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第百四話 あたらしいおしごと

「説明をしろ」


魔王様が難しい顔をしながら、腕を組み、私を見おろしています。

私は椅子に座りながら、うーん、と考え込みます。


……魔王様への就任の挨拶の途中、式が終わる前に魔王様に拉致されました。


当然のことながら、周囲は阿鼻叫喚。

護衛の獣人さんたちは、口をあんぐりと開けて固まっているし、式に立ち会っていた帝国の偉い人たちも、皆、一様に驚いた顔をして、ただただ呆然としていました。


魔王様は有無を言わせずに、その場で私をお姫様だっこで抱えあげて、そのまま個室へと連行しました。

今、私は非常に身の危険を感じています。


「……一応、私はもう帝国議員なのですから、不逮捕特権、身体不可侵の特権、それからえーと、私の自由を尊重してくださいね」


椅子にちょこんと座らされているものの、精一杯に胸を張って自らの権利について主張をしておく。

もう、私を無理矢理、手込めにするなどという横暴はできませんよ。法律的には。


これでも事前に、色々なことを官吏の人に聞いておいたので、新生活についての勉強はすでにしているのです。えっへん。


「そんなものは知らん。それよりもなんで、アインスがソニヤなんだ? いや、ソニヤがアインスなのか?」


そんなものは知らない、と一刀両断に私の意見を封殺する魔王様。

でも、やっぱり、だいぶ混乱されていますね。


「ええと。ごほん。では、あらためまして」


私は椅子から立ち上がり、深々とおじぎをする。


「……今まで、身分を偽っていてすみません、魔王様」


そして、視線をあげると、ぎゅっと目に力を込めて、魔王様を見つめる。


「そうです。私があなたと以前から文通させていただいていたソニヤです。それとアインスは偽名です。今まで本当のことを言えずにいて申し訳ありません」


さらっと、自白。

こういった場合には、素直に謝っちゃった方がダメージは少ないものなのです。

私のこれまでの経験から言うと。


「お、お前がソニヤだったのか。ど、どおりで……」


そこで、言葉を切り、一つ首をふる魔王様。


「いや、俺も怪しいなと思ってはいたんだが、結局、途中からどうでもよくなってしまってな。頭の片隅から消し飛ばしてしまったんだ」


そこで、じっと私の瞳を見つめる魔王様。


「しかし、なんだ。それならばそうと、最初から本当のことを言ってくれれば良かったではないか」


非難するような言葉遣いだ。


「いえいえ。やはり、姫という立場上、そう簡単には本当のことを言うわけにはいかなかったんですよ。それに魔王様だって、結局、最後まで私に正体を明かさなかったじゃないですか。お互いさまですよ」


「む。そうか……」


魔王様が唸った。

本当はお互い様どころか、魔王様がシュガークリー王国に出没している、ということが判明しただけで、国中、阿鼻叫喚どころの騒ぎではなかったはずだけど。


そして、魔王様はしばらく考え込んだ後に一つうなずいた。


「では、改めて自己紹介だな。俺はこの魔法帝国の皇帝。まあ、お前たちが魔王と呼ぶ存在だな。一応、凄まじく長い本名はあるが、まあ、それはここでは割愛しておこう」


ここで、魔王様はもったいぶるように重々しく頷いた。


「そしてわかっているとは思うが、マオールというのは偽名だ」


「存じております。ですが、まだ、その名を使ってお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「お前が使いたいならば、使うがよかろう。まあ、俺もそれなりにこの偽名を気に入っているしな」


「はい。ありがとうございます。マオール様」


「しかし、アインスよ。いや、ソニヤよ。お前は以前から俺が魔王であると、その正体に気がついていたのか?」


私はじっと魔王様を見つめ、こくりと頷いた。


「はい。最初に出会ったときから存じ上げておりました」


「そうだったのか……」


絶句する魔王様。

そして、気を取り直して、また言葉を継いだ。


「それで、なんだその……。お前は俺のことが怖くなかったのか?」


私はふむ、と考えるそぶりを見せた。


「お前は魔王と呼ばれる恐ろしい存在と対峙していたのだぞ。ゼクスたちと違って、お前には戦うための技術、逃げるための技能などないだろう?」


「最初は怖かったですよ。あの……その……。いろいろと知っていたのですよ。噂をですね」


あなたのゲーム中でのやんちゃなご活躍を存じておりましたので。

そして私に対して、するであろう様々な仕打ちを。


「しかしながら、あなた様と一緒に過ごしまして。その、なんといいますか。あなた様は、その、そんなに悪い方ではないな、と」


「……ふむ」


魔王様が、少しだけ驚いた顔をした後、力強く頷いた。


「しかし、俺の正体を知った後もなお、常に俺の前でも冷静に行動していたその精神力。それ以外にも色々あるが、なんだその……。俺としては、お前のことを高く評価をしているんだぞ」


「……う」


いやはや。そんな真正面から褒められましても。

……照れてしまいます。


「よし。決めた。ソニヤは、今日から俺直属の皇帝秘書官だ」


魔王様が、いきなりそんなことを言うと、どや顔で、私の肩をぽんぽんと叩いた。


「え? あ、あの。私、議員なんじゃ……?」


「なあに、議員は職務を兼任できるぞ。ゼクスなんて、もう、植民地総督として内定しているしな。これからはお前たちにはどんどんと帝国内で経験を積んでもらわんとな!」


「えっ!」


ひい!

ここでも、私はこき使われるのですか!

私はそう叫びたい衝動にかられた。


というわけで更新です。

ブックマーク1000記念に、友人のリオさんからイラスト(https://www.pixiv.net/artworks/83011865)をいただきました。

ありがとうございます。

次回更新も、なるべく早く書きたいなー、とは思っております。

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[一言] お仕事増えたね( ˘ω˘ )
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