第17話 這い寄る悪意と嗤う傀儡(1)
お久しぶりです!
不定期すぎてごめんなさい!
体調がとてもよろしくなくて、遅くなりました。
今後とも体調次第で更新していきますので、気を長ーくしてお付き合いくださいませ。
それでは、今後ともよろしくねっ!
※サブタイトル変更しました。
エクリュ侯爵家にお世話になって……なんだかんだと早一ヶ月。
最初はちょっと戸惑うことが多かったけど、今ではある程度落ち着いてきた今日この頃……。
私は毎日、砂糖を吐きそうになりながらも頑張ってます☆
「……………あぁ、アリエスと離れたくないなぁ」
その声はまるで、今世の別れだと言わんばかりに悲しげな声だった。
「……アリエスはボクと離れるの、寂しくない?」
悲しげに揺れる赤い瞳が、私を見つめて。
私を抱き上げる腕に、ほんの少し力が入る。
寂しいか、寂しくないかーー。
そんなの聞かれたら、ルイ君と離れるのは寂しい気分になるに決まってる。
だけどねーーー?
毎日同じやり取りしてりゃあ、寂しさも多少は薄れるし、いい加減に慣れるわ。
「いーかげん、仕事いけ」
ぺちこーんっ!
ルイ君の額を叩きながら(筋力が皆無なので、殆どダメージがない)、私はさっさとルイ君が仕事に行くように促す。
ルイ君はそんな私の態度すらも愛おしそうに、その美しい顔に蕩けるような笑みを浮かべた。
「ふはっ……雑なアリエスも可愛いなぁ」
「雑がかわいいとは」
「ぶっちゃけ、アリエスならなんでも可愛いよね」
そう言った彼の瞳のなんとまぁ、甘いことやら。
何、この砂糖と蜂蜜を煮詰めたみたいなドロッドロした目は!
私の専属侍女ゆえに壁際待機してるセリナが「うぷっ……あっまぁ〜……」とか吐き気を催してるよ!?
(※なお、セリナは朝の会話に入ろうとしてきません。)
ぶっちゃけこんな甘々を向けられてる私も胸焼けしそうだけどねっ!
でも、私は気合いを入れて……それを堪える。
「ほら、ルイ君。もういーじかんですよ。駄々こねてないで、とっととおしごとに行ってくださーい」
「…………はぁ、そこまで言われたら仕方ないかぁ。アリエスと離れるのはすっごく嫌だけど」
彼は離れることが名残惜しいとその目で雄弁に語りながら、渋々私から腕を離す。
そして……ルイ君は私の頬に、こめかみに、目尻に……もう顔中至る所にキスを落として、にっこりと微笑んだ。
「んにゃっ……!?」
「それじゃあ行ってくるね、アリエス」
「っっ〜!」
「……〝行ってらっしゃい〟って、言ってくれないの?」
しゅーんっ……という効果音が似合いそうなほどに、悲しげな顔をするルイ君がちょっと可愛くて、思わず息を飲む。
いや、違う。今はルイ君が可愛いとかじゃない!
私は気合いを入れて(……気合いを入れないと挨拶できないってどういうこと……?)、口を開いた。
「いっ……いってらっしゃい……っ! ルイ君っ!」
「うん。行ってくるね、ボクの可愛いアリエス。勝手に外に出ちゃ、駄目だからね」
ルイ君は最後にもう一度だけ、額にキスをしてから仕事場へと転移をする。
そんな彼を見送った私は……ガクリッ! とその場に両手、両膝をついた。
「あまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあいっっっ!」
ここ最近、ルイ君の出勤と同時に叫ぶのが日課になってる気がするんだけどっ……!?
でも、仕方ないと思うんだよ!?
転生してから二日目の時点で既に甘かったけどね!?
日に日にその甘さが胃にくるって言うかっ……!
瞳が、声が、態度が、触れる指先がっ……!
彼の全部がっっっ、私を恥ずか死させようとしてくるぅぅぅう!
「うぷっ……本日もお疲れ様ですぅ〜」
…………なんて私を労わるようなことを言ってるセリナだけど……思いっきり口を押さえて目を逸らしてますね……?
……この光景を目撃した他の使用人達も同じような反応(胸焼けするらしい)をしてたよ。
(※尚、エクリュ侯爵家の方々は、何故か全然普通そうな顔してました。)
ある意味、胸焼け光景の当事者である私は……ちょっとバツが悪い気分で頬を掻いた。
「…………えっと……むねやけさせて、ごめんなさい……」
まぁ、ね。
こんな風に悶える&胸焼けさせちゃうならお見送り止めればいいって話なんだけどね?
