第37話 入学試験(2日目) ~その2~(3)
試験官が説明する。
「各自の行使できる属性で、標的の中心を狙って魔法を発動するだけだ。簡単だろう」
……と言うと試験官はニヤリと挑発的に笑った。
ルードヴィヒの前には、50メートルほど離れた場所に、横並びで4つの的が設置されている。
(4つか……なら元素魔法でちょうどええろぅ……)
「では……始めなさい!」
ルードヴィヒは、合図と同時に、火球、風刀、氷弾、岩弾の4属性の魔法を同時に発動した。もちろん無詠唱である。ルードヴィヒにしてみれば、「行使できる属性で」と言われたからミックスしただけだった。的の数が足りない分は、どうしようもない。
「バキッ」という音がして、魔法が的を貫いた音がした、微妙にズレて複数の音がしたので、木霊のようだった。的は丈夫なものではなく、木製のようだった。
(はあっ? 無詠唱で、4発同時発動だと! 早すぎてほとんど見分けがつかなかった……一つは火球として……)
魔法発動時の詠唱は常識だ。その場合、詠唱内容で魔法の種類は判別できるし、詠唱にかかるキャストタイムもあるため、発動のタイミングも容易に推測できる。
そう思い込んでいた試験官は、完全に不意を突かれた。
茫然としていた試験官は、的に駆け寄ると、発動された魔法を確認しようとした。全ての的は、中心部の黒く塗られていた部分が、型抜きのようにきれいにくり抜かれている。
(精度が落ちるはずの無詠唱でこんな完璧な……あり得ない……)
的を貫いた氷塊と岩塊は発見できた。火球が命中した部分は、縁が焼け焦げていたので判別できた。
が、もう一つがわからない。
(風属性なのか? だとすると4属性を4発同時発動となるが……まさか……そんな常識外れは……入試でクアトルなど聞いたことがない……)
試験官には、もう本人に確認するしか方法がなかった。
だが、このことを悟られてはならない。
試験官は、ルードヴィヒに歩み寄ると、わざと横柄な態度で尋ねる。
「ああ……君。念のため確認するが、発動した魔法は何だね?」
「火球、風刀、氷弾と岩弾ですが……」
(風刀だと! だとするとあの丸い痕跡は……?)
「風刀だと、あのような丸い跡にはならないが……」
「ええ。ですから、風刀を高速回転させてくり抜きましたが、何か問題でも?」
(4属性4発同時発動のうえ、そのような精密な魔力操作をしたというのか……そんなバカな……)
「いや。そうだとは思っていたのだが、念のため確認したまでだ。あくまでも念のためだぞ、念のため……」
「はあ……」
試験官は、驚きの連続で気疲れし、もはやクタクタな気分だった。
だが、まだ動く的に当てる試験が残っている。
「では、次に動く的に当てる試験だ。特に合図はせず、係の者が任意のタイミングで的を投げるから、それに当てなさい。魔法の種類は問わない」
「承知しました」
試験官が、横柄な態度で顎をしゃくって合図を出した。これで試験開始のようだ。
しばらく間があって、係の者がフリスビー状の形をした的を放り投げた。クレイ射撃に似ている感じだ。
ルードヴィヒが、岩弾を無詠唱で発動すると、見事に的に当たり、的は砕け散った。
(くそっ! まさかとは思っていたのだが……ここまでとは……)
入学試験レベルだと、動く的に当てられる者はまずいない。詠唱している間に的が落ちてしまうことがほとんどだし、早口で詠唱すると精度が落ちる。仮に当たったとしても、まぐれ中のまぐれ当たりだ。だというのに……
試験官は、意固地になってしまった。
係の者にそっと何かを耳打ちした。
「よし。次の的だ」と意地の悪そうな声で言った。
すると、係の者は2つの的を連続して投げた。
ルードヴィヒが、岩弾を無詠唱で2発同時発動すると、2つとも見事に的に当たり、的は砕け散った。
(こんなことがあっていいのか! こうなったら、もうやけくそだ!)
試験官は、近くで傍観していた職員を無理やり引っ張ってくると耳打ちした。
「えっ! そこまで……」
……という声が聞こえたが、試験官に口を押えられ止められた。
そして……
今度は、試験官も的を投げるらしい。
3人はタイミングを合わせて、それぞれが2つずつの的を連続して投げた。
併せて6つの的が空中を乱れ飛ぶ。
ルードヴィヒは、氷弾と岩弾を無詠唱で3発ずつ同時発動すると、その全てが見事に的に当たり、的は砕け散った。
(徐々に的の数を増やしていくあたり、親切だのぅ……)
もともと試験の難易度を把握していないルードヴィヒは、試験官の悪意に全く気付いていなかった。
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