第23話 目が覚めたらそこは……。
スローペース投稿でーす。
気長にお付き合いください〜。
真っ暗などこかで。
私は目を瞑って、耳を両手で塞いで蹲っていた。
『後ろの子達を殺しちゃうよぅ?』
耳を塞いでいるのに、楽しげな声が響く。
『ねぇねぇ、召喚師ちゃん? 君の所為で人が死ぬなんて嫌だろう? なら、大人しく《邪神兵団》においで?』
目を閉じているはずなのに、ニタニタと嗤っているのが分かる。
じわりと足元が生温い何かで湿った。
鼻をつく臭いで、それが何か分かってしまう。
私の足元を埋め尽くす液体。
それはーー。
私の所為で死んだ人達のーーーー〝血〟。
なんで、こうなっちゃったの?
私があの人に付いて行かなかった所為で、人が死んでしまうの?
だけど、付いていってもどうしようもない未来しかないって分かってる。
でも、付いて行かないといろんな人が死んでしまう。
私に優しくしてくれた人達。
私の……大好きな人も。
どうすればいいのか分からない。
私は……どうすれば…………。
「…………本当。どこの世界でもお前達は碌でもないな」
「…………え?」
恐る恐る見上げた視線の先。
そこにいたのは……私が、一番信頼できる保護者の後ろ姿。
………ルイ君は大きな溜息を零しながら、片手を横に払った。
パリンッ!
「!」
何かが割れる音と共に暗闇が晴れて。
血溜まりの世界は、色とりどりの花が咲く春の花畑みたいな光景に変わる。
私は呆然としながら、周りを見渡した。
「………ここ、は……」
「アリエス」
とても優しい声。
こちらを向いたルイ君はいつもと変わらないはずなのに、その姿に見たことがない誰かの影が重なる。
その影の姿に、私の胸は痛いぐらいに苦しくなって。
…………温かいモノが溢れそうになって。
無意識に溢れた涙が、頬を伝う。
そんな私を見たルイ君は目を見開いてから……少しだけ困ったような、喜ぶような顔をして。
彼はしゃがみ込んで視線を合わせると……優しい手つきで、私の目尻を拭った。
「大丈夫だよ。君にかけられていた《悪夢の呪い》はもう解いた。だからもう、悪い夢は見ないはず」
「…………わるい、夢」
「そう。これはあの傀儡師が君を精神的に追い詰めるためにかけた夢。最後の最後まで碌なことをしないね。でも、もう大丈夫だから……目が覚めればこんな悪い夢、何も覚えていないよ」
ルイ君は私を抱き上げて、あやすように背中を優しく叩く。
一定のリズムでポンポンと叩かれ続けると……どんどんと瞼が重くなってくる。
夢だっていうのに眠くなるなんて……変なの。
「これは夢。現実と非現実の狭間。曖昧の境界線。だから、君が見てるルイにほんの少し邪神の残滓が重なって見えるのも仕方がないこと」
遠くなっていく意識。
だけどーー。
「……わたし自身が君に会うことはないけれど。わたしはボクだ。現実であろうとなかろうと君の側にいて、君を守るよ。アリエス」
ルイ君の声だけは、はっきりと届いた気がした。
*****
さらさらと頭を撫でる感覚に、私は身動ぎする。
優しい手つき、温かい手。
きっと、この手は……。
「…………うぅん…」
ゆっくりと目を開けると……そこには、臙脂色が広がっていた。
……。
…………。
…………私は、寝起き特有の鈍い思考のまま……ボーッとそれを見つめ続ける。
すると……私の頭上から柔らかな声が聞こえた。
「おはよう、アリエス」
鈍い動きで顔を上げると、そこには甘く笑うルイ君の姿。
……どうやら、私はルイ君に抱っこされているらしい。
私は目を擦りながら、挨拶をした。
「………おはよう…」
「うん。よく寝れた?」
「…………」
そう聞かれて私は考え込む。
そして……ポツリと呟いた。
「……なんか、夢を見たきがしたんだけど……わすれちゃった」
「……そっか。でも、忘れちゃうぐらいならどうでもいい夢だったんだろうね。気にしない方がいいよ」
「……………うん」
私はなんとなくルイ君の首に腕を回して、額を彼の首筋から肩辺りにスリスリと擦り付ける。
そんな私の反応に……ルイ君は「っっ!」と息を飲んだ。
「………頭スリスリとか……可愛すぎる……」
…………ん?
