第44話 狂乱の銀狼(2)
しかし、その途中……。
向かい側から、筋骨隆々で強面の大男を先頭に、駐屯軍の傭兵たちと思われる集団が歩いてきた。
知らない顔だと見て、ルードヴィヒに眼を付けてくるが、ルードヴィヒは平然としている。これをふてぶてしく感じた大男はミヒャエルを詰問した。
「おいおいミヒャエルさんよう。そこの小生意気な奴は、何処のどいつでえ?」
「こいつは、ローゼンクランツ翁の孫だ。失礼を働くと親父が黙っちゃいないぞ!」
「けっ。爺の七光りの陰に隠れた腑抜け野郎か。興味が失せたぜ」
これには、ルードヴィヒも癪に障ったった
「いってぇ、おらのどこが腑抜けでぇ!」
「だったら、腕で示して見せろや。背中に背負った双剣が飾り物じゃないならな」
「おぅ。望むところだっちゃ!」
(くぅぅっ……なんてことだ。完璧だったはずの、俺の計画がぁ……)
ミヒャエルは、頭を抱えたくなった。
こうなってしまっては、傭兵たちを止めるのは無理だ。
(それにしても、ルードヴィヒの奴。普段はおっとりしているくせに、意外にバトルジャンキーだな……まあ、ローゼンクランツ翁の孫なら、それも仕方ないか……)
それから、駐屯地の武闘場に場を移し、両者は対峙した。
ルードヴィヒは相手を値踏みする。
レベル32で、オーラは第2チャクラ(丹田)が開いていることを示す橙だ。両手には、バトルアックスを装備している。
(まあ。中堅どころのパワーファイターといったとこけぇ。クイック系のおらにとっちゃぁカモだのぅ)
実際、戦ってみるとルードヴィヒの剣撃が一撃で相手の脇腹に決まった。彼が使う片手剣は片刃なので、もちろん峰打ちであるが、あばらの2、3本は折れただろう。
大男は、脇腹を押さえて蹲り、痛みに呻きながら脂汗をかいている。
大男の仲間が叫んだ。
「ちくしょう! このまま終わっちゃあ鷹の爪の名折れだ。誰かいねえか?」
「俺がやる」
そう静かに言い放った男は短槍を装備した槍使いである。
槍使いの中ではクイック系だが、これもルードヴィヒの敵ではなかった。
あっという間に懐に潜り込まれ、これも脇腹に一撃が決まった。
そして……。
次々と挑戦者が現れるが、ことごとくルードヴィヒに退けられている。
騒ぎを聞きつけた傭兵たちが三々五々集まってきて、口々にやじや罵声が飛び交い、武闘場は騒然とした熱気に包まれた。
その中に、ライヒアルトも含まれていた。
("もう驚くまい"とは思っていたが、いつも予想の上を行きやがる……)
ライヒアルトは、格闘術も使うが、基本的には弓使いだ。このため、ルードヴィヒと立ち合うことは難しいが……。
(弓の試合なら……)
そう考え始めたライヒアルトは、頭を振った。
ルードヴィヒの弓の腕前を見たことはないにもかかわらず、負けてしまう光景がライヒアルトの頭を過ったのだ。
(奴なら……あり得ないことではない……)
事実、ルードヴィヒは、シオンの町で弓の修行もしており、その腕は師範も舌を巻くどころの騒ぎではなかった。また、弓術と風魔法や念動力との組み合わせは、はっきり言って洒落にならないしろものだ。
その意味では、ライヒアルトの勘は、ズバリ的中していたのだった。
そして、昼時となって一旦は中断となった。
昼食のときも楽し気にしていたルードヴィヒを見て、ミヒャエル止めることを躊躇った。
(俺の計画は、ふりだしに戻ったと考えよう。やむを得ない……)
結局、武闘場での試合は、昼食をはさんで夕刻まで続いた。
まだ少年のルードヴィヒの体力が良く続くものだと、傭兵たちは驚嘆せざるを得なかった。
このままエンドレスなのかと傭兵たちが思い始めたとき……。
突然、武闘場が静まり返った。
傭兵たちが振り返り、見つめる先には、銀髪でこの上ない美貌のの優男が立っていた。彼の右頬には縦に一文字の刀傷があり、それがかろうじて傭兵であることを主張している。
彼からは凄まじい覇気が感じられ、それを隠そうともしていない。それは、触れれば切れる鋭利な剃刀のような危険な雰囲気を醸しだしている。
銀髪の男とルードヴィヒは視線が合った。
お互いに相手の強さを値踏みしているようだ。
傭兵の1人が、思わず声を漏らした。
「おいおい。いよいよ真打の登場かよ」
だが、銀髪の男は、傭兵たちの期待には応えなかった。
「俺は、戦場以外で無駄な体力は使わない」
……とボソリと言うと、そのまま静かに去っていった。
どうやら様子を見に来ただけのようだ。
ルードヴィヒが鑑定してみたところ、銀髪の男は、レベル68で、オーラは第5チャクラ(喉)が開いていることを示す青だ。これは、そこいらの武術師範を軽く超える強さを示している。
この男に、ルードヴィヒは強い関心を抱いた。
ルードヴィヒは、ミヒャエルに尋ねた。
「誰でぇ? あいつ?」
「Berserkerartiger Silberwolf(狂乱の銀狼)……」
「はぁっ? 何でぇ? そんこっ恥ずかしい名前は?」
「もちろん二つ名だ。本名はダリウスというが、二つ名の方が通りはいいな」
「そっけなもんなんけぇ? 傭兵の世界は……」
そのまま武闘場の雰囲気は納まり、お開きとなった。
ルードヴィヒは、ダリウスと手合わせできなかったことが、少し心残りだった。
事実を先取りすると、二人は帝国を代表する剣士の双璧として、Silberner Doppelwolf(二匹の銀狼)の二つ名で恐れられる存在となるのだが、それはまだ先の話である。
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