第22話 事後報告ほどタチが悪いモノはない。(2)
更新が遅くて申し訳ありません!
ヤンデレ成分が若干マシ始めておりますので、苦手な人は逃げようね!
それでは、今後ともよろしくどうぞっ(*´ω`*)ノ
※ルイ目線
〝無から有を生み出す力〟ーー。
それは、万能そうに見えるけど……実際はそんなに万能なんかじゃない。
例えば、エクリュ侯爵家の屋敷に展開してる対固有能力持ち結界の魔道具。
精霊術が効かない固有能力持ちを屋敷に入れないようにしたけれど……今回の件で、固有能力と無関係の〝他者〟に固有能力をかけた状態ならば、結界を超えてしまうという弱点が発覚した。
……まぁ。これはまだ、邪神の力を把握しきれない時に造ったやつだから、仕方ない。
後で改良しよう……。
次に、ひよこ。
あれの持つ力は探知・探索能力。ただし、アリエス限定。
この世界のどこにいようとアリエスだけは確実に見つけることができるけれど、他は一切、探知・探索することはできない。
……後、思わぬ効果(?)だったけど……巨鳥モードとひよこモードが取れるらしい。
元は巨鳥だからか、ひよこモードでも羽ばたくと凄い。
ついでに言うと、今後もアリエスを守る気満々なのも予想外だったかな。
……今もアリエスの側を離れないし。
最後に……さっきのハリセン。
あれは効果範囲を捨てた代わりに、傀儡化解除の確実性を上昇させた。
もし、効果範囲を優先したら……傀儡化解除の確実性は低下してたと思う。
……傀儡化解除が確認できたらいいなぁって思いながら創ったら、あんな星が出る仕組みになったから……内心、驚いたけど。
と、そんな感じで……邪神由来の〝無から有を生み出す力〟は、何かしらを特化する代わりに何かしらを劣化させるという制限がある。
後、あんまり常識外れすぎるモノや世界の理に反するモノは作れない。
…………ひよこはあくまでも魔道具的な生命体だから、生命の創造にはならないよ。
だから、実際にこの力はそんなに凄いモノじゃない。
だけど、何も知らない人からしたら……ボクの力は衝撃的なモノだろうね。
大きな力を得るには代償は付き物だし。
……………だから、何も知らない兄様が凄まじく険しい顔をしてるのも仕方のないことだよね。
庭にいた倒れていた人々の頭を新たに創ったハリセンでぶっ叩いて、応接室のソファでアリエスを抱き締めたまま休憩していたボクは……険しい顔で転移してきた兄様を見て、少しだけ驚いた。
「珍しい。義姉様は置いてきたんだ?」
そう……そこにいたのは、兄様一人。
いつも万年新婚夫婦ってる二人が、一緒に居れる時に一緒にいないのは……なんか違和感って言うのかな?
だけど、兄様はそれに〝お前が言うか?〟って顔をした。
「そりゃあ、シエラも一緒が良かったけど……庭に倒れた人達を放置した人がいるからね。それの対処もしなくちゃいけないだろう?」
……あぁ、そういえば。
叩くだけ叩いて、放置したっけ?
すやすや眠るアリエスの頭を撫でながら、ボクは口を開いた。
「ふぅん。大変だね」
「お前が片付けておけばシエラもここにいたんだけど!?」
「無理。今日はもう疲れた」
……まぁ。精霊術を使えば簡単な話だから、できないことはないんだけどね。
でも、疲れたと言うのも本当。
ボクの返事を聞いて、兄様はなんとも言えない顔をする。
そして……向かいのソファに座ると、真剣な目でこちらを見てきた。
「で? あの力は何?」
「邪神の力だよ」
「…………は?」
「だから、邪神の力。というか、ボクが邪神?」
「…………………………」
兄様はそれを聞いて、大きく目を見開く。
回りくどいのを嫌うだろうと思って簡潔に答えたんだけど……大丈夫かな? 固まってるんだけど?
