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【完結】双剣のルード ~剣聖と大賢者の孫は俊傑な優男だが世間知らずのいなかもの~  作者: 普門院 ひかる
第14章 恋に落ちて

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第106話 はぐれ魔女(1)

 大公女コンスタンツェが今熱心に読んでいるのは、星占いの本である。

 この世界では、内科医は占星術により病気の原因や治療日時を占うといったように、占いが生活に根付いていた。


 彼女は蟹座(かにざ)であるが、ルードヴィヒは2月3日生まれの水瓶座(みずがめざ)である。これは、どの本を読んでも相性はあまりよろしくない。かといって、最低という訳でもないが…


 蟹座の女性は、(おおむ)ね次のような性格だと本にはある。

・感受性が豊かで人の気持ちを自分に重ね合わせて考えたりする。

・面倒見がよく、困っている人がいると放っておけない。

・防衛本能が強く、親しくなるまでに時間がかかることが多い。

・デリケートで、感受性が豊かなため、少しのことで傷つく。


 コンスタンツェは、これを見るとかなりの部分が自分に当てはまっていると思ってしまう。

 そうすると、やはり星占いというのは、バカにできないと考えてしまうのだ。


 とはいえ、彼との相性があまりよろしくないなどと言われては、否定したくなるのも信条ではないか。


 大公女コンスタンツェは、暑くもないのに豪華な扇子(せんす)を広げると、ヒラヒラと(あお)ぎ始める。


 一方、水瓶座男性は大雑把に言って、次のような性格だと本にはある。

・個性的で、自由を愛する。

・新しい物好きで、いつも自分の成長を求めている。

・知的な面があり、冷静でクールである。

・根っからの自由人である。


 そうすると、本にもあるように、感情移入が豊かであるために、嫉妬(しっと)深く相手を束縛しがちな蟹座女性と、束縛されたくない水瓶座男性で衝突が起こることが問題だ。


(最終的には受け入れているけれど、私が感情的になって、あれこれ世話を焼いてしまうことを、本当は束縛と感じているのかしら…)


 振り返ってみると、世話を焼くときに、彼はいちおうの抵抗をみせている。

 いつも言う”ええがぁてぇ”という方言に、どの程度否定的なニュアンスがあるのか、自分には解釈しかねる。


 今までは、自分の方が上の身分だから、遠慮しているのだと思っていたのだが…


(あれが、本当に嫌がっているのだとしたら…)


 私は、ルードヴィヒに重ね重ねの嫌がらせを行う、とんでもなく”ウザい女”ということになってしまうのではないか?


(彼は、優しいから口には出さないけれど…)


 コンスタンツェは、そう考えると、気分が重くなった。


 それに伴い、ヒラヒラと扇いでいた扇子は、パタパタという激しい音を立て始めた。


 実のところ、ルードヴィヒは、長年にわたりユリアに世話を焼かれ続けたことによって、この手の束縛にはかなりの耐性がついている。


“ええがぁてぇ”という方言も、一見乱暴に聞こえるが、激しい否定というほどのニュアンスはないのであった。


 しかし、コンスタンツェは、ルードヴィヒに、このような過去があることまでは把握していなかった。

 ここはバイエルン大公国の首都ミュンヘンの郊外にあるとある民家である。

 ここには若い夫婦が住んでおり、生まれたばかりの赤ん坊を真ん中にして川の字でぐっすりと眠っている。


 深夜。この家に忍び寄る怪しい人影があった。

 姿形からして、魔女のようだ。


 赤ん坊の心臓や血は魔女が作る毒薬や呪殺薬の高級な材料となるため、魔女たちにとっては垂涎すいぜんの的である。

 魔女の目的はどうやら赤ん坊にあるようだった。


 そして魔女がまさにその家に侵入しようとした時、突然横合いから炎の矢(ファイアアロー)が飛んできて、魔女の喉笛を貫通した。魔女は即死だった。


     ◆


 ヒルデ・アイメルトは魔女になって3年になる中堅どころの魔女だ。


 彼女の夫は真面目な家具職人であったが、仕事以外に何の取り柄もないつまらない男だった。


 3年前。ヒルデは懐妊した。夫とのつまらない生活に飽き飽きしていたヒルデは歓喜し、大切に大切に育てた。

 にもかかわらず、妊娠6か月を過ぎた頃に流産してしまう。


 それに強いショックを受けたヒルデは意気消沈し、自暴自棄となってしまった。ヒルデの夫はそんな彼女の心のケアをできるほどのデリカシーを持ち合わせていなかったのだ。


 その心のすきを突かれ、ある男に誘惑された。

 男は紳士的でさかんにヒルデの傷ついた心を慰めてくれる。


 そして2人は結ばれた。ヒルデは敬虔(けいけん)なキリシタ教徒だったのだが、これについては”魔が差した”としか言いようがない。

 男は人間離れした色事の達人だった。


 ヒルデは次第にその肉欲に溺れていった。

 そしてもう元には戻れないだろうと思われた頃、ヒルデは男から衝撃の事実を告白された。男は悪魔だったのだ。


 悪魔はヒルデに魔女になるように誘ってきた。

 男に身も心も支配されつつあるヒルデには、これに抵抗する気概は残されていなかった。


 悪魔は既に12人の魔女を魔女団(カヴン)に集めていた。

 ヒルデは最後の一人だったのだ。


 仲間の魔女たちが見守る目の前で、ヒルデは悪魔に犯されると、すぐさま魔女の入団儀式が行われた。


 悪魔は彼女の肩に噛みつくと吸いだした血をヒルデに吐きかけた。

 ヒルデは片手を額に、片手をかかとにつけて誓いの言葉を述べる。


「私はなんじに私の両手の間にある一切のものを与える」


 こうしてヒルデは魔女となり、悪魔に一生仕えることを誓い、十字架を踏みにじり、キリシタ教会を否認し、契約の印として自分の髪、爪、血などを悪魔にささげた。


 ヒルデは悪魔の下で魔術を学び、毒薬、飛行薬、使い魔を与えられた。


 ヒルデが与えられた使い魔はからすだった。ヒルデは使い魔に"クレリー"と名付けた。


 ヒルデの魔女としての才能は抜群で、あっという間に魔法や毒薬の使い方をマスターした。

 中でも呪いをかける技術は、一番の新参者にもかかわらず、ピカ一となった。

お読みいただきありがとうございます。


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