第79話 新宅の御庭番(2)
数日後。
ツェルター伯の紹介だという庭師が、ローゼンクランツ新宅を訪ねて来た。
早速、フェルセン婆さん立ち合いのもと、ルードヴィヒの部屋で顔合わせをする。
訪ねて来たのは3名で、ヴィム・テンツラーという20台半ば程の男性とその弟でまだ未成年のエリアス、それにリヒャルダ・ビエロフカという20台前半くらいの女性である。
通り一遍の挨拶を済ませると、ヴィムから事情の説明があった。
彼ら兄弟は、最近に両親を亡くしており、家族は兄弟二人だけということだ。エリアスは、未成年のため、保護者が必要であり、彼も含めて住み込みで働ける職場を探しているということだった。
そういう意味では、ライヒアルト兄妹と境遇が似ている。
エリアスは未成年のため、見習い扱いとなるが、屋敷には無駄に部屋も余っているので、ルードヴィヒは、これを承諾することにする。
「旦那様。ご配慮いただきありがとうございます。なかなか弟のことを認めていただける職場が見つからず、苦労していたのですが、大変助かりました」とヴィムは型どおりのお礼を言った。
それが終わり、ルードヴィヒはフェルセンに言った。
「フェルセン婆さ。今度こそよろしく頼むがぁぜ」
「まあ、それは腕を見てからだね。とりあえずは、人としちゃあ悪くない」
ルードヴィヒは、言っている意味がわからなかったが、下手に突っ込むことは控えた。
そして、皆が下がった後、三人の印象を思い出していた。
ヴィムは、平均的な顔立ちをしていて、妙に印象の薄い男だった。だが、よく見ると非常にハンサムではある。
それもそのはずで、人間が顔つきに抱く印象というのは、いわば減点法であり、顔の各パーツに際立った特徴のない平均的な顔つきを美しいと感じるらしい。
それに、鑑定したところレベル40の庭師で、職業柄チャクラは開いてはいなかったが、これは明らかにフェイクだと思った。
彼の立ち居振る舞いからは、明らかに何らかの訓練をしていることを感じざるを得なかったからだ。
それは、リヒャルダも同じ感じで、レベル35の庭師だったが、彼女の場合、隠し切れていない色気があるようにも感じた。
だが、それは過去に水商売の経験があるという感じでもない。そうであれば、もっと愛嬌があってもよいはずだ。
ただ、エリアスだけは、ただの年相応の少年だと見受けられる。
そしてルードヴィヒが結論として見立てたのは、ヴィムとリヒャルダの二人は、ツェルター伯が派遣してきた諜報員ではないかということだった。
(まあ……相手はロッテ様の親父さんで、直上の封建君主でもあるからのぅ……それに、今のところは、探られて痛ぇ腹もねぇし……)
「まあ……Es kommt wie Es kommt……」(なるようになるさ……)
だが、予想外のことが起きた。
深夜になってから、ヴィムが密かにルードヴィヒの部屋を訪れ、自分たちの正体を明かしたのだ。
それによると、ヴィムは、レベル52の戦士で、オーラの色は第3チャクラ(みぞおち)が開いていることを示す黄だった。
彼は、鷹の爪傭兵団の諜報員であるが、専門は暗殺者である。
また、毒の扱いが上手いことから、Giftige Spinne(毒蜘蛛)の二つ名を持っているということだった。
リヒャルダは、レベル45の戦士で、オーラの色は第2チャクラ(丹田)が開いていることを示す橙だった。
彼女も、鷹の爪傭兵団の諜報員であるが、専門はネズミである。
確かに、ネズミであれば、色香を使って籠絡するようなこともあるだろうから、あの色気も納得だ。彼女が、本気で化粧をして着飾ったら、さぞかし妖艶な美女になるのだろう。
二人は、鷹の爪傭兵団から支給されたアーティファクトを用いて、ジョブやレベルを偽装しているということだった。
そして、肝心なことに、ヴィムが言うには、ツェルター伯からは、ルードヴィヒの情報収集のために働くよう命令を受けているということだった。そのために、鷹の爪傭兵団の情報網にアクセスすることも可能ということだ。
日本風に言えば、ローゼンクランツ新宅の"御庭番"といったところだろうか。
(これもロッテ様を助けたお礼の一環っちうことか、あるいは……)
ルードヴィヒには、ツェルター伯爵の真意を測りかねた。
さすがに、ローゼンクランツ新宅の情報をツェルター家に流すとは言わなかったが、これは暗黙の前提としておいた方がいいだろう。
先日のリーゼロッテの暗殺未遂があり、ルードヴィヒは、こういった事態を事前に察知できないものかと考え始めていたところだ。
とはいえ、薔薇十字団は秘密組織のため、情報を得るのはなかなかに困難かもしれない。
だが、そもそも貴族というものは、常に勢力拡大に勤しんでおり、貴族同士の関係も往々にして狐と狸の化かし合い的側面があることは承知しているつもりだ。
ローゼンクランツ家のことはもとより、さしずめ自らの関係の深いツェルター家と形式的ではあるが臣従することになったホーエンシュタウフェン家を害するような動きには注意を払っておく必要があるだろう。
ちなみに、人手不足のため、エリアスは、庭師見習い・ハウスボーイ・従僕の3つの役割を兼ねることになった。
従僕は、馬車と並走し障害物を取り除くことを仕事としており、半ズボンにストッキングのスタイルが特徴である。
このため、エリアスは半ズボンを常用しているが、ストッキングは履いていない。
が、年頃のせいか、その姿が妙に様になっているのだった。
とりあえず、フェルセン婆さんは、三人のことが気に入り、首にすることはなかった。
ヴィムとリヒャルダは、諜報員として身分を偽って活動するために、庭師としての訓練も積んでおり、人並み以上の腕は持っていたことと、なによりも影の薄い佇まいが気に入ったようだ。
彼女に言わせれば、植物は騒々しい人間が嫌いらしい。
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