに呆れた顔で、ボクに胡乱な目を向けてきた。
「まぁ、そうだろうね。ルイがアリエスを守ると言ったら、守り切れるんだろう。だけど……どうして〝守る〟という選択なの? ルイ。君、やろうと思えば直ぐにでも《邪神兵団》を全滅させられるよね?」
『っっっ……!?』
兄様以外の全員が息を飲んだ。
うん、そうだね。兄様の言う通り。
邪神の力を使えば……《邪神兵団》を滅ぼすことは、とても簡単なことだ。
だって、それはアリエスのためになるだろうから。
アリエスの安全な生活に繋がるだろうから。
だから、ボクはいつも以上の力を発揮できるだろう。
でも……ボクはそれをやらない。
絶対にしてやらない。
だって……。
「嫌だよ。そんなことしたら、アリエスが安心してしまうでしょう?」
微笑みながら、ボクは腕の中にいるアリエスを見つめる。
安心しきった顔で、すよすよと眠る……とっても可愛い女の子。
頬を緩ませながら、ボクは彼女の頬を撫でた。
「駄目だよ。アリエスの身が安全になったら、アリエスがボクを頼ってくれなくなっちゃうでしょう? アリエスがボクに依存してくれないでしょう? 不安になればなるほど……アリエスは心の拠り所として、ボクに頼らざるを得なくなる。だからね? ボクはボクのために、《邪神兵団》を滅ぼしてやらない」
「それが、世界の危機に繋がると知っておきながら?」
「世界の危機? ふふっ……何言ってるの、兄様。固有能力持ちであれど、父様を殺すことはできない。だって、父様は精霊王だからね。この世界の生きとし生けるものは精霊王を殺せない。それが世界の理。だから、アイツらが世界を滅ぼすには結局、アリエスを利用しなきゃいけない。だけど、アリエスがボクの腕の中にいればアリエスはアイツらに奪われない。つまり……世界の危機、なんて起きないんだよ?」
とろりと心の奥底から悍ましくて、ドロドロとした仄暗い感情が零れ落ちる。
それがとっても心地良くて……ボクは堪らなくなる。
ニコニコと笑うボクを見た兄様は、頭痛を感じたのか眉間を揉む。
そして……なんとも言えないような声で、呟いた。
「昨日……何かあれば、ルイを殺すって言ったけどさ」
『!?』
「うん。それが?」
「俺、今の君は殺せそうにないや。多分、逆に殺されるよね。なんで俺の息子や弟は、俺より強いのかな?」
『!?!?!?』
絶句した周りの反応を無視しながら、ボクはクスクスと笑う。
「あははっ、変な兄様。兄様がアリエスに手を出さない限りは殺さないんだから、心配しなくていいのに。後、ボク自身は強くないよ。これは邪神の力だから」
「でも、今は君が邪神なんだろう?」
「そうだね。ボクは邪神で、邪神はボクだ。となると……やっぱり、ボクは強いのかな?」
「そうだろうね。という訳で、その凄まじい姿は解いてくれる?」
そう言われて、ボクは自身の姿を見る。
そこでやっと、気づいた。
………ボクの姿が、変わっていたことに。
思わずギョッとしながら、伸びた黒髪を手に持った。
「うわ……何これ。いつの間に……」
「無意識だったんだ? なんか、邪神っぽいよ」
「うん、そうだね。確かにこれは邪神っぽい。多分、感情が荒ぶったからじゃない? どっかの誰かがアリエスを引き取るとか抜かしたから」
『!』
チラリと宰相を見れば、彼は周りの視線も受けて顔面蒼白になっていた。
…………ちょっと意地悪すぎたかな?
まぁ、アリエスを引き取るとか言いやがったんだから……これぐらい自業自得だよね。
「という訳で、アリエスは君らに引き取らせないよ。何か文句あるなら聞くけど」
『…………』
誰も言わない。誰も何も言い返せない。
兄様より強い(らしい?)ボクが怖い、ってのもあるだろうけど……精霊術が無意味だとしたら、どうすることもできないって皆も理解してるんだろう。
陛下は大きな……それはもう大きな溜息を零す。
そして……疲れ切った顔で、告げた。
「……分かった。なら、君にアリエス嬢を任せよう。勿論、昨日の職務違反も世界の危機であった……という点から、不問とする」
「陛下っ!?」
「ちなみに……その姿の説明とかしてくれる気はあるか? 後、さっき出てた邪神とか言う単語の説明も……」
そう問われてボクは考え込む。
………いつの間にか姿が変わってたけど……多分、これって邪神モードみたいなものだと思うんだよね。
説明……説明かぁ……信じてくれるかな?
いや、信じなくてもいいけど……ボクの邪魔しようとしてきたら面倒くさいよな……。
ボクの面倒くさがってる空気を察したのか、国王は「あはは」と乾いた笑い声を漏らす。
そして、先んじて宣言してきた。
「言っとくが。説明を聞いておきたいだけで、話したくないなら話さなくていい。結論を先に告げておくと、わたしはこの件を全て君に委任するつもりだし……君を邪魔するつもりもない」
『陛下ぁっ!?!?』
周りの奴らは陛下の決定にギョッとする。
けれど、当の本人はどこか遠い目をしながらつらつらと本音をぶっちゃけた。
「国だけじゃなくて、世界まで巻き込む案件だぞ? 絶っっ対、我々には手に負えないだろう!? 任せられる人がいるなら任せてしまった方が得策だ! ただでさえ国を預かる身としていっぱいいっぱいなのに……世界すらも背負えと!? 無理だ、わたしはもう胃痛に耐えられない。という訳で、逆にこちらからお願いします。わたしの胃が痛くなりすぎない感じで上手く収めてください!」
ガバリッッッ!
国王は死んだ魚のような目をしながら勢いよく立ち上がって、九十度の角度で頭を下げてくる。
………なんか。陛下が胃辺りを押さえてんだけど……。
……なんだろう…結構他人に興味ないボクなのに、この人のことが若干心配になってきた……。
というか。この人、すっごい王らしくないな? 素、出しちゃって大丈夫なの?
まぁ、とにかく。
「…………アリエスのことを任せてくれるってんなら、それでいいよ。後、この姿のことだっけ? ボクの邪魔しないってんなら説明してもあげてもーー」
「うにゅぅ……」
「『!』」
ボクは腕の中にいるアリエスが口を〝もにゅもにゅ〟させながら目を擦り始めたことで、陛下達と話すのを止めた。
だって、アリエスより優先するものなんかないからね!
だけど、そこで気づく。ボクの姿は未だに邪神モード(?)。
……起きて姿が変わってたら、アリエスをビックリさせちゃうかもしれないよね……?
慌てたボクは伸びきった髪を掴むと〝戻れ〜!〟と心の中で命じる。
すると……シュルシュルと髪が短くなっていく。
それを見て一安心したボクは……凄く緩慢な動作で顔を持ち上げたアリエスに向かって、柔らかく微笑んだ。
「おはよう、アリエス」
陛下達から〝……えっ。こっちは放置?〟なんて視線が向けられていた気がしたけど……。
ボクは陛下達の視線を無視して、アリエスに向かって朝の挨拶をするのだった。




