第120話 庭の自然(1)
コンスタンツェの興奮冷めやらぬうちに、ルードヴィヒは彼女を庭に案内した。
コンスタンツェは、第一声を、こう漏らした。
「わあっ……あの木は凄いわ。こんなに大きな木は初めて見ます」
「そうだのぅ。たぶんアウクトブルグの町じゃあ一番でっこい木だろぅて」
「この木は、屋敷が建つ前からここに?」
「こん大きさからして、おそらく、そうだろうのぅ。そんで、この屋敷の庭に面した部屋からは、どの部屋からもこの木が見えるようになっとるがんに」
「あの木の種類は何なの?」
「トネリコの木んがぁよ」
「なるほど、それであんなに大きく……」
コンスタンツェは、世界樹がトネリコの木だという伝承を知っているようだ。
「そらぁともかく、奥の方まで行ってみるけぇ」
「それは、ぜひ」
そこへ、背の低いお婆さんがやってきた。土精霊ノーミドのフェルセンである。
「これはこれは大公女様。手入れの行き届いていない庭ですが、どうぞゆるりと見ていってください」
「この方は?」
「庭師長のフェルセン婆ちゃんだっちゃ」
「まあ。女性の方が庭師長とは、たいへんじゃあありませんか?」
「いや。優秀な庭師や助っ人もたくさんいるのでね。私は、そいつらをこき使っているだけさ」
「それは、ちゃんと言うことを聞かせられるというのも、たいしたものですわ」
「いや。単に年寄りの我がままを聞いてくれるいい連中っていうだけさ」
フェルセンと別れ、小川に沿って、少し歩く。
「庭に小川が流れているなんて素敵ね。それに川の水がとっても綺麗だわ」
「この庭にはちょっとした泉が湧いとって、そっから小川が流れているがぁよ」
コンスタンツェは、熱心に小川を観察している。
ルードヴィヒが説明した。
「よく見ると、キラキラ魚の形で光っとるがぁが見えるろぅ」
「……あっ。それは確かに……あれは魚なの?」
「おぅ。ここは水がきれいだすけ。ヤマメやアブラハヤなんかが自然に繁殖してるがぁよ」
「正餐のスパゲッティに入っていた魚とは違うの?」
「サクラマスは池にしかおらんすけ」
「メイドさんは、どうやって獲ったのかしら?」
「さあのぅ。釣ったか、網で獲ったかしたがぁろぅ」
「そんないい加減なぁ」
「そらぁ聞いてみんばわからんすけ。そんだども、ちっこい魚なら簡単に釣れるがぁだすけ、大公女様も釣ってみるけぇ?」
「ええっ! 私みたいな素人が本当に釣れるの?」
「おぅ。ちっこい奴なら簡単に釣れるすけ、なじらね?」
「それなら、やってみようかしら」
「そんだば、そうするけぇ。だども、まちっと夕方んならんと釣れねぇすけ、それまでどっかで時間をつぶさんばのぅ」
「魚にも釣れる時間というのがあるの?」
「魚も食いのええ時間っちぅんがあるがぁに。夕暮れ時の薄闇の時間を”夕まずめ”っちぅて良く釣れる時間ながぁだすけ」
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