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ぱらぱらと夢物語  作者: きいまき
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呪いの文句は投げられた

 キサ、15歳。

 元から魔力の有無に関わらず、子を成し難い一族であるせいか、一般平均より随分遅く、生理が3ヶ月前にようやくキサにも来ていました。


『キサは俺と夫婦になる』

「……!?」


 研究所から帰って来たキサは、顔を見るなり放られた言葉に固まります。

 投げられた言霊は、キサを確かに縛っていました。


「誰だ?」

 ここはウーノの屋敷内なのです。


 屋敷に帰って来たからには、キサは良家のお嬢さんではなく、ウーノ一族の姫。

 例え縛られていなくても、お姫様らしく装う気などキサにはありません。


 ですが、いきなりウーノの姫へ縛る言葉を掛けたのです。

 この言葉はウーノ家に対する、不敬に十分あたります。


 キサは研究所から帰って来たばかりで、装っていないどころか、全くもって姫らしくない格好なのですが。

 こんな格好なのだから、お前こそ誰だ? 姫はどこだ? と問われてもおかしくないはずなのに、目の前の相手はキサを、ウーノ家の姫だと確信しています。


「キサの夫候補1号、ヒタカ」


 一族の古株が、種馬第1号を送り込んで来たという事かと、キサは嫌悪を前面に出します。


 とりあえず外見を見るに年上、たぶんキクスお兄様と同じくらいの年齢である、この1号が、自分を敬う気が全くないという事が、キサにはよく分りました。

 キサのご機嫌を取る為に、言動を着飾ろうとして来ません。


 ちなみにどうでもいい事ですが、キサは研究所に入り浸っていた関係で、年下の年齢は今一つ分かりませんが、年上の年齢ならほぼ当てられます。



 まぁ敬ってもらわなくても結構だ、とキサは思い直しました。


「キサは出会い頭に弱いな。もしここで俺が服従を求めていたら、不味かったんじゃないか?」


 キサは1号を睨み付け、そうされた相手は気にする様子もなく笑いました。


「さすがにそれは、縛る前に跳ね返されている、か」


「つまり、そちらより私の魔力のほうが強いという事だな。という事はその気になれば、今の言霊も木っ端微塵に出来るはず」

「それは酷いな、棘くらいは残ってほしいものだ」


 キサは眉を寄せました。


 棘というのは、その大きさのわりに痛い。

 ついでに抜け難い場合もあるし、抜けた後でもまだ刺さり続けている様な気がして……つまりは不愉快。


 我が儘姫を制御したくて、それが少しでも出来る相手という事で、ヒタカを差し向けたのか?


 一族がなぜ、この1号を寄越したのか、キサにはさっぱり分りません。



 分りませんでしたが、しかし1号をパスしたとしても、これからも一族は次々と、種馬を見繕い続けて来るに違いないと、キサには想像が付きます。


 とりあえず、もう少し1号の様子を見る方向に、キサは切り替え、そして直球で聞いてみました。


「ウーノ家が国に対して持つ、権力が欲しくて私との話を受けたのか?」


 ウーノ家は国政の中央に食い込んでいませんが、代わりに、中央の脇やそのまた脇辺りに、学園の卒園生が存在しています。


 その上、魔動車はさすがにまだ、他所に走らせる計画はありませんが、食住関連で様々に使われている、魔法道具は、売るだけでなく、メンテや修理も元を辿れば、ウーノ家に連なっており、ウーノ家を忌避する事=魔法道具を拒否する事に繋がってしまいます。


 ウーノ一族は、有事の際には、国に魔法使いを率先して差し出すという条件の元、貴族として国に帰属しています。

 であるので、有事の際に力ある魔法使いを出してもらう為に、平時には、早々ウーノ家の不利になる件は、吹っ掛けられないのです。


 つまりウーノ家の権力は学園都市内だけではなく、外にもかなり有効。

 正直、キサはキクスお兄様さえ居てくれれば問題がなく、もしこの1号が外での御活躍だけを望んでいるなら、それこそ大喜びでした。



 ところが、ヒタカは肩を竦めます。


「残念ながら、権力欲はそんなに強い方ではない」

「……」


 やっぱり1号はパスだ、とキサは思いました。

 というわけで。


「そちらとの今回のお話は、なかった事に……」

「そう言われる可能性は、十分にあると思っていたから、キサの気を引く為に、2つばかり考えてきた。キクスとポポ」


「な……ッ」


 キクスお兄様の名前はともかく、なぜポポの名前まで1号は知っているのか?

 1号を無下に扱ったなら、キクスお兄様とポポが一体どうなるか分からないと、脅しを掛けて来ているとキサは捉えます。


 手を出すなんて許さないと、例え言霊の棘が残ろうとも、キサは1号を吹き飛ばそうと魔力をためます。

 それなのに魔力と同時に膨れ上がった声を、キサは結局詰まらせてしまいました。




 思い出すのは、ポポの事。


 ポポがキサの所へやって来る時間は、初めて会った頃より各段に増えていました。

 研究所には来ませんでしたが、部屋でキサの帰りを待っている事もよくありました。


 だからこそ、ポポが側にいる人間を自分ではなく、1号を選んだかも知れないと、想像したキサはショックを受けたのです。


「あの子は貴方を選んだのか?」

 だとしたら、ポポとはもう呼べないだろうと、キサはポポをあの子と呼びました。


「……あの子。やはり、そういう目で見ているのか」

 キサが人間の子供に対する様に、ポポを呼んだせいか、微妙な表情を1号は浮かべます。


 答えたキサ自身も、出会った当初はともかくとして、途中からのポポは、子供がとる態度とは違った様に思いました。


 だが、ポポは家族同然。

 あの子と呼んでも、差し支えないはず。

 1号の様子に焦れて、再度キサは尋ねます。


「どうなんだ? それともあの子を無理やり縛っているのか?」

「ポポと呼べばいい。……俺がどう見える、キサ?」


「どう見えるか、など。この場にはポポもいないし、判断の付け様がない」

「なら、その目で見て判断すればいい。」


 つまりキサは、種馬候補1号を簡単にパス出来ない、事情が出来たのでした。





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