そんな事で判断
「その信頼がどこから来たのか、ぜひ聞きたい」
キサは、今回の同伴がマサウでなくヒタカだったので、ようやく気付けたのですが。
「お兄様とは友人なのだろう……?」
今回のキサの帰宅は、突発的にキサが決めた事です。
それなのに、キサが屋敷に向かおうと寮を出たその時に、ヒタカはキサに声を掛けて来ました。
いつに帰るかなど、キクスお兄様とマサウの間で、秘密裏に相談されていた為、2人のどちらかが教えない限り、外部に漏れるはずがないのです。
マサウは班の仲間どころか、キサ本人にも直前になるまで、日程を伝えませんでしたから、残るはキクスお兄様一択です。
そして、キクスお兄様が見知らぬ人間に、キサの予定を話すなどありえません。
つまり個人的にキクスお兄様とヒタカが知り合いであり、とても信頼を寄せていないと、辻褄が合わないのです。
「確かにそれはキサにとっては、大きな信頼理由になるよなぁ」
はぁと、ヒタカはため息を吐きます。
「だが、キクスと2人でいる所は見られていないはずだ」
「そもそも、それがおかしかったんだ。いくら一族が寄越した相手だろうが、良く知りもしない人間を、お兄様が屋敷に招き、更には始めて会う者同士の、顔合わせに立ち合いもせず、ヒタカ1人で私の帰宅を待たせて置くわけがない」
しかもその次の日の朝、キクスお兄様はヒタカに会ってどうだったかと、キサに訊ねて来たのです。
それも面白がってです。
あの時キサは違う方向に解釈してしまいましたが、ヒタカの事を親しく感じているからこそ、出た表情だったと今なら分かります。
「それから、タイーのそちらに対する反応だ。随分一族からの信頼を得ているのでは?」
タイーは根っからの一族の人間です。
学園でのキサの、お目付け役もしているのだと思います。
そのタイーが今日も、それから前回も、ヒタカと2人きりになるキサを止めなかった、というか、2人きりになるよう進めています。
ウーノ一族は、魔法に関して助けや教えを求められたりで、外部を受け入れているので、排他的という言葉は使えませんが、一族の結束が固く、特にウーノ領を守る事に関しては、血族内での争いを好みません。
繁殖能力の低いウーノ一族の本拠地がこうして、魔法学園都市にまで発展しているのは、その気質のお陰ともいえます。
そして当主家の姫の夫に、野心を持つ者など選びません。
野心は嵐を起こして、ウーノ領を壊しかねないからです。
ウーノ領を守る事に、使命を燃やし続けている一族は、キサを倒せるほどの力を持つヒタカがその意志に反していたら、治安部隊の要に据えないでしょう。
「お兄様やウーノ領を守るという立ち位置において、きっと私達は上手く関係を作れると思うのだが……どうだろう?」
「そうだろうな。キクスに当主を押しつけるのは大賛成だし、ウーノ一族の権力など、面倒くさいのも当然いらない」
「では……?」
取引成立? かと、キサは胸を撫で下ろそうとしたのに。
「が、その報酬が体だけというのは、物足りないな。キサの心もオマケに付けてくれ」
にやりと笑い、キサにとって解からない筆頭である<心>をヒタカは要求してきます。
「それは……」
ずっと幼いころより、キクスお兄様以外ではソレらとしか親しくしてこなかったキサは、人間相手が苦手です。
というより、キサにその力を暴走させないよう、ソレらが先回りしてキサの周りを整えてしまう為、自分の心の動きにも鈍感なキサにとって、人と人を繋げる感情を推し量るのは難しいのです。
それども魔動車に魅かれ、その研究員達と1つの物を、一緒に作り上げる日々を過ごすうち、キサは人とのふれ合いが楽しいものだと知りました。
そして寮でも、家族だと言ってくれる人が出来ました。
だからもう1人、ヒタカとも家族になるのは悪くないと、キサは思えたのです。
「……心といえるのかは、分からないがヒタカ。私は、私自身が、貴方と家族になる事を望む」
小さく答えたキサに、にやりと作られたヒタカの悪人面は一気に崩壊しました。




