表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぱらぱらと夢物語  作者: きいまき
16/34

壇下から見た、お兄様

 次の日の朝、寮のベットの中で、キサはいつもの起床時間に、目を覚ましてしまいました。

 まだ日が昇り始めたばかりらしく、ゆっくりゆっくりと、窓の外が明るくなっていきます。


 起きるか起きまいか、キサが布団の中で迷っていると、誰かが自室から出て来て、そのまま班部屋からも出て行った音がしました。

 自室の位置関係から察するに、出て行ったのはマサウです。


 マサウはウーノ一族の中でも、魔力が強いと言われており、またこの朝の時間です。

 祈りの時間に関係しての行動に、違いありません。


 屋敷へ行ったのではないだろうかと、ふとキサは思い付きます。


 マサウに気づく前よりも一層、起きるかどうかを悩み、しばらく悶々としましたが、結局キサはベットの上に正座し、屋敷のある方を向いて、いつものように、キクスお兄様の願いが叶う様に、祈りを捧げる事にしました。


 そして祈りを捧げながら、今日からは、キクスお兄様と一緒の祈りの時間は、行えなくなったのだと、悲しくなってしまいました。



 寮から屋敷までは往き来可能な距離で、キサがお願いをすれば、きっとキクスお兄様はキサを、毎朝送迎してくれるに違いありません。

 けれど、キサが嫌うマサウと、同じ班になるのをご存じなのに、キクスお兄様が何も言って下さらなかったと聞いてから、キサは本当に屋敷へ帰っていいのか、分からなくなっていました。


 通学できる距離に関わらず、何故寮を勧めて来たのか。

 キクスお兄様は自分をどう思っているのだろうかと。


「もちろん好きに決まっているじゃないか、可愛いお姫様」


 昔のように、キクスお兄様がそう答えてくれる自信が、キサにはなくなっていたのです。


 ずっと側に居たい。

 会いたい。

 一晩会わなかっただけなのに、キサの中でキクスお兄様への思いは募ります。


 でも、側に近寄って、迷惑だと嫌われたくもありません。



 うじうじ悩んでいたキサですが、ふと今日は入園式だった事を思い出します。

 入園式に出れば、毎年来賓として招待されている、キクスお兄様にお会い出来る!


 もちろん、すぐ隣は無理だろうけど、それでいい。

 遠くから見るのならキクスお兄様も、キサをお嫌いにならないだろうから。


 そう考え、時計を見ますと、入園式の開始までそう時間がありません。

 キサはなるべく、女学生らしく見えるように準備して、入園式の式場へと向かいました。




 一園生として出席した高等学園・入園式が、キサの久しぶりな、公式の場への参加となります。


 生徒達の内情は、ほぼ中等からの繰り上がり組で、ヨズミやキサの様に本当の意味での、新入園生は少数です。

 ヨズミも体さえ弱くなければ、中等からの入園予定だったそうです。


 もっとも、キサのように生まれも育ちも学園都市内で、魔力持ちが、学園へ通わない方が珍しいのですが……。



 そのキサが入園式で印象に残ったのは、式事前に示し合わせたわけでもないのに、来賓として招かれ、式場に入って来たキクスお兄様に気づいた順から、自然と立ち上がっての拍手が沸き起こり、キクスお兄様が挨拶で、壇上へと上がったり降りたりした時も、同様に拍手が沸き起こった事でした。


 その様子に、キクスお兄様が、当主として学園都市の人々に認められているのを、肌で感じたキサは嬉しくなります。

 この光景が学園都市の住民の総意ではないにしても、キクスお兄様がウーノ家の当主である事に、反対する者ばかりではないのだと、しっかり窺い知る事が出来たからです。


 3年後、キサが18歳になっても、そのままキクスお兄様がウーノ家当主であれば良いというくらいに……というのは、キサの期待し過ぎでしょうか?


 どちらにせよ、ウーノ領で必要とされているなら、キクスお兄様はここから出て行かないでしょう。

 そういうお兄様のはずだと、キサは思います。


 でも、キサはキクスお兄様にウーノ家当主になりたいか、聞いた事がありません。


 自分よりキクスお兄様の方が、ウーノ家当主にふさわしいと感じるし、自分は当主になりたくないと、ずっと思ってきました。

 キクスお兄様が、ウーノ家当主でいたくないと思っていたら、どうすればいいのでしょう。




 入園式が終わって、寮に帰って来てからも、そんな風にキクスお兄様の事ばかり考えて、落ち込んでいた為。


「姫、来客~です」

 そうタイーから声を掛けられた時、キサの胸は飛び跳ねました。


 その来客が誰かも聞かず、急いでキサは玄関ロビーに向かいます。

 例え親・兄弟だろうが、寮生の生活空間には入れない規則なのです。


 しかし、玄関ロビーにいた人物を見て、キサは思いっ切り落胆しました。


「キサ。諸手を挙げて歓迎しろとは言わないが、仮にも婚約者にその顔は酷いんじゃないか?」


 居たのはキクスお兄様ではなく、1号だったからです。

 婚約者ではなく種馬候補、だと訂正するのも、面倒臭いです。


「そちらの要求はなんだ? なぜポポを知っている?」


 キサは低い声で切り込みました。

 今日もヒタカの近くに、ポポの姿はありません。


「それは俺を観察すれば、すぐに分かる。今日は入園祝いを持って来た、おめでとう」

 1号はキサに花束を差し出して来ました。


 ふざけるなと突っ返したり、投げ付ける事だって出来たのですが、花に罪はないので、キサはぐっと堪えます。


「では、ありがとうと言っておこう。活ける」

「活けて、ちゃんとここに戻って来いよ、キサ」


 1号の言いなりになるのは癪でしたが、続けられた言葉にむっとしつつも、キサは頷きました。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