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【完結】双剣のルード ~剣聖と大賢者の孫は俊傑な優男だが世間知らずのいなかもの~  作者: 普門院 ひかる
第15章 出征

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第128話 初会戦(3)

 ダリウスとルードヴィヒを先頭にした第六大隊は、陣形を再構築しようとしている敵右翼軍の横腹に痛撃を加え、これを粉砕した。さらに、敵中央軍の後背に回り込む。


 敵中央軍の後背に位置する皇帝軍の本陣は混乱の極致にあった。右翼軍が崩壊しつつあることは察せられるが、詳細な情報が全く入って来ない。総指揮官の不安は高まり、イライラの極致にあった。


「伝令は何をしているのだ!」

「それが……何の音沙汰(おとさた)もなく……」


「では、おまえが行って様子を見て参れ!」

jawohl(ヤーヴォル)! mein(マイン) herr(ヘル)!」(かしこまりました! 上官殿!)


 その直後、兵の一人が血相を変えて本陣に飛び込んできた。彼は叫んだ。


「指揮官殿! お逃げください! ぎ……」


 兵の言葉はそこで途切れ、バタリと前に倒れた。おびただしい血が流れ、血だまりを作っていく。後ろから斬撃を食らい、絶命していたのだった。


 総指揮官は、そこに銀髪のこの上ない美少年が立っている姿を見た。彼からは凄まじい覇気が感じられ、それは触れれば切れる鋭利な剃刀(かみそり)のような危険な雰囲気を(かも)しだしている。指揮官は著しい戦慄(せんりつ)を覚え、鳥肌が立った。


(しまった! 銀狼(ジルヴァーヴォルフ)か!)とすぐさま悟った総指揮官は、逃走を試みる。しかし、もはや少年の敵ではなく、後ろからバッサリと切られ、そのまま倒れた。薄れゆく意識の中で、指揮官は思った。


(あれは人間じゃない。化け物だ。人間の俺が勝てるわけが……)


 総指揮官が銀狼(ジルヴァーヴォルフ)と思った少年は、もう一人の銀狼(ジルヴァーヴォルフ)、すなわちルードヴィヒだった。


 総指揮官を失った皇帝軍は、秩序だった行動ができなくなり、程なくして瓦解した。約五千人の皇帝軍兵士が捕獲され、負傷者と死者は数千人に及んだ。退却時の混乱により、雨期であふれていたウェザー川で多くの兵が溺死した。


 大公軍本陣に作られた物見やぐらの上から戦況を観察していたミヒャエルは、父が主導して策定された作戦が見事に功を奏した様を見て、今更ながら軍師というものの職責の重大さを痛感していた。


(もしも軍師が読み違えて、逆に敵の策にはめられていたら)……そう考えると背筋が薄寒くなった。


 さらに、独断専行の意味も痛感していた。物見やぐらの上から見ても、ダリウスたち三羽烏とルードヴィヒの班の活躍は目立っていた。いくら作戦が当たったといっても、彼らの働きがなかったら、これほど容易に勝敗が決することはなかっただろう。確かに大隊や中隊規模の指揮官があのようなきめ細かな動きをいちいち指示するのは不可能だ。


 会戦が終わり帰投する道中で、ルードヴィヒは森に潜んでいた魔族についての報告書をしたため、軍幹部に提出した。伍長程度では、幹部に直接謁見するのは難しかったからだ。二十人もの魔族を一班で殲滅(せんめつ)したなど不自然であるので、報告書では森の精霊が助けてくれたということにした。実際に倒したのは木精霊・ドリュアスのプランツェと森精霊・アルセイスのヴァルトなのだから噓八百というわけではない。軍幹部たちは、皇帝軍の背後に魔族の存在があるという事実に上を下への大騒ぎとなり、結局、ルードヴィヒへの細かなツッコミはなかった。


 鷹の爪傭兵団の駐屯地へ帰投したとき、やはりコンスタンツェとリーゼロッテの二人が迎えに来ていた。二人はルードヴィヒの姿を認めると走り寄ってきた。が、ルードヴィヒへ抱きつこうとする寸前で二人はかち合い、二人の視線が火花を散らす。


「あなた。ここは身分が上の者に譲るのが礼儀というものでしょう」とコンスタンツェは自らの地位を振りかざす。


「私の方がお付き合いは長いし、深い仲まで進展していますのよ。大公女様は、ただのお友達ではないのかしら?」とリーゼロッテがやり返す。


「まあまあ。こかぁ喧嘩(けんか)してもしゃあねえでねえけぇ」とルードヴィヒが何とかしようと声をかける。二人は顔を見合わせた。今は一刻も早く彼の胸に飛び込みたい。


(ここは一時休戦としましょう……)と二人は了解したようで、コンスタンツェはルードヴィヒの右半身へ、リーゼロッテは左半身へ一斉に抱きついた。が、二人ともねぎらいの言葉をかけようとしたが、感極まって泣き出してしまう。


「ヒック ヒック ヒック……」と二人の鳴き声がこだまする。


 その場はうやむやのうちに解散となったが、その後コンスタンツェとリーゼロッテは、二人で面と向かってさしで話をしたらしい。リーゼロッテが自分にあったことの『既成事実』を語ったものの、コンスタンツェも自分の経験を開示して対抗し、議論は平行線のままになるかに思えた。要するに、両者ともこれまでに『既成事実』といえば『既成事実』があったということだ。


 結局……「ふん! 私は彼の大事なものを見たことがあるのよ」(リアルではないけれどね……)というコンスタンツェの言葉がとどめとなり、彼女が一歩リードということになったようだ。カール大公子が書いたルードヴィヒの精巧な裸体画は、その大事なものもしっかりと描かれていた。コンスタンツェが昼食の用意をしている間に描かれたものだった。そして、その絵はちゃっかりとコンスタンツェの部屋に飾ってあったりする。


 リーゼロッテは、その話を聞くと、気が遠くなり魂の抜け出る思いがした。が、実際は彼女の想像力がたくまし過ぎたのだった。


 その後も、大きな会戦がある度にルードヴィヒは駆り出され、その功績が評価されて、気が付けば分隊を任される軍曹にまで昇進していた。


 そしてルードヴィヒは、ダリウスと並んで帝国軍に恐れられる存在となっていった。


 やがて帝国軍の兵士たちは二人のことを、こう呼ぶようになった。


Silberner(ジルベナー) Doppelwolf(ドッペルヴォルフ)』(二匹の銀狼)と……。

お読みいただきありがとうございます。


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