不思議3つ
コゴンタタター コココンタター……
魔動車の線路は、幅広い一条の緑の帯として、続いているように見えます。
始めに気が付いた時には、ちょろちょろと出ていただけだったのですが、今では背の低い草が生え揃ってしまったのです。
地表動力方式。
線路に平行して通している動力を、魔動車は取り込み、走る仕組みなのですが、どうやらその動力を床にして、草は生えているようです。
背は一定以上から全く高くならず、横にも広がらず、一見弱そうです。
しかし魔動車が走らない時間に、人に踏まれようが、馬車に轢かれようが我関せず。
手入れはもちろん、水さえあげていません。
もしかするとソレらの一種ではないだろうかとさえ、思えてきます。
線路や魔動車、もちろん人体にも、何の影響もありません。
緑の帯は目に優しく、人々にも好評。
と、なれば。
日々観察は続けるが、現状放置にされています。
そして、もう1つの不思議。
広場に建つ領線の動力源の外装・小塔は、日が傾き暗くなってくると、ほんわりと光を発します。
たぶん日中にも光っているのでしょうが、日の光の下ではそうと気付けないくらいの、僅かな発光。
闇に浮かび上がる小塔は美しく、幻想的でした。
しかも日によって、光の色合いが違います。
集められた力の色の差という意見が主ですが、動力源自体ならまだしも、小塔の発光原因も、緑の帯と同じく未だ不明&現状放置です。
各停留所には、馬車乗り合い所兼荷物預かり所があります。
領内は平らではないので勾配があり、川を渡る事もあるので、領線専用橋が架けられました。
食料から建築資材等々、生活必需品も運びます。
軽快なリズムを周囲に響かせながら、魔動車は走るのです。
高等学園の最寄り駅へ出て、キサはヒタカと魔動車に乗っていました。
1号と出掛けるのは、面倒臭い事この上ありませんでしたが、魔動車に乗ろうと誘われれば、行き先がどこであれ、魔動車を気にしているキサとしては拒否出来ません。
キサが車内の様子を窺うと、昼過ぎという時間帯の割には、ぼちぼち乗客がいました。
特に混み合うのは朝夕で、貨物車両を連結させる場合もあるのですが、それとは別に大荷物を抱えた人用の、行商専用車両があります。
それ以外の時間帯の、膝に乗り切らない大荷物には、荷札を付けて客車の中に積み込む事になっています。
もちろん大荷物には乗車料金を頂戴して。
膝を突き合わせての、長い座席。
領線開通式に見られた、おっかなびっくりの、物珍しい表情を浮かべている乗客はいませんでした。
利用するのに慣れた顔ばかりで、キサは魔動車が日常の足として、使われている様だと安心します。
停留所に待ち人がおらず、車内(の次、止まります)ベルが鳴らなければ、その場所は止まらずに通過してしまいます。
領線は学園都市から、少し離れた土地へまでしか走っていないので、相変わらず長距離や他都市への旅は馬を使います。
その線路を更に延長するかは、まだ未定。
他領地の都市が魔動車を導入して、ウーノ領と繋げる気があるかも、関わって来るのでしょう。
学園都市内でも、停留所から離れた場所へ向かう時は馬なので、乗合馬車の需要は高く、客の奪い合いによる馬関連業界からの、反発も少なくなっているそうです。
「キサ」
魔動車についてしか考えていなかったので、キサが危うく存在を忘れかけていた1号に名前を呼ばれました。
「何だ?」
名前を呼んで来たくせに、1号は答えようとしません。
少しの間、キサは1号と無言で睨み合います。
そして先に1号が、キサから視線をずらした事で、キサは何となく、勝った! な気分になりました。
直後、1号にため息を吐かれ、途端にムッとする羽目になったのですが、キサはもう1度尋ねます。
「……何だ?」
「俺とデートだと言って、出て来たのか?」
魔力としてはキサの方が強いらしいのですが、1号はキサを縛るだけの能力を持っています。
キサに対する殺害目的はないと思うのですが、傷害や拉致目的の可能性はゼロではありません。
ので。
デートとは言っていませんが、何かあった時の為に。
「一緒だとは言った」
「一応、俺の存在を周囲に知らせる気はある、か」
そういえば1号は寮にやって来ましたが、キサ自身が入寮すると言ったわけではありません。
高等学園に通うとさえ、告げていないのです。
一体誰から聞いたのやら、でした。
それに。
どうもアリナの言葉から察するに、寮は結婚相手を探す場所らしいのです。
種馬候補という1号の立場からすると、キサの入寮は面白くないのでは?
キサは試す様に、1号に問い掛けます。
「寮内で男問題は起こさないと約束しているが、私の入寮には賛成か反対か?」
「本心では反対、だけどな。残念ながら賛成だ」
「それは誰かに乗り換えてもいい、という事だな?」
「そう見えるのか?」
「……」
また、1号とキサは睨み合います。
乗り換えは不可らしいです。
権力欲はそれほどないと言っていたのに、1号が自分の夫になりたいのはなぜだろうかと、キサは考えました。
もしキクスに当主を続けてもらっても、キクスの跡取りは、ほぼキサの子供で間違いありません。
キサが知らないだけで、領線開通式記念品のように、ウーノ家の当主の父には、特典でも付いているのだろうかと、キサは不思議で仕方ありませんでした。




