第119話 シェフの試練 ~その2~(1)
「ならば、少しだけ……」
コンスタンツェは、少しだけ飲んで味わってみた。
「まあ。なんというか……原料が小麦というのもわかりますが、果実のような甘さもありますね。それに燻製したような感じと木の香りも……これはこれで美味しいわね。
でも、なぜ生命の水というのかしら。何か寿命を延ばすような効果でもあるの?」
「言ってみりゃあ、ただの強ぇ酒だがんに。発見した衆が大袈裟ん名前ぇを付けたがぁろぅ。
強ぇ酒だすけ、ワインみてぇな感覚で飲んだら、一気に酔いが回って体がホカホカするすけ、気持ちはわからんでもねぇがのぅ……」
「残念。特に寿命を延ばすというようなことはないのね」
「んにゃ。生命の水に限らず、酒は血の巡りを良くする効果があるすけ、飲みすぎなけりぁ健康にはええがぁよ」
「まあ。そうなのね」
そこで、ルディがハイボールを持ってきた。
「大公女様。こちらがハイボールでございます」
「ありがとう。いただくわ」
ルードヴィヒが、補足する。
「こっちは炭酸水で割ってあるすけ。普通に飲んでもあちこたねぇすけ。それにレモンみてぇな柑橘類を搾ったり、ミントを入れたりしてアレンジしても美味ぇがぁよ」
「では、いただきますね。後からアレンジの方も試してみようかしら」
コンスタンツェは、一口飲んだ。
「これは……こちらの方が飲みやすいし、炭酸で割ってあるから爽やかね。炭酸水は、どこのものなの?」
「バッドビルベルの炭酸水だすけ。ゲロルシュタイナーは魔王らしき者に押さえられちまっとるすけのぅ」
「そうだったわね。じゃあ、お料理の方もいただきますね」
コンスタンツェは、まず前菜として並べられたものを眺めた。これだけの人数がいると、フルコースのように一品ずつ給仕するのはたいへんなのだろうということは察せられたので、それは気にならなかった。
「この豆は何なのかしら? 庶民はいんげん豆というものを食べるというけれど、それなの?」
「おらたちは"枝豆"って呼んどるども、未成熟な大豆を蒸し茹でにしたもんだすけ」
「大豆ですって! それって家畜の餌じゃないの!」
「ははっ。大公女様もわかっとらんのぅ」
「何で、そこで私が笑われなくちゃならないのよ」
「食い物にぁいろいろ迷信がするけのぅ。元素の考えを適用して貴賤をつけたり、いろいろあるども、食い物には、それぞれ栄養っちぅもんがあるすけ、そのバランスが大切だがんに」
「栄養って?」
「簡単に言えば、人間の体は食い物を食って作っとるがぁだども、それに必要な材料が栄養んがぁてぇ。必要な材料を必要なだけ食わんと、人間は健康を害してしまうことになっちまう」
「それは……なんとなくわかったけど、大豆はどうなのよ」
「大豆は、タンパク質っちぅ肉を作る栄養がいっぺぇ入っとるがぁだすけ、健康にええがぁよ」
「そうなの……」
「とにかく、食ってみらっしゃい。さやごと茹でとるすけ、さやからプチッと出して食うがぁよ。おらがやって見せるすけ」
……と言うと、ルードヴィヒは枝豆を食べて見せた。
「いちおうわかったけど、何だかお下品な食べ方じゃない?」
「はっはっはっ。調理人にあらかじめ出させてもええども、これがええがだがんに」
コンスタンツェは、ルードヴィヒの真似をして枝豆をプチッと出して食べてみた。
「あら。意外に癖がなくておいしいわね。それに豆を出すのも、さほど苦ではないというか……」
そう言うと、豆をもう一つ出して食べた。
更に違うさやにも手を出す。ずいぶんと、気に入ったようだ。
「そらぁ食べ始めると止まらんども、他の料理もあるすけ、ほどほどにのぅ」
「わかったわよ」
そんな感じで食事はすすんだ。
コンスタンツェは、フレンチフライがじゃが芋という下賎な食べ物だといっては驚き、雉、兎、小鹿というジビエの肉が出て来たことにも、また、それらをルードヴィヒが昨日手ずから獲ってきたものだと聞いては驚いた。驚きの連続とはこのことだ。
「このパスタも美味しいわね。まさか、これに入っているお魚もあなたが獲ってきたとは言わないわよね」
アウクトブルグの町は、内陸にあるため、新鮮な魚というものは川魚くらいのものであり、貴重品であった。
「そらぁメイドのフリーセンがおら家の池から獲ってきがぁども」
(自宅の池にこんな魚がいるの!?……しかも、それをメイドが獲ってくるって……)
「はあーっ。もう何があっても驚かないことにするわ」
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