第8話 村の惨劇(1)
この世界の動物の生態系は独特であり、地球とは異なっている部分がある。
例えば、地球では1万年以上前に絶滅した大型の動物がこの世界では、現存していたりする。
例えば、大型のサイの仲間であるエラスモテリウムがそれであり、他にも有名どころではマンモスの仲間やサーベルタイガーなどもこの世界では現存している。
ダイアウルフは、直訳すると"恐ろしい狼"の意味であるが、イヌ科の動物では最大級の大きさを誇る肉食獣であるうえ、当然に群れで行動するため、Aランク冒険者でも討伐依頼の請負いを躊躇するしろものである。
ライヒアルトは目を疑った。
眼前にダイアウルフに喰いちらかされた村人たちの遺体の断片が散乱している。
思わず原型を留めているように見える遺体に駆け寄ったが、「はぁ」とため息をついた。明らかにこと切れている。
自分の知人ではないからなのか、ルードヴィヒは、この光景を見ても冷静だった。
「血が固まっとる。おそらく襲われたんは昨晩の早ぇうち。だいぶ時間が経っとるのぅ」
が、さすがに(生存者は絶望的だろう)とは言えなかった。
「アォーーーーン、アォーーーーン」
ダイアウルフの鳴き声が、頻繁となった。
どうやらルードヴィヒ一行を獲物と見定めて連絡を取り合っているようだ。
「ぼやぼやしてっと奴らが襲ってくるがぁぜ」
「ああ。わかっている」
ライヒアルトはなんとか気持ちを切り替えたようだ。もっとも、それも一時的な現実逃避に過ぎないだろうが……。
「主様。来ます!」
クーニグンデのその声が合図だったように、ダイアウルフの群れが森の茂みのあちこちから突進してくる。
「この野郎! 死にやがれ!」
ライヒアルトは長弓を弾き絞ると、怒りをぶつけるように先頭を行くダイアウルフめがけて放った。
だが、距離はまだ200メートル以上ある。弓矢で狙うには通常は遠い距離だ。
ダイアウルフは眉間を弓矢で打ち抜かれ、そのままドサッという音をたてて倒れた。即死であり、悲鳴を上げる間もなかった。
(矢の軌道を風魔法でコントロールしとるんけぇ。なかなかできるこってねぇ)
ルードヴィヒは、ライヒアルトの技を一瞬で看破した。
(そんだば、おらも……)
ルードヴィヒは、土魔法の岩弾を6発同時に発動した。目にも止まらぬ速さで発射された握りこぶし大の岩塊が、6発ともダイアウルフどもの顔面を直撃し、その頭部は無惨に爆散した。
人間が物事を同時に把握するのは6つが限界と言われている。
かの楽聖J.S.バッハは多声部が同時進行するフーガという楽曲を即興で演奏することを得意としていたが、やはり6声が限界だった。これは、そのことの一つの実例ではなかったか。
だが、ルードヴィヒも本当に6つが限界であるかどうかについては、ニグルやクーニグンデは疑問を持っていた。真の実力は秘匿せよというグンターの薫陶があることを知っていたからだ。
「主様。我らの獲物がなくなってしまいます」
クーニグンデが苦情めいたことを言う。
「そりもそうだのぅ。そんだば、そっち側ん獲物は任せるすけ」
「承知!」とクーニグンデは満足して声を張り上げた。
ニグルとクーニグンデは、ダイアウルフに向かっていき、ほとんど一刀のもとにダイアウルフを切り捨てていく。
それまでおとなしくしていた治癒師のルークスは、慣れたもので、指示を出さなくとも、ニグルとクーニグンデに身体強化・身体能力強化の支援魔法をかけつつ、接近した敵を拳闘術で撃退している。ありがちなことではあるが、どうやら治癒魔法の出番はなさそうだ。
ライヒアルトの方は、弓を打ち続けているが敵の数も多い。そのうち肉薄されるかもしれない。
(おらぁ、こっちを援護してやっか……魔法も飽きたすけ、ちっと運動すっかのぅ……)
ルードヴィヒは、背負った双剣を抜くと、光のごとき速さでダイアウルフに向かってダッシュした。
ダイアウルフは、その速さに目が付いていっておらず、突然に現れた敵に一瞬とまどいを見せた。
その隙をルードヴィヒが見逃すはずはない。
双剣で左右の敵を討ち取っていく。
その左右の手は、別の生き物のように自在に動き、その全てがダイアウルフの急所を直撃していた。
そして、さほどの時間もかからず、ダイアウルフの群れは全滅した。
劣勢となった時点で、ダイアウルフたちは逃走を試みたが、ライヒアルトもルードヴィヒもそれを許すところではなかった。
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