「本当、可愛いなぁ……」
私は微妙な顔をしながら、顔を持ち上げる。
視線の先には……とんっっでもなく甘ったるい笑みを浮かべるルイ君の顔。
至近距離でそんなのを向けられた私の顔は、一気に熱くなった。
「…………しつれーしました……」
「……えぇ? 止めちゃうの? もっとスリスリしてくれていいよ?」
「……恥ずかしーのでやめときますぅ……」
「ふふっ……可愛いね」
ルイ君はクスクスと笑いながら、私の頬に触れるだけのキスを落とす。
だけど、それは一回で終わらなくて。二回、三回と増えていって……。
待って!? 流石にキスし過ぎでは!?
「あっ……ちょっ……まっ……!?」
至近距離にあるルイ君の顔は、なんかもう……なんかすっごいぐらいに色気ダダ漏れで!
何!? 寝起きからそれはちょっとね!?
その色気にやられて、声が上手く出せなくなるよ!?
というか、こんな凄まじいの見続けたら気を失いそーーーー。
「うん、ちょっとストップしようか? ルイ。流石に今は場違いすぎる行動だし、アリエスが気絶しそうだ」
ーーピシリッ。
聞こえた声に、私の身体は勢いよく固まる。
ギギギッ……と壊れた人形のように声がした方に振り向けば……そこは、いつもの寝室ではなくて。
見たことがない広い部屋の中央に置かれたテーブルに向かい合いながら座った、ニヤニヤとしつつも困ったように笑うルイン様と……なんとも言えない顔をしながらこちらを見ている知らぬ人達の姿ばかり。
…………うん。
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!? みられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
叫んだよね。うん。
「なんで止めるかなぁ、兄様?」
彼の腕の中でぐにゃぐにゃと身を捩っている私を落とさないように再度抱き直しながら、ルイ君は嫌そうな声を漏らす。
すると、ルイン様は呆れた声で答えた。
「だって、一応は王の御前だからね。流石にその前で盛られたら困るよ」
「盛ってないよ。愛でてるの」
「自分の最愛の可愛いところは、自分だけが知ってた方が気分が良いと思うけど?」
「止めた」
兄は強し……と言いますか、ルイ君はルイン様の言う通りに、コロッとお色気モードから普通モードに切り替わる。
……なんかもう色々とツッコミたいけど、今はそれを置いとく。
それよりも……というか。
……………今。ルイン様、〝王〟とか言った?
……待って? 今、どうなってるか誰か説明してくれない??
「????」
「……あぁ、何故でしょう……彼女の顔がかつての我々のように思えますね……絶対、色々と巻き込まれてる……」
テーブルに座っている中性的な金髪の男性が、こちらに同情的な視線を向けてくる。
……え? なんでそんな同情的???
「…………まさか……なんの説明もなく連れて来てたのか?」
テーブルの一番上座に座っていた、真面目そうだけど偉そうな金髪碧眼の男の人も、同情的な視線を向けてくる。
いや、だからなんなの!?
「よく寝てたから、連れて来たんだよ?」
「……いや、ねてたから連れてきたとか意味ふめーだけど……とりあえず、ここはどこ?」
ルイ君に質問すると、彼はにっこりと微笑む。
……なんだろう。その笑顔に、嫌な予感。
「王宮の会議室だよ、アリエス」
そして……それを聞いた私は、スッと遠い目をした。
…………もう、驚くのに疲れたよ……。
目が覚めたらそこは……王宮でした☆




