家族って
学園都市の結界は、ウーノ家の屋敷や街中の環境整備と同じく、ソレらによって保たれています。
ソレらの考えを見抜けるのは、同じソレら。
悪いモノとそれ以外の選別も、ソレらが行っているそうです。
そしてウーノ領にいるソレらは、ウーノ家の代々の者に好意を持っていて、現在はキサの感情に特別敏感に反応している様です。
「私の感情に……?」
もしかして魔動車にまつわる、2つの不思議も……?
という事は他所で魔動車を導入しても、緑の帯や発光する小塔にはならないかも知れません。
それは残念、と思うキサです。
おっと話が逸れました。
しかしながらキサは別に、ウーノ領など滅んでしまえ、と願った事はありません。
逆に意識して、守りたいと思った事もありませんでしたが……。
だから緩みで済んでいるのでしょうか?
「出来ているのは、綻びの当て布だな」
マサウが具体的な例を上げました。
キサは入寮時から気になっていた事を、マサウに尋ねます。
「毎日朝、早く出て行っているのも、か?」
「そうだ。ウーノ家は代々朝の時間を、1日1回は結界の事を思う時間にあてていて、その時間が1番繕いやすい」
朝の時間にそんな意味があったとは、思いもしないキサでした。
ヨズミのじじ様が教えてくれなければ、きっと結界は当たり前のものとして、考えもしなかったでしょう。
「キサちゃん、大丈夫?」
「何がだ?」
「だって綻びが起きるのだって、今まで気付かなかっただけで、これまでもあったかも知れないし。結界に何かがあるたびに、キサちゃんのせいになっちゃうなんて、重たいよ。そんな責任、大変なだけだもん」
自分を心配してくれるヨズミの気持ちが伝わって来て、キサは嬉しくなります。
「あ~っ!」
「きっ、キサちゃん……っ?」
アリナがなぜか苛立たしげな声を上げ、ヨズミは思いっ切り動揺しています。
が、無性にヨズミの頭を撫でたくなったキサは、その思いのまましばらく実行しました。
おかげでヨズミは見る間に、真っ赤になってしまいましたが。
「姫~。その辺にしておかないと、ヨズミが沸騰します」
「むぅ」
見兼ねたタイーに止められて、キサは手を離して尋ねます。
「そういえば、ヨズミ。熱はどうだ?」
「そっ、それはじじ様の水に浸ったから、大丈夫っ!」
まだ顔は赤いままでしたが、ヨズミの体調は問題ない感じを受けます。
ヨズミの言葉を考えてでしょう、結界についてのキサへの期待を、タイーは改めた模様です。
「ま~確かに姫が公に出ない事で、ついつい一族としては、結界に目をやってしまったとは思います。本当ならご両親が、姫にお話しするところを全部、当主様に押し付けたせいもあるでしょうし」
「父上と母上、なぁ……」
たぶん兄妹の両親は、結界なんて放って置いても何とかなるだろう、という程度にしか思っていないでしょう。
むしろウーノ領全体をキクスお兄様に任せれば平気だと、結界のけの字も、脳裏に上がっていない可能性大です。
そしてそう思うキサ自身も、キクスお兄様に任せっ切りだったわけですが……。
「結界の事については、少し思うところがあるから、お兄様とお話ししようと思う」
「そうしろ」
やっとその気になったかと言わんばかりの、マサウの言葉。
キサはカチンとしますが、それを流せたのは言い募って来るヨズミと、それに反応するアリナのお陰でした。
「キサちゃんが兄上さんと、どんな話になっても、僕はキサちゃんの味方だからねっ! そうだ、僕。卒園しても、キサちゃんの側に付いてるからっ!」
「何ですってっ? まだ入園したばかりでしょうに。そもそもヨズミ君、姫ちゃんと結婚するおつもりっ?」
「ちっ、違うっ! けけけ結婚なんてしなくても、キサちゃんとはもう家族だからっ」
あっさりヨズミに結婚を否定された事を、面倒が起こらずに良かったと思うべきなのか?
少しキサは複雑な気分になりました。
「ここは寮だけど、1つ屋根の下で暮らしていたら、それはもう家族だって母上は言ってた。家族だから、僕はキサちゃんの側にいるのが当たり前なんだ」
「姫ちゃんの監視役なら、私1人で充分だわ」
「じゃあ僕は……う~んと、心配役?」
何やら、家族に対して抱いている感覚が隔たっています。
ちなみにキサの感覚はヨズミ寄りです。
そして「同じ班内の奴とは、滅多に恋愛関係にならない」という、マサウの話をキサは思い出しました。
それはなぜか?
きっと恋愛になる前に、家族になってしまうからではないでしょうか?
宣言してくれたヨズミはともかく、他の3人と果たして家族になれているのか、難しいところですが、キサはそうなれたらいいなと、笑みを浮かべました。




