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第18話 這い寄る悪意と嗤う傀儡(2)


書いてたらね。シリアスになったんだ。

書き進めてたら話がプロット通りにいかなかったのさ!

なので、前話のサブタイトル変えました。

苦手な人は逃げようね!


では、今後ともよろしくどうぞ!

 








 その日、オレ達が出会ったのは……とっても可愛い女の子だった。





 キラキラと光る水色の髪と、緑色の目。

 肌も真っ白で……元々、この家には綺麗な人が多いけど、実際に光ってる女の子なんて初めて見た。

 でも、そいつはオレらなんて目もくれなくて。



 …………ただ、ひたすらに目の前に置かれた夕飯を食っていた。



 可愛い見た目に反してめっちゃ大食いだった。

 あんな小さな身体にどんだけ入ってくんだってスッゲェ思った。

 ぶっちゃけ、見てるだけで胃もたれしそうだった……というか、実際にした。

 ……そんなこんなで。



 結局、胃もたれで食堂から退散してしまったその日は……話をすることすらなく終わってしまった。









 後日ーー。


 オレらは〝ほんたく〟に忍び込んでいた。

 まぁ、忍び込むって言っても……別に入っちゃいけねぇーって言われてる訳じゃないんだけど。

 普通はダメらしいけど、この家は()()()()()だから、オレらも自由に出入りしていいんだって。

 ……まぁ、今はそんな話どうでもいいか。そんな感じで、とにかく。



 オレ達は、一緒に遊ぶために彼女を探していた。



 初めて会った日から数日後ーー。

 あの新入りの女の子が夕食の時はいるのに、普段は見かけないから……不思議に思って親父に聞いたら、アイツは〝きぞく〟じゃないけど、ほんたくで暮らしてるんだって教えられた。

 ほんたくで暮らせるのは〝エクリュこーしゃくけ〟の人達だけなのに、変なのって思ったんだ。

 でも、きぞくじゃねぇーなら一緒に遊んでも構わないってことだよな。

 元々、メイサ達もアイツが気になるって言ってたし。

 い、言っとくけど! オレは別に気になってる訳じゃねぇから!

 メイサ達が気になるって言ってたから、付き合ってるだけだからな!



 だけど、そんなオレらはーー偶然聞いてしまった会話で、遊ぶ(それ)どころではなくなってしまった。



 オレらがほんたくに入った裏口ではなく、表玄関の近くに来た時ーー。

 そいつが、これから出かけるだろう家の人に『勝手に出かけちゃいけない』って言われているのを聞いちゃったんだ。

 オレ達は驚きを隠さずに顔を見合わせる。


「………なぁ、勝手に出かけちゃいけないって……」

「な、なんであんなこと言うんだろ……。それも、()()()()()()()をして!」

「……何故、こちらで暮らすのかと思ってましたが……もしかして。あの子は、こちらの建物に()()()()()()()()()?」


 オレらの中で一番頭が良いオリーが、ぽつりと呟く。

 それを聞いたオレとメイサはギョッとして……それを信じてしまった。


「閉じ込めるなんて、酷いだろ!」

「う、うんっ……! 酷い……!」

「なら、僕達で()()()()()()()。きっと……()()も喜ぶよ」


 ()()()()()()()()オリーの言葉に頷く。

 その後、オレ達は隠れたまま後を追って……。

 そして、図書室で一人になったタイミングでアイツを外へと連れ出した。



 だけどーー。



 その時のオレらは分かってなかったんだ。






 この選択がーー後に〝()()()()()()〟ことを……。





 〝()()〟を起こすことになることをーー。








 *****







 ちょっと冷静に振り返ってみよう。




 私は図書室で本を読んでいた。

 んで、集中して周りへの意識が薄まったタイミングでーー。



 …………見たことがない子に抱っこされて、連れ出された……。




 五歳ぐらいとは言え、身体が小さいからなのか……簡単に連れ出されちゃったよね……。

 驚いて声を出したけど、運悪く誰も側にいなかったのか……誰にも見つからずに外まで来ちゃって。


 そうして連れ回されて(?)今ーー。



 私は市場(?)らしき場所の路地裏で、やっと解放されたのでしたとさ。



 …………うん。嫌な予感しかしないな……(遠い目)。



「……………はぁ、はぁ……よーし。ここまで来れば大丈夫だろ!」


 そう言ったのは私を抱っこしていた茶髪のヤンチャそうな少年。

 結構長い間私を抱っこしていたからか……ちょっと息切れ気味だ。

 その隣で走っていた赤毛の気弱そうな女の子は、私を心配するように顔を見てくる。


「大丈夫だった?」

「…………」


 その〝大丈夫〟は何に対する大丈夫なんだろうね。

 言葉を返さないことに不安を抱いたのか……女の子は後ろを振り返って、この場所まで先導した深緑色の髪の男の子に声をかける。


「オリー君……」

「大丈夫ですよ、メイサ。急に連れ出しましたから、緊張しているんですよ」


 〝メイサ〟と言うらしい女の子に〝オリー〟と呼ばれた男の子は……どこか()()()()()()を浮かべる。

 ………私はそんな三人を……正確にはオリーに()()()()を感じて、後ずさった。


「…………なん、で……私を……」


 冷静に考えなきゃいけないって分かってるのに、思考がままならない。

 無意識に身体が震えて……冷や汗が出て。

 背筋がゾッとして、肌が粟立つ。

 …………なんなの? なんで、こんなに……。



 ーーーー恐いの?



