そうして
結論から言うと、集落の人々は全員ウーノへ移住する事になりました。
これは、学園都市のソレらと、集落を守護してきたソレが、連携を結ぶ事で実現しました。
今では少しずつ学園都市と集落は、近づいてきています。
さすがに一度に、1つの町の人全員を、学園都市に受け入れる事は不可能だったので、まずは希望者に都市内や寮の空き部屋に入居してもらい、更には新しく建築後に順次という感じです。
魔法道具にも、慣れてもらわなくてはなりません。
それだけではなく、キクスお兄様はキサがいない間に、これまで集落を守ってきたソレに、移住した後も引き続き、ウーノ魔法学園都市の守護であれ……という約束を結んでいました。
「これで結界がどうにかなっても安心だね、キサ」
ただの慈善活動では終わらないと笑うキクスお兄様に、当主を続けるべきだというキサの気持ちは一層強まります。
そんな移住の件は、当事者であったキクスお兄様にお任せし、自分は全く関わらなかったのですが、それでも少し気にしていたせいでしょうか、キサはまた夢を見ていました。
見ているだけで、背筋にぞわぞわとした感覚が走るソレ。
そればかりかソレは、領線の緑の帯を腐食していくのです。
これが集落の娘に恋したソレなのでしょうか?
人の好みは十人十色。
恋をすれば外見なんて関係ないといいますが、やはり相容れない姿というのは、実際のところあるとキサは思います。
「私の領線を汚すな、愚かものッ!」
当然、それを見て怒り心頭、キサは非・正々堂々な方法で魔法をぶち込んで、撃退しました。
ありとあらゆる方法で魔法をぶち込んでいたからか、様子を見に来たポポまで、キサにブースト魔法を掛ける始末。
更には、そんな大騒ぎに寄って来た御母様から、
「よく考えたのぅ、吾子」
と、戦法を褒めてもらえたのでした。
そして今日もキサはヒタカと、魔動車デートをしながら見回りです。
時折魔動車から降り、
「大丈夫か? 領線の為に生まれてきてくれたのだろう? 知らせを、ありがとう」
緑の帯を撫で撫でします。
朝になって、夢で見た場所を点検してもらったのですが、特に異常はありませんでした。
夢は夢でしかなかったと、キサはほっと息を付きました。
夢でしかないはずですが、キサにとっては現実でしかなかったので、危険を知らせてくれた緑の帯に、お礼を言いに来たのです。
そしてキサの危険を知って、助力しに来てくれたのだろう御母様を思います。
ドラゴンと人間との寿命を考えるに、きっとキサは御母様が成竜した御姿を、見る事は叶わないでしょう。
今でさえこれほどまでに、美しいのだから成竜されたならば、どんなにか……。
ましてや老成された暁には……あぁ、とキサはうっとりしてしまいます。
いえ人間の想像など、高が知れたものですから、キサがお側に近寄ろうとは思えないほどの、荘厳さかもしれません。
今の御母様に出会えた事こそが、キサにとって幸運でした。
魔動車が所変え品を変えして、進化し続けていく事をキサは願います。
そうすればキサが人として寿命を迎えても、御母様は魔動車を見掛けるたびに、小さな娘を思い出しては、微笑んで下さるでしょう。
緑の帯は領線と共に伸び続けます。
やがてウーノは魔法学園都市としてだけではなく、魔動車発祥の地としても、知られるようになるのです。