だけど、数秒後にハッと我に返った様子で眉間を揉むと……呻くような声で呟いた。
「…………詳細」
……あぁ、詳細が聞きたかったんだね。
ボクはアリエスに出会った日から感じていた〝予感〟から、異なるボクと邪神との取引、今日までのことを話す。
全てを話し終えた頃……兄様は……。
馬鹿な子を見るような目で、ボクを見てきた。
「馬鹿じゃない?」
見るだけじゃなくて、普通に馬鹿だって言ってきたね。
でも……。
「やったことは兄様と同じだと思うんだけど?」
ボクは首を傾げながら、答える。
だって、ボクがボクを吸収しようとしたのは……兄様もやったことがあるのを知ってたからだ。
だけど、兄様は呆れたように溜息を零す。
「……まぁ、確かに? 吸収したのは同じかもしれないけど? だけど、吸収した相手は違うでしょう?」
「似たようなモノだよ」
「いや、全然違うから。俺の場合は《穢れの王》化してたけど……でも、相手は同位体を吸収しまくった同位体の俺。ルイが吸収してたのは邪神を宿してた同位体の君だ。あくまでも自分を吸収した俺と、それ以外も吸収したルイ。ついでに君は邪神もどきにもなっている……これでも同じって言える?」
…………兄様は鋭い瞳で、ボクを見つめる。
そして……凍りつくほどの、殺気を放ちながら告げた。
「よく、そんな危険なことができたね? よく、無事だったね? 場合次第では、俺がお前を殺さなきゃいけなかったよ」
……邪神。
それが精霊王から聞いたモノと同じならば……ソレはこの世界を壊す存在だ。
もしもボクが邪神に呑まれていたら……暴走していたら。
確かに、ボクは世界の敵になっていただろうね。
そうなれば、兄様がボクを殺さんとするのは当然。
ううん、兄様だけじゃなくて……世界に生きる全ての者達がボクを殺そうとするだろう。
だって……自分達を殺そうとするモノに……自分達の大切なモノを壊そうとするモノに抗うのは、当然だから。
でも、それは現時点では絶対にあり得ない未来だ。
「ふふふっ、安心しなよ。当分はそんな未来は来ないからさ」
「なんで?」
「あははっ! 兄様なら分かるでしょう?」
ボクは笑う。
腕の中で穏やかに眠る愛しい子の温もりを感じながら。
本当に幸せな気持ちになりながら笑う。
そして、恍惚とした気持ちになりながら……告げた。
「だって、この世界にはアリエスがいる」
「…………っ!」
自分が思ったよりも、熱を帯びた声だった。
ドロリとした仄暗い感情が、胸から込み上げてきて……口角を否応なしに持ち上げる。
「邪神と同化しても壊れなかったのは、アリエスがいるからだよ。ボクも、彼もアリエスが大好きだからだよ。力を求めたのは、アリエスを守るためだ。だから、ボクは……アリエスがこの世界にいる限りは、この世界を滅ぼさない。だって、世界を滅したらアリエスが悲しむだろうから」
アリエスを悲しませたくないから、ボクは彼女が悲しむようなことをしない。
アリエスが喜ぶならば、ボクはなんだってしてあげる。
アリエスに近すぎる人はあんまり気分が良くないけれど……彼女のためになるなら、我慢しよう。
そして……アリエスを傷つけるなら、ボクは許さない。
「だから、安心してよ。今はまだそんな心配いらないよ?」
首を傾げて告げたボクに、兄様は呆れた顔をする。
ここまで言ったんだ。
兄様は理解しないはずがない。
だって……ボクらは同じなんだから。
義姉様のために、ドラゴンを殺したことがある兄様がボクの行動を分からないはずがない。
兄様は大きな……それはもう大きな溜息を零す。
その顔は、ボクのしたことを理解しきった顔。
そして、〝どうしようもないなぁ……〟と言わんばかりの顔で告げた。
「はぁ……もういいよ。ルイが現時点では脅威ではないって分かったから」
「それは良かった」
「でも、ルイが世界の敵になるなら……その時は容赦しない。シエラだけじゃなくて……俺は、背負うモノが多くなり過ぎたから。だから……」
ーー俺は自分の守るべきモノのためならば、弟すらも殺す。
兄様の瞳は、音にならなかった言葉をボクに強く訴えてくる。
そんな兄の姿に……ボクは苦笑を零した。
「長生きするのも大変だね?」
「長生きするほど面倒ごとは増えていくさ。でも、悪い気分ではないよ。それが生きるってことだから。それに……最優先なのはシエラであることは変わらないしね」
「だろうね」
じゃなきゃ、異なる世界線で義姉様が妊娠することにならないよね。
…………まぁ、言わないけど。
「じゃあ、この話は終わりだ」
「分かった」
「次は話すことが遅くなったことへの説教ね?」
「………え?」
ピシリッ。
ボクはそれを聞いて、頬を引き攣らせる。
「事後報告も悪いけど……時間が経ってるタイプの事後報告ほどタチが悪いモノはないよ? つまりね?」
にっこりと微笑んだ兄様。
だけど……その目は一切、笑っていなかった。
「もっと早く話すべきだったよね? もっと早く話すこともできたよね? なんで、今頃なのかな?」
……………そう言った兄様は……今日一で……怖かった。
……………その後。
ボクはアリエスを抱いたまま……二時間ほど正座をさせらましたとさ……。




