第17話 居酒屋 三毛猫亭(1)
ジャガイモは海外の原産であり、エウロパ地方ではまだ普及していなかった。
が、マリア・テレーゼは、海外からの輸入産物の中から偶然にこれを発見し、ローゼンクランツ邸で自家栽培していたものをシオンの町へ引っ越した際に持ち込んだ。
以来、シオンの町ではジャガイモが普及し、庶民には欠かせない主食の一つとなっていった。
ヴァレール城などではパンは自家製だが、そうではない庶民はパン屋でまとめ買いをしていた。パンは時間が経つと固くなる。これをスープなどに浸して食べるのだが、決して美味しいとはいえなかった。
ジャガイモは保存がきくうえ、調理も簡単で温かいまま食べられるということで好評を得ていたのだった。
また、この世界では元素には貴賤があると考えられていた。火や風は高いところに上昇するため高貴とされ、低地に下る水や土は下賎とされた。
食品にもこれがあてはめられ、高いところにできる果物や木の実は貴族の食べ物で、地中にできる芋や根菜は下賎の食べ物とされていたのだ。
だからといって、地下にできるジャガイモを嫌う者はシオンの町には唯の一人もいなかった。
アウクトブルグのローゼンクランツ邸に到着した翌日。
ルードヴィヒは、まず一番に実母のマリア・クリスティーナへの訪問の先触れとなる手紙を書いていた。相手の心証を悪くしないよう、慎重に丁寧な筆跡で書いていく。
彼女は大公の正式な愛妾であり、アポなしで訪問できるような身分ではなかった。
「こんでよしっ!」
手紙を書き終えたルードヴィヒは、続いての行動を思案する。
(あんま居心地が悪ぃようなら、屋敷の外で賄いつきの下宿でも探さねばなんねぇな……まあ、まちっと様子をみっか……)
今日一日、このままローゼンクランツ邸で過ごすのも居心地が悪そうだ。
(せっかくだすけ、アウクトブルグの町を探索してみっかのぅ)
仲間たちを探すと、ニグルとクーニグンデは、内弟子たちと訓練をかねた試合をするということだった。
内弟子たちに挑発的なことを言われ、売り言葉に買い言葉で、そういう流れになったらしい。
「くれぐれも怪我はさせるんでねぇがぁぜ」
「心得ております。主殿」
……とニグルは淡々と答える。
クーニグンデも同意したという顔をしている。
二人ともなんの気負いも見られない。
ルードヴィヒが内弟子たちを鑑定してみたところ、レベル20前後がほとんどだった。これがフェイクとしても、真実のレベルはそれほど高くはないのではないか。
(まあ、ニグルとクーニグンデなら余裕だろうて)
こちらはそれで良いとして……
続いて残りの仲間たちを探すと、ライヒアルトは、早々に職探しに出かけたというだった。こちらについては、上手くいくよう祈るしかない。
残るルークス、ハラリエルとゲルダであるが、やることもないので、ルードヴィヒとともに町の探索に行くことになった。
執事に外出する旨を伝え、屋敷の門を出る。
向かう先は庶民街だ。
祖父のグンター夫婦は資産を潤沢に持っているが、質素倹約を旨としており、食事や衣服も簡素なものを好んだ。
これは吝嗇ということではなく、資金の使いどころを心得ているということであり、鷹の爪傭兵団などへの出資は、その良い例だった。
彼らは若い頃から狩り続けてきた高ランクの魔獣素材をマリア・テレーゼのストレージに溜め込んでいた。一気に売ると値崩れを起こすからだ。
これは、ストレージの中は亜空間の一種であり、時間が止まっているため素材が劣化することはないからこそできる裏技である。
同様にルードヴィヒのストレージにも高ランクの魔獣素材が山積みになっているのだった。
ということで、質素倹約が染みついているルードヴィヒの足は、貴族向けの高級街ではなく、自然と庶民街へ向かったのである。
「おおっ! こらぁ豪儀(凄い)だのぅ」
先ほどから人出の多さや活気の凄さに"豪儀"を連発しているルードヴィヒを見てルークスはクスッと失笑をこぼした。
「ルードヴィヒ様ぁ。さっきから、そればっかりじゃないですかぁ」
ハラリエルにまで、指摘される始末である。
ゲルダも、このような都会を見るのは初めてだったので、目を丸くして見ていた。こちらは言葉も出ないようである。
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