でも、どこにいようがルイ君は甘いし、とんでもなく甘いし、砂糖吐きそうなぐらいに甘々だし。
なんかもう日課になっちゃって、お見送りしないと落ち着かなくなっちゃったし。
…………セリナには悪いけど、多分、お見送りは止められない……。
なので、〝今後もこれは続きます。胸焼け、ごめん〟という意味で謝ったら、セリナは目をパチパチさせて慌てて首を横に振った。
「え? あぁ〜……お気になさらずに〜。胸焼けするのは何もアリエス様達だけではありませんし〜」
「………あ、そうなの…?」
「はい、そうです〜。大旦那様ご夫妻も、若旦那様ご夫妻も溺愛甘々胸焼けフィーバーしておりますから、まだアリエス様達は凄くマシですぅ〜」
セリナはげっそりとした顔で告げる。
大旦那様ご夫妻……ってのは、シエラ様とルイン様だよね?
若旦那様ご夫妻っていうのは確か、シエラ様達のご子息で……領地にいらっしゃる長男夫妻のことだっけ?
…………っていうか、え?
私達(というか、ルイ君だけど)もかなり甘くてヤバいと思ってたけど……。
シエラ様達って、私達よりもヤベェの?
……私、お茶してる時とかに雑談と称してヤンデレ惚気話を聞かされまくってたけど……アレはまだ序章だったのか……!?
もしかしなくてもっ、私はまだ、本当の意味でのシエラ様達のヤベェ甘々を分かってない感じ!?
あっ……なんかいつか、シエラ様達に胸焼けさせられる未来が見えた気がする……。
「まぁ、そんな感じですのでぇ〜」
「はぁ……」
「それで、今日はどうなさいますか〜?」
セリナは未だに両膝をついていた私を立ち上がらせながら質問してくる。
ぶっちゃけ、この一ヶ月で学べることは学べちゃったから……〝もう勉強を教える必要はないわね〟ってシエラ様に言われちゃったんだよね。
知識チート(?)様々のおかげだと思う。
お外に出るのと召喚術の練習は、何かあった時に対処できるようにってルイ君が一緒の時だけって言われてるから……ルイ君がいない日は、エクリュ侯爵家にある図書室で本を読んだり……。
セリナとかシェリー様とかとお茶をしたりしてる。
本当はタダ飯喰らいは良心が痛むから、働いて恩返しできたらと思うんだけど……見た目が子供だから、働かせてもらえない。
まぁ、外聞が悪いから仕方ないよね……。
大人になったら恩返しできるように、今は知識を蓄える時だと思ってそこは割り切ることにした。
だから、今日もーー。
「……としょしつに、行きます」
「畏まりました〜」
「一人でよみたいです」
「…………はい、分かってますぅ〜」
セリナは優しく、でも困ったように笑って了承してくれる。
彼女の仕事は私専属の侍女だから……セリナはいつでも私に付き合おうとしてくれる。
だけど、私の見た目は子供でも中身は大人だし。
ずっと側にいてくれなくても、自分のことは自分でできるし。
だから、はっきりとこう言うと、セリナはきちんとそれに従ってくれる。
セリナにも私の精神年齢が大人であることは話してある(異世界転生のこと話さなかったけど、エクリュ侯爵家のご子息から直ぐに納得してくれた)から……過保護すぎるのも、私の精神的な負担になるのだろうと理解してくれているんだと思う。
でも、側にいることがある意味、侍女の仕事だから……こんな顔をさせちゃうんだよね。
本当、申し訳ない気持ちだわ……。
「ごめん、ね。セリナ」
「……いいえ、大丈夫ですぅ。わたくしも見守られ続けたら嫌だと思いますし〜。でも、お屋敷の外には出ないように気をつけてくださいね〜」
「はい」
「では、参りましょうか〜」
セリナに手を引かれて……キッチンに寄ってお茶セットを持ってきてくれるようにお願いしてから、図書室に向かう。
そして、図書室に入るのを確認したセリナは、視線を合わせながら優しく笑った。
「では、何かあったらわたくしに限らず誰でも構いませんので、お声がけくださいね〜。お昼頃にお迎えにあがります〜」
「うん、ありがとう」
「いえ〜。それでは、失礼しますね〜」
一礼して去って行くセリナに手を振る。
廊下の向こうに彼女が消えるのを見送ってから、私は図書室を見渡した。
とは言っても、部屋三つ分もあるから一般家庭にあるにしては、かなり広いけど。
「…………きょうは何をよもーかな……?」
そう呟いた私は、歴史書が並んでるエリアの方に向かって歩き出す。
そして、その数十分後ーー。
私は図書室じゃなくて、王都へと連れ出されて(またの名を拉致られて)いましたとさ☆
…………どうしてこうなったっっ!?!?!?