「……なんでって……お前、ほんたくに閉じ込められてたんだろ?」

「そ、そう! セル君の言う通りだよ! だから、助けてあげなきゃって!」

「…………は?」


 ……本宅に、閉じ込められてる?


「…………だれ、が?」

「お前だよ、アリエス!」


 ヤンチャそうな男の子……セルに名前を呼ばれて私は目を見開く。

 …………私、この子達知らないんだけど……。

 なんで、この子達は私のことを知って……本宅に閉じ込められてるなんて勘違いして……?

 いや……今は、そんなことどうでもいい。


「…………私、かえらなきゃ……」


 心臓がドクドクと、嫌な鳴り方をする。

 どうしよう、今すぐ帰らなきゃ。

 じゃなきゃーー。




 ーーーー()()()()()()気がする。




「「そんな直ぐに帰ろうとしなくてもいいじゃないかーー〝()()()〟ちゃん」」


 ぞくりっーー。

 楽しげに、でも悪寒を覚えるような声にーー私は動けなくなった。

 その言葉を紡いだのは……オリーと呼ばれた男の子。

 そしてーー路地裏の向こう側から歩いて来た……暗灰色のローブを纏った〝()()〟。


 だけど、その〝誰か〟の目的が分かってしまった。



 〝()()()〟ーー。



 そう、私を呼ぶのはーー。



「………………《邪神兵団》……!」


 ピクリッーー。

 ローブを深く被っている所為で口元しか見えないけれど……。

 ニタリと……その口角が歪なぐらいに、持ち上がった。


「おっとぉ? 自己紹介した覚えはないんだけど……召喚師ちゃんは僕らを知ってる感じなんだねぇ? あぁ……そういえば。君がいる場所は精霊王のお膝元、とも言える場所だからか。精霊王に教えてもらった? なら、僕らを知ってるのも当然かもねぇ」

「っ……!」

「あははっ、逃がさないよぅ!」


 ガシリッ!

 走り逃げようとした私の腕を強く掴むオリー。

 そんな彼を見てセルとメイサは……ギョッとした顔で叫んだ。


「な、何してるんだよ! オリー!」

「オリー君っ……!?」

「ふははっ、ごめんねぇ? 君らのオトモダチであるオリー君は今、僕の傀儡になってもらってるんだよぉ? だから、君らの声は届かなーいっ♪」


 嘲るように告げられた言葉に、セルとメイサは顔面蒼白になった。

 きっと、意味が分からなくて困惑してるんだろう。

 でも、私もそんな二人を気にしてる暇はなかった。

 だって……。



 こいつの目的はーー召喚師()だ。



「さてさて。分かってるかもしれないけどね? 僕らの目的は君だよ、召喚師ちゃん。本当は赤ちゃんの内に洗脳(教育)したかったんだけど……まぁ、成長してしまったならそれはそれで仕方ないね」


 ゆっくりと……そいつは、私に近づいてくる。


「君を奪うためにエクリュ侯爵家を強襲しようかとも思ったんだけど……あそこには()()()()()()()結界が展開されてたから、固有能力持ち(僕ら)でも手出しできなくてさぁ。仕方ないから、屋敷に出入りする子を傀儡化させて潜入させて。馬鹿な子供を誘導させてこんな場所に連れ出させる……なんて面倒くさいことしたんだよぉ?」


 ギリギリと、オリーの掴む力が強くなっていく。

 子供とは思えない力に、腕に走る痛みに、歯を食い縛る。


「ーーそこまで、面倒をかけさせたんだから……大人しく僕に従ってねぇ? じゃなきゃ、そこにいる子供三人……殺しちゃうよ?」

「っ……!」

「「ひぃっ……!?」」


 そして……目の前に来たそいつは、冷え切った声でそう告げた。

 その声音は、嘘ではなかった。

 きっと、こいつは私が従わなかったら……本当にこの三人を殺す。




 ーーーー私の所為で、この子達が……死ぬ。




「……ぁ……ぁぁ……」


 恐怖で思考も、身体も動かなかった。

 前世を含めて……今までの私は、死が身近にあることを意識したことがなかった。

 だけど、今は違う。

 この人の声と態度が、死が私達の隣にいることを強く実感させてくる。

 …………自分()が原因で、誰かが死ぬ恐怖を……実感させる。

 深い深い奈落に、落とされたような気分だった。

 そんな私を見て……目の前に立ったそいつは、嗤う。


「ふふふっ……絶望した顔、可愛いねぇ。これから、僕の傀儡にしちゃうのが勿体ないぐらいだ。でも、仕方ないね。団長の指示だもん」


 何をするつもりなのかは分からなかったけれど……きっと、よくない事が起こるんだろうってのは予想がつく。



 なんで、こんな目に遭わなきゃいけないのーー?



 無理矢理連れ出されて。

 そして、《邪神兵団》に捕まって。

 なんで……こんなことになるの?



 …………私は、どうなるの?



「せめて、苦しまないように……何も感じなくなるようにしてあげるねぇ?」


 ゆっくりと私の頭へと伸びる手。

 その手を見つめながらーー私は、ただ一人だけのことを思い出していた。


 漆黒の髪と、真紅の瞳。


 溶けるぐらいに甘やかしてくれるーー私の保護者。

 

「…………ルイ、君……」


 こいつらに連れて行かれるのは、嫌だよ。ルイ君……。

 もう、君に会えなくなるなんて嫌だよ……!



「…………たすけてっ……!」



 目を瞑りながら、叫ぶ。

 そうしたらーーーー。




「ーーーーいいよ」






 ーー初めて出会った日と同じ言葉が、聞こえた。









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