いっぱいの、だがしかし
事態が収拾した事を伝える為にマサウを送り出し、キサ達はヨズミの部屋に集まります。
今は大分スッキリとした顔付きをしていますが、ヨズミのじじ様が来る前、熱で苦しそうにしていたヨズミを、一応念の為にベッドに寝かす為です。
さっきまで水中だったはずなのに、ヨズミの部屋に水気はなく、それどころか綺麗になっているようでした。
「伝えてきた」
「マサウ、お帰り~」
「本来ならお前の仕事じゃないか、タイー」
「そりゃ~、マサウが伝える方が説得力があるから。二度手間を省いたのさ」
「……終わったとしか伝えてないぞ」
「あ~分かった分かった。で、どんな感じだった?」
ぼやくマサウを、タイーは全く意に介していません。
「非常ベルが鳴り止んだし、ここにいるのは皆それなりに、力を感じ取れるからな。すぐに納得したよ」「なるほどな~」
じきに寮生達は、落ち着きを取り戻しそうです。
「それでヨズミ、何があった?」
「うん。僕のご先祖様に、じじ様の子供と結婚した人がいて、僕は水のソレの先祖返りなんだ。じじ様は僕みたいな子が生まれると、そのたびに心配して、見に来ているんだって」
「人とソレの子孫って、おとぎ話の中だけの事かと思っていたわ。通りで、ずれているわけねっ」
「ずれは関係ないと思うぞ~、アリナ」
「そういう貴方はまるで驚いていないわね、タイー」
キサがヨズミの部屋へ入る前の言葉の内容といい、班長として若干事情を知らされていたのか、タイーは表情を変えません。
「あのムスメというのは、ヨズミのお母様か?」
「僕の育ての母上なんだ。でも血も繋がっているんだよ。母上もじじ様に心配されていて、だから僕の事も凄く気に掛けてくれる」
なるほど、先祖返り同士だという事らしいです。
ヨズミのじじ様の様子を振り返ってみても、我がコが可愛いあまり、無理強い出来ない様子でした。
だからヨズミと同じ我がコである、ヨズミの母上の願いに逆らえなくて、これまでヨズミのじじ様は強く出られず、ヨズミとろくに会えていなかったそうです。
それでついに寮までやって来たというわけか、とキサは納得しました。
「心配で来たなら、悪いモノとは言い切れないか?」
「じじ様は悪者じゃないよっ。でも、キサちゃん。じじ様が最後に言っていた、守護の膜って?」
ヨズミの言葉に、タイーとマサウがはっとして、続けてキサを見て来ます。
ウーノには昔からソレらの力を借りて、悪いモノを入らせない結界を張っているというのは、ウーノに住んでいる子供なら、誰でも知っている話です。
それがタイーの言っていた、マサウに肩代わりさせているという、キサの仕事なのでしょうか?
だが。
当主としての仕事なら、キクスお兄様でもいいはずです。
キクスお兄様がこなせる仕事なら、お兄様がきちんと行わないはずがないと、キサはいぶかしみます。 つまりキクスお兄様では駄目だと、タイーが言って来ているのは、魔力が関係してくるのでしょうか?
しかし。
キサが結界を作ったなら、攻撃的になる事間違いありません。
魔法による結界なら、絶対にマサウの方が得意です。
キサでなくてはならない理由は何でしょう?
だがしかし。
もしその理由如何で、やはりウーノ家の当主はキクスお兄様ではなく、キサでなければとなってしまったら、どうなるのでしょう?
そうなら、知りたくないとキサは思います。
しかしだな。
このまま緩んだ結界をマサウに任せて、本当に悪いモノまで入って来てしまったら?
それこそ、どうなるのだ?
どうせなら、ずっと知らないでいたかったと、キサは逃避したくなりました。
だがもう。
知ってしまったからには、そうもいかない……のだろうなと、キサは腹を括ります。
心の中の葛藤は続いていますが、キサは知る事を選び、そして始めの疑問から聞いてみる事にしました。
「学園都市の結界が緩んでいるらしい。それは私がマサウに肩代わりさせている件か?」
「そうですよ~、姫! どれだけ公の場を当主様にお任せしようが、結界ばかりは、やはり姫次第なんですっ!」
タイーが今しかないと勢い込んで、キサに伝えて来るのです。




