ポポへの気持ち
キサが体に戻って来てみれば、手を誰かに握られています。
ポポには手がないので、ポポではありません。
目を開けて、キサが手の主を見れば、ヒタカです。
「キサ、助かる。さすがに、やばかった」
「……なぜだ?」
世界の狭間で、一緒にいたのはポポだったはずなのに、なぜ、ここにいるのはヒタカなのか?
それをキサは聞きたかったのですが。
「……昨日、あの後、キサの言った家族って言葉が、気になってだなぁ」
全く違う返事が、ヒタカから返ってきました。
「家族……」
昔幼かったキサにとって、家族とは、キクスお兄様と周りにいるソレらを指しました。
それ以外は範疇外。
特にキサからキクスお兄様を奪う人間など、以ての外だったのです。
次々家族として認められていくソレらの中で、唯一とっても気になるポポだけ、何故かキサは家族と認められませんでした。
一時期のポポは、キクスお兄様のような雰囲気を感じさせていましたし、そのままだったなら、キサはキクスお兄様のようにただ包まれて、ゆったりとたゆたっていられる存在とみて、ポポを家族として受け入れていたでしょう。
しかし、キサのところへ来なくなってしまう前のポポは、時折ヨズミのじじ様の水よりも、ずっと強引に絡み付いて、まるでキサの中に入り込んでこようとするかの如くでした。
ソレらが人の子と夫婦となり、子を成した話は、昔話ではありますが、子孫も存在しています。
これはポポの求愛なのかと、それを戸惑い以上に、キサは喜びと感じていました。
ポポに触る事は出来ず、実感としての温もりが全くなくとも、キサはポポのその行動が、求愛だったら嬉しいと、内心は応じていたのです。
しばらくは、その思いに浸っていられました。
けれど、すぐにキサは現実を直視してしまったのです。
というより、自分に圧し掛かっている、ウーノ家の血を引く子供という期待を、忘れる事が出来なかったのです。
この魔法学園都市は、近隣国の中でも有数な名だたる都市となっています。
ウーノ家の当主の血などに拘らなくても、続いていく事でしょう。
それでも学園都市は永年、ウーノの当主家が治めてきたのです。
その意識をウーノ一族は、なかなか切り替えられないでしょう。
キサは処女受胎を信じていませんし、少なくとも自分には不可能だと考えています。
だから当然、触る事も出来ないポポとでは、ウーノの後継者は望めません。
それに、キサはウーノから離れて暮らしていける自信が、全くありませんでしたから、ポポと手に手を取って、逃避行する覚悟も持てなくて……。
キサからポポに夫婦になって欲しいと、言い出す事は出来ませんでした。
ポポは話せないのだから、逆も然り。
そして言い出す事が出来ないのは、そこまでの情熱をポポに対して持てないからだと、キサは気持ちを落ち着かせ様としました。
もしポポが、人間であったなら……。
昔のキサならば、人間であるという時点で、ポポを拒絶していたはずです。
けれど今は、ポポが人間だったら良かったのにと、少しだけ考えてしまう始末。
そんな時に種馬候補1号としてヒタカが現れ、ポポが居なくなったのです。
更に今日また、同じ事が起こりました。
目の前にいたポポが消え、ヒタカが出現したのです。
さすがにキサにも、そのカラクリが分かります。
そして既にヒタカとなら、家族になってもいい、とキサは思っています。
「心のままに言ってもいいのか?」
「あぁ。……いや、ちょっと待て。それより今は何があった?」
そうでした。
今は、それどころではなくキクスお兄様の事だと、キサは私情に走りそうになった心を切り替えて、館で聞いた話を伝えました。




