表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱらぱらと夢物語  作者: きいまき
25/34

水を司るソレ

 溺れない様に自分を防御するのではなく、自分に近づくなと全身で扉を攻撃します。

 そうしてキサは取り巻く水から、自分を守りました。


 呼吸も視界も問題ありません。

 水中にゆらゆら漂って見えるヨズミはまるで、溶け掛けている様に、輪郭がぼやけて見えました。


「ウーノの姫よ。邪魔をしないでもらう。このコがずっと我を、いや我らが世界を呼んでいたのだ。それに我は応じただけなのだよ」


 周りの水からは、


「ここではない、どこかへ」

 そんな意志というか、思いが伝わってきます。


 ウーノ家の姫の役割とやらも、みんな打ち捨てて。

 覚えのある感情だとキサは思いつつ、ヨズミの近くに辿り着きました。


「近頃はあのムスメの元を離れたにも関わらず、全く声が聞こえず心配しておったのだ。それほどに疲れたのであろう。

 今まであのムスメに何度も拒まれたが、ようやく直接問える時が来た。さぁ、我と我らが世界へ参ろう?」


 ヨズミが、水のソレと行く気があるなら。

 この調子なら行ったとしても、決して悪い扱いは受けないだろうと窺えます。


 だから本当なら、キサがこの誘いを邪魔する筋合いはないのでしょう。


「ヨズミ」

 この手を。

 もしヨズミの手を取る事が出来なかったら、諦めようとキサは思いました。


 けれど、ヨズミの手は絶対に取れる。

 その実、きっと取れるとキサは疑いませんでした。


「じじ様。僕はこうして水に浸っていると、どうしても心地好くて……」

「あぁ、そうだろうとも。そなたは水のコだ。この世では行き辛かろう」


 そしてキサの手は、ヨズミの手に握り返されました。


 それを見たソレの気配が、一気に剣呑になります。

 瞬間的にでしたが、水圧が強くなりました。

 確実に、それでもかなり手加減してもらっている様です。


「心配してくれて、ありがとうございます。でも。ごめんなさい、じじ様。こうしてキサちゃんも迎えに来てくれたし、きっと部屋の外でだって心配させているから」

「……」


 ヨズミのじじ様は、じっとヨズミを見つめています。


「……ならば、ウーノの姫。そなたは一緒に行かぬか?」

「私っ? ですか?」


 敵意を向けられてしまった事だし、自分にお鉢が回って来るとは夢にも思わず、キサは驚いて問い直してしまいました。


「あぁ。そなたも来れる。その魂ならば、我らの世界でも消えはすまい」

「……」


 キサが、ここではないどこかへの思いに、先程反応してしまったのを、見透かされた気がしました。

 握り返された手が強くなって、視線を転じると、ヨズミが心配そうな表情を浮かべています。


 そうしたならば、きっと楽なのでしょう。

 が、キサはそんなヨズミに、大丈夫だと微笑み掛けました。


「ありがとうございます、ヨズミのじじ様。しかし、私も行きません。もしそちらの世界のモノになってしまったら、お兄様に私の姿は見えなくなってしまいますから」


「ウーノの姫にまで振られてしまったか」

 落胆はした様子でしたが、ヨズミの時ほど気を悪くしたわけではなさそうです。


「そなたらの気が変わったなら、いつでも申して来るが良い」


 その言葉にもキサは頷きませんでした。

 気が変わる事などないと表すべく、眼差しを込めるだけで。


「そうか。ならば我は我らの世界へ帰るとする。……時に、ウーノの姫」

「はい?」


「気を付けよ。この地の守護の膜が緩んでおるぞ」

「守護の膜?」

「……」


 ヨズミは首を傾げましたが、キサには心当たりがあります。


「うむ。ではな、我がコよっ!」

「えっ! じじ様、お元気で……っ!」


 そんなヨズミの声は届いたかどうか、部屋にあった水が錯覚であったかのように、ヨズミのじじ様は水と同時に消え去ったのでした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