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【完結】双剣のルード ~剣聖と大賢者の孫は俊傑な優男だが世間知らずのいなかもの~  作者: 普門院 ひかる
第5章 公都アウクトブルグ

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第21話 太っ腹な先払い

 この世界のエウロパ地方では、キリシタ教が浸透してきており、神聖ルマリア帝国ではキリシタ教を国教としていた。


 キリシタ教は、夫婦については一夫一妻制を教義としている。

 しかし、貴族や大商人の中では、正妻以外に愛妾(あいしょう)を邸内に同居させたり、邸外に愛人を作ったりすることも珍しくなかった。中には数十人単位で愛妾をかかえる性豪の者もいた。


 大公フリードリヒⅡ世は、抱えている愛妾はマリア・クリスティーナ一人で、邸外に貴族の愛人が複数いたが、まだまともな方であった。愛人との間に子供もいたが、この子たちはいずれも認知されていない私生児である。


 マリア・クリスティーナは、現在もなお大公から一番の寵愛(ちょうあい)を受け続けており、その影響で公邸内での権勢も高まり続けている。彼女の本意ではないが、正妻のイザベラとの間の軋轢(あつれき)は避けられなかった。


 彼女は、大公との間に1男2女をもうけていた。彼らはルードヴィヒの異父弟妹に当たるが、これまで一度の面識もない。

 ルードヴィヒはローゼンクランツ邸の居心地が悪かったので、今日も三毛猫亭を訪れていた。


 そこに、ジェラルドたち3人組が姿を見せた。


「おい。ヤスミーネ。ちょっといいか?」


 ヤスミーネは嫌そうな顔をしながらも、応対するため厨房(ちゅうぼう)から出てきた。


「これまでみてえに荒っぽいことをするつもりはねえが、借金は借金だ。少しずつでも返してもらわないと困る」

「わかってはいるんだけど、金額が大き過ぎていくらずつ返せばいいか見当もつかなくて……」


「そんなことを言って踏み倒す気じゃねえだろうな。それならお(かみ)に訴えざるを得ないぜ」

「そんなあ……」


「なじょしたがぁ?」


 二人のやりとりを小耳にはさんだルードヴィヒが、会話に混ざってきた。

 三毛猫亭が気に入って、ちょうど食事に来ていたところだった。


「おお。これは兄貴。この間は失礼しやした」

「なんでぇ。兄貴って? おら、おめぇより年下んがぁぜ」


「あんな実力を持っている方は尊敬に値します。ぜひ兄貴と呼ばせてくだせえ」

「ええっ。面倒(めんど)くせぇのぅ」


「まあ、そう言わずにお(ねげ)えしやす」

「う~ん……」


 ジェラルドはルードヴィヒが明確に否定しなかったので、肯定と解釈したようだ。


「そういえば弟分がまだ名乗っていませんでしたな。おい。おまえら」


 まず、やせぎすの男が挨拶した。

「俺はテオバルトです。よろしくお(ねげ)えしやす」


 続いて、太っちょの方だ。

「俺はフレーデガルです。よろしくお(ねげ)えしやす」


「おぅ……とりあえず、名前は覚えたすけ……

 そりだども、借金があるがぁろぅ。とりあえず、こんで足りっか?」


 ルードヴィヒは金色の硬貨を一枚、無造作に放り投げた。

 ジェラルドは、(あわ)ててこれを手で受け止める。


「いや。金貨一枚程度じゃ…………ん?」


 ジェラルドは、手を広げると、改めて金貨を確認した。大きさが大きい……


「兄貴ぃ。これってもしかして大金貨じゃあ……」とフレーデガルが自信なさそうに言った。


 3人は目を(こす)ると、よくよく確認する。


「やっぱり大金貨ですぜ」とフレーデガルが断定した。


 普通に生活している分には普通の金貨(1万ターラー:百万円相当)ですら滅多に目にしない。

 大金貨は10万ターラー(1千万円相当)である。3人は目にするのも初めてだった。


 ジェラルドは、これを()くしたりしたら大変なことになると気が遠くなった。


「ルードヴィヒの兄貴。これは足りるもなにも……」

「なんでぇ、足りんのけぇ。そんだば……」


 このままでは大金貨どころか白金貨(100万ターラー:1億円相当)を出されそうな勢いだ。そんなものを渡されたらショックで気を失ってしまうかもしれない。


 ジェラルドは、(あわ)てて止めた。


「そうじゃないんでえ! 多すぎるんです!」

「そんだば問題なかろぅ」


「おつりはどうするんですかぁぁっ!」

 ジェラルドは、思わず大声を出した。


 だが、ルードヴィヒは平然として答える。


「男がいったん払ったからにゃぁ、つりなんてちゃちなもんは受け取れねぇ。ヤスミーネさんにでもやってくれや」

「そうですか。わかりやした」


 だが、今度はヤスミーネの方で納まりがつかない。


「ルードヴィヒさん。さすがにそんな訳には……」

「そんだば、こうしょう。さっきん金は、飲食代の前払いだ。そうせぇば、当分の間、タダで飲み食いできるすけ」


「しかし……」

 ……とヤスミーネは反論しかけるが、ルードヴィヒは彼女の唇に人差し指を当てると、その言葉を止めた。


「これ以上気ぃ使わんでええて」


 ヤスミーネは、渋々引き下がった。


(こんなことされたら、私……どうしたら……)


 ヤスミーネは何かを思いつめた表情をしている。


「ルードヴィヒさん。大好き!」


 それまで会話を聞いていたヘルミーネは、その場の空気を(こわ)すようにルードヴィヒに抱きつき、(ほほ)に軽くキスをしてきた。慣れた感じで尻尾もルードヴィヒの体にくるくると巻き付けてくる。

 が、二度目ともなるとちょっと慣れた。


「私、ルードヴィヒさんのためなら何でもするわ。いつでも言ってね」

「おぅ。わかったっちゃ」

 ……と調子よく答えつつも、変な方向に考えを巡らせてしまうルードヴィヒ……。


(そんだどもに、女衆(おんなしょ)が"何でもする"なんて口にしちゃダメんろぅ……)

お読みいただきありがとうございます。


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