第27話 虐待の連鎖(1)
親による子の虐待は連鎖するという説がある。
これには賛否両論がある。
確かに子供時代に虐待されて育った親は心に傷を負っている。が、少なくともこの親が虐待を実行に移すことが必然とまでは言えないであろう。
ここで重要なのは、自分を愛してくれるパートナーなどの傷をケアしてくれる存在の有無なのではなかろうか。
「それでどうだったのだ? まさか死んだりはしていないだろうな?」
マルク・フォン・ツェルター伯爵は、報告に来た黒装束の男に尋ねた。彼がルードヴィヒの監視者として放った男である。
「それが……ほぼ瞬殺でした……」
「何っ! 本当か?」
マルクの眼は驚きで大きく見開かれ、自分の耳を疑った。
(最高峰の光の魔導士で、かつ、神の秘跡を受けた司祭でもあるヴィートゥス・エルレンマイアーでさえ歯が立たなかった相手だぞ。これを瞬殺とは……)
監視者の男は、この様子を見て自分の能力が疑われることを恐れた。続けて、詳細を事実の誇張なく語っていく。
マルクは、これを聞いているうちに苛立ちが募り、思わず口走った。
「ええい! ローゼンクランツ翁の孫は化け物か!」
普通であれば、武芸者は強いことに越したことはない。
だが、度を越した強さは、ときに畏怖嫌厭の情を起こさせてしまう。そうなってしまっては、社会から爪弾きにされかねない。
マルクは、ルードヴィヒの評価をどうしたものか、見当がつかなくなっていた。
◆
カミラ・フォン・ペンドラゴンは、母に虐待され続けられながら育った。
だが、これはある意味仕方のない面もあった。
カミラの母もまた、家族に虐待されながら育った過去を持っていたからだ。
このため彼女は人の愛し方というものを身に付けることができずにいた。
ペンドラゴン家に嫁入りしたのも政略結婚だった。
そして子を授かり、生まれた子供の姿を見て喜んだのも束の間のことだった。
彼女は、生まれた子を自分のような目には遭わすまいと心に誓ったつもりだった。
だが……。
生まれてきた赤ん坊に愛情を抱くことができない。
泣き叫ぶ赤ん坊にいろいろなことを試すが、一向に泣き止まない。
「何が気に入らないって言うのよ!」
途方に暮れるうちに、彼女はイライラが募っていき、ついには赤ん坊を叩いてしまう。
当然に、赤ん坊は火が付いたように激しく泣き始めた。
「ごめんねぇ……」
謝罪の言葉を気にしながら、慌てて赤ん坊を撫でさするが、気持ちは惨めになっていく一方だった。
カミラが成長しても状況は全く改善しなかった。
結局のところ、虐待の連鎖が起こってしまったのだ。
「この出来損ないが! 恨みたらしい目で私を見るんじゃない!」
そう言うとカミラの母はカミラの頬を殴りつけた。
カミラはこれを必死に耐える。
カミラは母の心情を察してはいた。
虐待が続いた後、母はときおり謝罪の言葉を口にしてきたからだ。彼女もジレンマの中でもがき苦しんでいる。
また、虐待することを恐れてか、放置されることも度々あった。だが、育児放棄も立派な虐待である。
精神が不安定となっていたカミラの母は、使用人に対しても度々イライラをぶつけていた。
これを恐れて、使用人たちも虐待を止めようとはしなかった。
あるいは、夫が妻の心のケアができる存在であれば、止められたかもしれない。
だが、夫は夫で領地経営が上手くいっていない不満を抱えていたからか、家庭を顧みず、最後には外に愛人を作って、家に寄りつかなくなってしまう始末だ。
更に不幸は続く。
カミラが15歳となり、学校に行くようになると、クラスメイトたちもまた、カミラを虐め始めたのだ。
この年頃の子供は残虐である。まだ倫理観を身に付けていないから良心の呵責がないのだ。
一方で、知恵は回るようになっているので、教師たちに対しては虐めの事実を巧妙に隠蔽していた。
結果として、虐め行為は際限がなく続いた。
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