第61話 台風来襲?(2)
「バカもん! ガキのしょんべんくせえパンツなんか見ても、気色悪ぃだけでぇ! やめんかぃ!」とグンターが怒鳴ると漸くユリアは手を止めた。
「何でぇ、つまんねえ」とユリアはぼやいた。
「とにかくだ。ルーんとこに行くぶんにゃあやぶさかでねぇが、おめぇ一人じゃあ危ねぇろぅ」
「そんだば、ルディを連れてくことにするぜ。ルディは顔には出さねえども、心ん中じゃあつまんなく思ってるに違ぇねぇすけ。あいつなら何でも卒がねぇからあちこたねぇろぅ」
「ルディのぅ……おめえはともかく、確かにルディをこの城にずっと置いとくのは、もったいねぇかもしれんのぅ……」
「そんだば、そういうこって。ありがとうのぅ。グンター爺ちゃん」
ユリアは、グンターに駆け寄ると、その頬にチュッとキスをした。その反応を見ることもなく、あっという間に部屋の外へ出ていく。
(しゃあねえのぅ……こうなっちまっちぁユリアは誰にも止めらんねえすけ……)
翌日。
ユリアとルディは、アウクトブルグの町へ向けて旅立っていった。
ハラリエルの警告があってから、数刻後……。
ガン ガン ガン
ローゼンクランツ新宅の扉のドアノッカーが激しく音をたてた。
カミラが慌てて応対に出ていく。
扉を開けると、客は勝手に屋敷に入ってきて、大音声でのたまった。
「ルーちゃんおるけぇ! おらが来てやったがぁぜ!」
その正体は、言うまでもなくユリアである。
そして、その後ろには同じ年頃の銀髪の少年が、背筋がスラっと伸びた完璧な立ち姿で控えている。その容姿はルードヴィヒに酷似していた。
ルードヴィヒは、ユリアの大声を聞いて、急いで部屋を飛び出してきた。
「ユリッペ。なじょしたがぁ? 普通は先触れん手紙ぐれぇ出すもんだろぅ」
「そぃじゃあつまらんろぅ。おらぁルーちゃんの驚くとこが見たかったがぁだすけ」
「すっけんしょうもねぇことけぇ……で、アウクトブルグにぁ何しに来たがぁ?」
「そっけな言い方せんでもええがんに。愛しのユリアさんが来てやったっちぅんに……冷てぇのぅ。おらは悲しいぜ。ルーちゃんはみじょげらだと思わんがぁけぇ」
「そっけなもん、聞いてみんば、わからんろぅ」
「ルーちゃんが寂しい思いをしとるすけ、おらぁここん家に働きに来てやったがぁてぇ。感謝しろや」
「すっけんこと、誰も頼んどらんろぅ。こん妄想っこきゃあ!」
「何いっちょうまえに口答えしてるがぁだ! おらがいねえと何もできねぇくせに!」
ユリアに言われた瞬間、ルードヴィヒは、自分が感じていた微妙な物足りなさの正体にはたと気づいてしまった。
「……………………」
要は、洗面台のいつもの場所に歯ブラシがないといった些細なことだったのである。
自分がやればいいようなものだが、シオンの町にいたときはユリアが全部面倒をみてくれていたため、自分で意識的には再現できない部分が多々あったのだ。
突然ルードヴィヒが黙り込んだので、ユリアは心配になったようだ。喧嘩腰だったのが、急に口調が柔らかくなった。
「ルーちゃん……なじらね?」
「んにゃ。何でもねぇ。そんだば、ユリッペにぁ、ここん家で働いてもらうことんするすけ……ありがとうのぅ」
「何でぇ急に……気持ち悪ぃのぅ……そんだども、わかればええっちゃ」
「おぅ。よろしくのぅ」
二人の話がついたと見て、後ろに控えていた銀髪の少年が進み出て来た。
「ルードヴィヒ様。お久しぶりでございます」
……と言うと、彼は完璧な仕草でお辞儀をした。
「おぅ。ルディも来てたんけぇ。そんだば、ルディもここで働いてくれるがぁろぅ」
「それは、もちろんにございます」
「そらぁ、心強いこった。そんだば、よろしくのぅ。ルディ」
「Zu Befehl mein Gebieter」(おおせのままに。我が主様)
(mein Gebieter(我が主様)たぁ……ルディらしい、かしこまった言い方だぃのぅ……)
その後、執事のディータも交えて、ユリアとルディに割り振る仕事を決めたのだが、ルードヴィヒの世話係の地位を巡ってお互いが譲らず、議論は紛糾した。
ユリアは表裏がなく、見た目どおりに気が強い。ルディは口調が徹底して丁寧だが、頑固なところがあり、ユリアに対して容赦なく抗弁する。いわゆる慇懃無礼というやつである。
実は、ヴァレール城では、使用人の序列や役割は極めて柔軟というか、いい加減であったのだが、ここはアウクトブルグである。
結局は仕来りを尊重するということになり、ルディがルードヴィヒの侍従で、ユリアはルードヴィヒの私室を担当するチェンバー・メイドということになった。
侍従/侍女とハウスボーイ/メイド(家政婦)は違う。
ハウスボーイ/メイドは、接客、清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う単なる中・下級使用人である。
侍従/侍女は、主人の服装・装飾品・靴などの購入・選択・管理をこなすなど、主人の身の回りの一切を補佐する職業であり、それに必要な教養とセンスが求められるため、なまじっかな者を適当に選ぶ訳にはいかない。
そして、ハウスボーイ/メイドよりは地位の高い上級使用人であり、下の者はherr(氏/嬢)の尊称を付けて呼ばなければならない。
ユリアは、侍女となることを望んだが、一般に男性には男性の侍従が、女性には女性の侍女が付くことが常識であることから、断念せざるを得なかった。
ただし、侍従とチェンバー・メイドは、仕事が重複する部分もあるので、そのせめぎ合いは今後も続くのだろう。
やっとのことで決着がついて、ルードヴィヒは人心地ついた。
(まだまだ、これからいろいろありそうだのぅ……)
だが……
「まあ……Es kommt wie Es kommt……」(なるようになるさ……)
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