暴露②
今一つ釈然としないキサを横目に、アリナが口を挟んで来ます。
「私ね、適当に男を見繕って孕んで来いって、学校はここしか許してもらえなかったわ。そのまま入寮して、中等部でもタイーとマサウと同じ班でね。私、ウーノ一族と同じ班になるように、親がねじ込んだと思っていたの。
だからやっぱり納得いかなくて、部屋にずっと籠っていたわ。ご飯はタイーが運んでくれたし。終いには私、寮内蒸し風呂にしちゃった。
マサウだって、今じゃここにいるのが当然な顔してるけど、結界張って内外接触不可な状態にしたのよ」
その話は本当の事らしく、タイーが横で頷いています。
中等部の入寮時がそんな状態だったなら、確かに口だけで済んで、誰も問題行動を起こさなかった今回の入寮時は、タイーにすれば、高等バンザイな気分になるというものです。
アリナにばらされたせいでしょう、マサウが当時を思い返します。
「キクス様に魔力はないはずだから、俺が勝手に気圧されて、寮に張ってた結界を解いたんだろうが、食い破る勢いで入って来て、ウーノのシステム壊す気かって爆発されてさ……マジ震えた」
震えたと言いつつ、結果的にキクスお兄様が駆け付けてもらえたからか、マサウは嬉しそうにキサには見えました。
「あら、そうなの? 私には、せっかく実家から離れているのだから、適当に報告を入れつつ好きにしてみればいいよって、諭して下さったのに」
きっと、それだけで話を終わらせておけば、美談にも聞こえたのでしょうが、残念ながらアリナの話は続きます。
「よくよく考えたら、女は妊娠すればそれで良し。で、あとは帰って産めば、両方の血を引いた子供の出来上がりだけど。男は妊娠した女ごと、お持ち帰りしないといけないものね。
だからこんな寮だけど、いきなり強姦されるって事はほぼないから、姫ちゃんも安心して大丈夫よ。もちろん、お持ち帰りした~いって思う様な、男が出来るのが一番なのだけどっ」
「「……」」
一気に告げられた内容に、ヨズミはいつも通り真っ赤になって口をぱくぱくとさせ、キサも目を瞬かせました。
「……アリナ、ぶっちゃけ過ぎだ」
「あら? そうだったかしら?」
「……俺もついでに言っていいか?」
今度はどんな話が飛び出すのやらと思いつつも、キサは頷いてマサウに先を促しました。
「中等の時もそうだったが、同じ班内の奴とは滅多に恋愛関係にならない」
「そうなのか?」
「理由は分かる様な気もするが……。お前もお前なりに実体験してりゃ、何かしら思う事が出て来るんじゃないか?
とにかくお偉方の思惑はどーであれ、キクス様が俺とお前の、その手の関係を期待してるわけじゃない。というかさぁ、お前、ヒタカさんはどうすんだ?」
「降りるんじゃないか? もう時間の問題だろう」
「そうとは聞いてないぞ?」
「……」
そういえばキクスお兄様を間に挟まずに、マサウと苛立たずに話すのは始めてだと、キサは思いました。
「マサウ。私はウーノの当主になるつもりは全くないが、学園都市がなくなってもいいとは思っていない」
「どういう事です?」
呟くように言ったキサに、タイーが問い掛けて来ました。
なのでキサはタイーに対しても、今度はしっかりと答えます。
「タイー、私もウーノを離れては生きていけないんだ。けれど私は全く当主になる気はないし、当主に向いてないとも思っている」
「だが、ウーノがウーノである為に、お前は絶対必要だ」
ちゃんとキクスお兄様を敬っているらしいマサウまでが、こんな風に思っているなんて……とキサは不思議で仕方ありません。
「今までウーノはウーノだっただろうが。キクスお兄様が当主で何故いけない? 私はキクスお兄様が当主を辞めさせられて、ウーノから出て行かれるなら、一緒について行くからな」
「姫っ!」
タイーが声を上げますが、キサの根本は決して揺らぐ事がないのです。
「私は、キクスお兄様が側に居て下さるならそれでいいんだ。もしお兄様が当主であり続けて下さるのなら、自分に出来る事は何だってするだろう」
「……何でもするって?」
「だから、種馬1号も認めている。ちゃんとウーノが存続する為に、子は作ろうと思っているんだよ自分は」
「本当に割り切ってるわよね~、姫ちゃんは」
アリナはそう言ってくれますが、残念ながらそんなに、感心されるような事ではありませんでした。
「ここまで割り切ったのは、そう前じゃない。中等部に入学しなかったのは、キクスお兄様から離れたくなかったからだからな。無理やり入寮させられていたら、きっと中等部など潰していただろう」
「寮じゃないの?」
「中等部がなくなれば、通わずに済むから、寮になど入ってなくてもいいじゃないか」
「キサちゃん頭いい~」
こんなキサの考えを褒めてくれるのは、きっとヨズミくらいでしょう。
「ホントは高等部にも来たくなかったんだぞ。キクスお兄様が言うから仕方なく、だ。それに、アリナに会ってみたかった」
「私?」
「中等部でウーノの街を、あわや機能不全にさせそうになるほど、魔力を暴走させた女の子なら仲良くなれるかも、と……」
「……言いがかりは止めてもらえない?」
いえ、事実です。
それに、2人が寮を魔力吸収限界状態にしてくれたお陰で、魔動車の動力源は進化できたのですから。
感謝する、とキサは心の中で付け加えました。




