第九十六.五話 閑話 とうざいほんそう
「そうか。他国の者たちも同じか」
シュガークリー王国のメルクマ国王は、腹にたまった想いととに、ためいきをつく。
その顔には年相応に、深いシワが刻まれている。
「はい、陛下。しかも、ガーナ司教からの情報によると、教皇猊下もすでに決心な
された、とのこと」
メルクマは、大臣から手渡されたガーナ司教、王都トルテを司教区として管轄する西方教会の司教である、から提供された手紙を読み進める。
「……そうか。して、この手紙の中身、ソニヤのことだが、この話は本当なのか?」
「はい。たしかに事実でした。しかも、裁判も実際に行われており、罰金刑と追放刑がなされたとのことです」
「そうか。……ちなみに、我が国単独で、魔王軍、いや、魔法帝国に抵抗した場合はどうなるかの?」
「正直に申し上げれば、我が軍単独では、数日もつかどうか、といった、ところです」
「……では、西方国家での、議席の配分が、我が国に割り当てられる可能性は?」
「諸国との力関係から、それもありますまい」
「そうであるな。……そうであれば、ソニヤを立てた方が、我が国としては最善であろうな」
「はい。我が国といたしましては、それ以外の選択肢はないものと考えます」
「しかし、結局は、教会が主導したか。例の魔王からの勧告も結局は果たせずにな」
「学者や、聖職者が総出で、博物を調査し、報告書は作成したみたいではあります。……が、やはり、満足するに足る結果は出なかった模様です」
「……この手紙にも書いてあるな。なんでもこの千年、文明が沈滞していたことがむしろ証明されてしまった、と」
「我々は、この数百年間、戦争と政争に明け暮れておりましたし」
「いっそのこと、覇権国家の下にあった方が文明を享受できる、か。たしかにのう」
「……陛下は、姫が出ていってしまった後はどうなされますか?」
「変わらんよ。しばらくは、従前どおりじゃし、新たな技術を導入して、領地を豊かにせんといかんしな」
そういって、やっとメルクマは相好を崩した。
◆◇◆◇◆
「魔王様、邪魔するぜ」
見た目は茶髪のにーちゃん風の男が、馴れ馴れしく魔王の居室へと入ってくる。
……人間大のゴーレムの身体に精霊王の魂を封じた人間型魔導兵器ベヒモスである。
「む。ベヒモスか。帝都防衛で、何か問題でもあったか?」
「そんなものあったら、こんな田舎にやってくるかよ。そうじゃなくて、魔王様よ。そろそろ予算編成の時期なんで、戻ってもらわないとまずい。それに、そろそろ、ここのあたりの『約定』も切れる。色々と手を探ったが、やっぱり、議会を納得させられるだけの、証拠はなかったぜ」
「そうか」
魔王は目を瞑り、瞠目する。
「これは言うなれば俺の我が儘だ。よく今まで俺の我が儘に付き合ってくれたな」
「水くさいこと言うなって。でもよ。そんなに気になるなら、いっそのこと拉致っちまえばいいんじゃね? あの娘もそんなに悪い風にはとらないと思うぜ」
「……立場上、それはできん。これからは、庇護民になるんだからな」
「なんで、そういう建前論を言うかねー。魔王様らしくないぜ。欲しいならば、拉致って手込めにしちまえば、どうとでもなると思うんだがなあ」
「! 手込めって、お前。そんなんじゃないないんだよ。本当にな!」
「魔王様は純情だねえ。……しかし、あの娘に別の機会に、別の出会いかたをしていたら、もしかしたら他の大事なこと、全てを放り投げて、肉欲におぼれていたりしてな」
げらげらとベヒモスが笑う。
「むっ。俺はそんなに意志薄弱ではないぞ」
不満そうに魔王は呟いた。
◆◇◆◇◆
「ゼクサイス様。方々を探り、最終的な報告書を纏めてみましたが、やはり、どの側面から分析しても、新規なる文物は見つからなかった模様です」
ゼクスの副官、特殊陸戦隊の指揮官シルフィ中佐が、けもみみをぴんとさせながら、ゼクスの執務室にて直立不動にて淡々と報告をする。
「まあ、あの偉大なる魔法文明を超えることは一筋縄ではいきませんしね」
「……調査の中で、一番、魔法帝国の学者が目を見張ったのは、シュガークリー王国から提供された発明品だそうです」
「発明品ですか」
「はい。遠隔魔法による魔道具の振動を信号として、符号を割当てて、遠隔間で通信をするという発明品だそうですが、これについてはアナログではあるが、目の付け所がよいと、高い評価を与えられたとのことです」
「……面白いことを考える方がいるものですね」
ゼクスが微笑む。
「普通ですと、『使役魔』を使った動物の感覚器官を共有する遠隔地間の情報共有魔法でしたり、『風話』を使った遠隔地間の音声会話の方が便利ですが、魔法使い以外の人間たちが、遠隔地間で情報共有をするのに便利である、との講評がありました」
「まさに、魔法を技術として使った事例ですね。しかし符号ですか。このままだと、途中で情報が読み取られて漏洩する可能性もありますし、暗号化するのも面白いかもしれませんね」
ゼクスがなにやら考え込んでいる。
「……ゼクサイス様?」
「いえ。その開発者の方にお会いして、お話をしてみたいなあ、と」
「それでしたら、今度、この発明品の開発者の方がどなたであったか、調べてみます」
「お願いします」
ゼクサイスは優しく微笑んだ。
その柔らかい微笑みをみて、脳みそが蕩けるシルフィであった。
というわけでさくっと閑話です。
ツイッターのキャラ人気投票は明日が締切なので、もしよかったら投票お願いします。
作者もびっくりなくらい、姫、人気ですねー(汗
https://twitter.com/kyou_chan2018/status/1269150862976286720




