事件は突然
ごぼり。
「ここは一体? 周りは水か……っ?」
水だと分かった途端、キサを息苦しさが襲います。
何とかしようとキサが焦ると、ソファーの上で目を覚ました自分を自覚しました。
「……夢か」
前触れも何もなく突然、キサは水中に沈められた白中夢を見たようです。
直後、寮内に非常ベルが鳴り響きます。
「何だ?!」
非常ベルが鳴るなど、キサが知る限り、寮が魔力吸収限界状態に陥った時ぐらいです。
それも3年前の事件があってから、魔力の制御に不安定な子供達が通う学園は、優先的にシステム改新が行われ、寮も同様なため、同じく改新したばかりです。
それなのに非常ベルが鳴るなど、よっぽどシステムに負荷が掛かっているのでしょう。
「どこだ?」
ゆっくりキサは周りを見渡します。
窓の外からは、寮内から逃げ出したらしい、寮生達の声が聞こえてきますが、そちらではありません。
気になる方に歩いていくと、入寮からこれまでの疲れを放出するがごとく、熱を出して寝ているはずの、ヨズミの部屋に自然、キサの足は向かいます。
部屋の前には全身びしょ濡れで、水を滴らせながらも、扉を叩き、開けようとするタイーの姿があります。
「くそっ」
しかし、堅く閉ざされたままの扉に、タイーが悪態を吐きました。
「何があった、タイー?」
「……姫。分かりません。急に水が溢れて、部屋から追い出されたと思ったら、このザマです」
更にタイーは扉に体当たりを咬ましましたが、全く開く気配はありません。
と、なれば。
「こういう場合は壊してもいいのだな?」
「う~。まぁ、……そうです」
魔力をぶつけるぐらいしかありません。
一旦は条件反射で、扉の破壊を躊躇ったタイーでしたが、すぐに遠慮なくやっちゃって下さい、な方向に固まった様です。
「中にナニかが入り込んでいるな」
「やはりそうですか」
今回の非常ベルは部屋の中でヨズミが暴走したせいで、起きた事ではありません。
部屋の中にはもう1つの気配があります。
しかも人間ではない。
ソレらの類、しかも大物級。
その存在だけで、寮のシステムが非常ベルを鳴らしたほど。
御母様とは全く違う存在感を放っていますが、御母様みたいに大きな存在だとキサは思います。
ウーノ屋敷ほど強固ではないにせよ、学園都市内もそれなりに守られているはず。
なのに、スルリと結界内に入って来るところも同じです。
いや。
悪いモノではないからこそ、関係無いタイーを部屋から出した可能性もあります。
キサと同じく異常を感じたらしい、マサウとアリナも扉前に集まってきました。
「手伝いはいるか?」
「1人で大丈夫だ。それよりマサウ、私の力が周囲に及ばないようにしておけ」
「はいはい。仰せのままに、キサ姫」
その返事にカチンとしますが、自分の力による被害はマサウが請け負ってくれたので、最小限に収まるだろうとキサは思いました。
不本意ながら、長年マサウにキサの力が防がれて来たからこそ、持ちえた感情です。
「扉を壊しても、水は溢れない……とは思うのだが」
「もう、仕方ないわねっ。溢れた場合には、働いてあげるわ。感謝しなさい」
嫌々ながらも、アリナの瞳はその口調を裏切って好戦的。
実に頼もしいです。
安心して力を振るえます。
「ありがとう。では行く」
「姫。ヨズミをこちら側に留めて下さい。姫も、引き摺り込まれない様に……!」
タイーのそれは、魔力の籠った言葉ではありませんでしたが。
「了解した。心する」
なぜかキサはそうした方がいい気がして、タイーの言葉にしっかりと応じ、水の中へと特攻しました。




