第104話 ドロテーの来訪(1)
そして、翌日……。
ドロテーは、ローゼンクランツ新宅を訪れた。
ルードヴィヒの部屋へ通されると、ドロテーは、いきなり言った
「あんた、長ズボンなんか履いちゃって、鬱陶しいじゃない」
「はぁっ? おらの年頃は、皆そうだすけ。夏用の部屋着なら別だがのう」
「だったら、それを履きなさいよ」
「いやぁ、夏服はまだ出してねぇすけ」
「じゃあ、今すぐズボンの裾をまくりなさいよ」
(何か、意味がわからんのう……だが、まあええか……)
ルードヴィヒは、やおらズボンの裾をまくりあげ始めた
すると……。
「Σ(゜∀゜ノ)ノキャーッ。何それ! 毛が生えてるじゃないのよ」
「はあっ? 何言っとるんでぇ。おらの年頃ならあたりめぇでねぇけぇ」
「と、とにかく、その悍ましいものをしまいなさいよ!」
(”悍ましい”たぁ失敬な……そんだども、全く意味がわからん……)
ルードヴィヒは、仕方なく、まくりあげ始めていたズボンの裾をもとに戻した。
「まったく、足を見せろだの、隠せだの意味がわからんがぁども?」
「あんたが悪いのよ。そんな艶々な顔をしていたら、足もツルツルだと思っちゃうじゃない」
「ツルツルの足がどうかしたんけぇ?」
「あなたは、知る必要はないわよ」
「はあっ? まあ、ええども……」
トン、トン
そこで、部屋のドアがノックされた。
「おぅ。入れや」
扉が開き入ってきた者を見て、ドロテーの瞳孔は、見事に見開かれた。
\(◎o◎)/!
入ってきたのは、12歳のエリアスであった。今日はユリアが非番のため、彼が代わりにお茶を持ってきたのだ。
エリアスは、庭師見習い・ハウスボーイ・従僕であり、半ズボンを常用している。
その足はストッキングを履いておらず、素足であり、全く毛の生えていないツルツルであった。
加えて、ヴィムの弟であるので、兄と同様のハンサムだった。
(キャァァァッ! 何なのこの子は? ドストライクにも程がある……)
「失礼いたします。お茶とお茶菓子をお持ちしました」
「おぅ。ご苦労さん」
エリアスは慣れない仕事に、ちょっと緊張気味にたどたどしく給仕をした。
ドロテーは、それもまた少年らしくて、好感が持ててしまう。
そして、彼女は思いついてしまった。
(ラファエル様は高嶺の花だけれど、この子なら、ここへ来ればいつでも逢えるじゃない!)
ドロテーは、満を持して、エリアスに話しかけてみた。
「君。若いのに感心ねえ」
「いえ。慣れていないものですから、お見苦しいところをお見せしました」
「そんなことはないわ。一生懸命な姿を不快に思ったりしないわよ」
「ありがとうございます。優しいお方なのですね」
「そ、そんなことはないわ……」
ドロテーは、思わぬ誉め言葉に動揺し、ときめいてしまう。
「えっと……旦那様のお姉さまのドロテー様ですよね。旦那様も、とても優しくしてくれるのですが、やっぱり姉弟というのは、似るものなのですね」
「ほっほっほっ……そうかしらね……」
「ええ。そうですよ……僕、憧れちゃうなぁ……」
\_ ドキュンヽ(´゜ω゜ヽ` )!o〇O(カワイイ・・・!)
その瞬間、ドロテーのハートは見事に撃沈された。
「そ、そうかしら……ところで、君。名前は?」
「これは失礼いたしました。僕、エリアス・テンツラーといいます。この屋敷で、庭師見習い兼ハウスボーイ兼従僕をしています」
(なるほど……それで半ズボンなのね……)
「そうなのね。これから、この家にはちょくちょく寄らせてもらうと思うから、よろしくね」
「かしこまりました。お嬢様」
「まあ……お嬢様なんて、水臭いわ。”ドロテー姉さん”って、呼んでくれないかしら」
「承知いたしました。ドロテー姉さん」
「そうよ。よくできました」
「(*´σ-`)エヘヘ。恐れ入ります。では、姉弟のお話の邪魔をしてはいけませんので、僕はこれにて失礼いたします」
「そう……お仕事頑張ってね」
「はいっ! ありがとうございます」
というと、エリアスは、一礼して退出していった。
(ああっ……行ってしまった……)
ドロテーは、悲嘆にくれた感情を隠しきれない。
一連の様子を見ていたルードヴィヒは、いかに鈍いとはいえ、気づいてしまった。
「おめぇさん。そういう趣味だったんけぇ。どうりで足を見せろとか、変だと思ったがぁてぇ」
「さ、さあ……何のことでしょう……」
「まあ、ええさ。人それぞれだすけ……」
「そんなことはどうでもいいのよ。
ところで、私、大公女様にチケットをもらって、少年合唱団のコンサートへ行ったのだけれど…………」
話は、合唱団のコンサート、特にラファエルの話に及び、ドロテーは、恍惚の表情をしている。
「ラファエルっちぁエルレンマイヤー司祭の養子だろ。もともと孤児だったども、優秀だすけ養子にしたみてぇだのぅ」
「えっ! 何であんたが、そんなことを知っているのよ」
「何でって……おらぁエルレンマイヤー先生の教え子だすけ」
「ええっ! そうだったの。だったら、先生にお願いしてラファエル様に会わせてよ」
「ええっ! そう言われてものう……最近は先生とは会っとらんし……」
「そこを曲げてお願いよ。従姉で形式的な姉の頼みなのよ。弟としては全身全霊をもって聞くべきよ」
「そっけな強引なぁ……んだども、エルレンマイヤー先生にも久しぶりに会ってみてえすけ、こかぁちっとばかし一肌脱ぐことにすっかのぅ」
「ああ。ありがとう……」
「そんだば、今度の日曜日。教会の奉仕活動に来てくれるけぇ。そこで先生に会えると思うすけ」
「わかった。必ず行くわ」
「そんだば、そういうこって」
そして、話題は大公女コンスタンツェのことになり、ドロテーは、合唱団を紹介してくれた大恩人で、弱者救済や障碍者の弟を世話する聖母のような人だと、彼女のことをひとしきり褒めちぎったあと、あっさりと帰っていった。
(まぁた大公女様を褒めとったが……この間のペッツといい……どういうこった……?)
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