見学
治安部隊の演習は何度も覗いて、参考にしていたキサですが。
魔法使いの塔内にある、研究所の方にばかり入り浸り、騎士・魔法使いで結成されている、学園都市の守護というか警備というか、有事には軍部となる部署がある区域には、ほとんど入った事がありません。
キサの攻撃的な魔法からすると、魔動車の製作に意気込めなければ、研究所ではなく軍部で暴れていた可能性もあったでしょうに。
人生、どう転ぶか分からないものです。
キサは1号から、軍部は毎日ほぼ決まった時間で行動が決まっていると聞いています。
見れば分かるという1号の言葉は本気らしく、その決められている予定から割り出した1号の居場所へ向かいます。
早速。
「いた。あれだ」
「あれ、ねぇ」
目標発見、打ち方用意っ!
ではないが、それくらいの気分で、キサは鍛錬場にいた1部隊のヒタカを見据えます。
ポポの姿はやはり見えません。
心の中で、キサはポポに呼び掛けてみました。
それでもやはり、ポポは現れません。
これは無駄足に終わったな、と一気にキサの気分は急降下します。
「姫ちゃん」
「うん?」
「うん、じゃないわよ。思いっ切り、気付かれているじゃないのっ。今、絶対にこちらを見ていたわよ」
アリナとキサ以外にも、見学者がいるのに見つかった?
貢ぎ物持参で、黄色い声を上げている見学者の方が目立っているのに?
しかし、確かにアリナの言う通りらしいです。
「もっと街の見回り中とか、不意を突かないといけないな。帰ろう、アリナ」
「待って。何かするみたいだわ。敵を倒すには、まず相手を知らないとっ」
いつの間にかアリナの中で、1号が敵認定されています。
鍛錬場の空気が、1号を中心に変化しました。
それを察した、黄色い声も止まってしまうくらい、1人1人の戦力魔力が増して、闘気が膨れ上がります。
自主的に高めたのではなく、声は聞こえなかったが、1号の言葉の影響だとキサは感じました。
1号の能力は、キサもその身で受けましたが、縛って低下させるだけではなく、逆の事も可能だった様です。
対象への能力補助魔法。
たぶん1号はわざと、自分にその魔法が扱えると、キサに見せて来たのです。
しばらくして魔力の高まりが落ち着き、部隊の空気も和み始めたのを感じたのか、見学者達は一様にほっと息を吐きます。
キサの隣で、アリナも同様でした。
「姫ちゃんなら、あれ、倒せるわよね?」
やはり倒すのか、アリナよ?
内心苦笑しつつも、キサは答えます。
「集団の人数によっては、どうだろうか。それと周囲への被害を無視して良いなら」
「自分の命が懸かっているのだもの。周囲への被害なんて、二の次で構わないわよ」
その他大勢よりも、自分の命を大切に思ってくれている様な、アリナの発言に、キサは食い付きました。
「そうなのかっ?」
「もちろ、んんんっ? ……今のは言い間違いよっ。姫ちゃんの命の方が、二の次三の次に決まっているでしょっ!」
アリナが慌てて捲し立てて来たので、キサはヒタカの魔法について、分析する事にしました。
「しかし私を倒せと意識を縛った上で、更に能力補助の魔法が掛けられたら、対処は骨が折れそうだ」
「あら。それなら始めから、姫ちゃんを倒す事を目的としている人に、補助を与えれば済む事よ」
「……そんなに私は恨まれているのか?」
「え……? え~っと、どうかしら。そんな事もあるような、ないような、やっぱりあるような」
しどろもどろなアリナの態度に、キサは自分に関する噂や人物像を、打ち消して回りたい気分になりました。
しかしそんな事は無意味どころか、火に油を注ぐ結果になるだけでしょう。
どちらにせよ、わざと1号がキサに能力を見せて来たのは……。
「いざとなれば私など、どうとでも出来るという脅しか?」
だが、簡単には負けてやらんぞ。
キサは決意を新たにし、その日、魔法使いの塔を後にします。
そして寮内の自分の部屋で、ポポの事を思いつつ、今後ヒタカとはどうすれば……を考えたのでした。




