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百合ゲー世界に、百合の間に挟まる男として転生してしまいました(書籍版:男子禁制ゲーム世界で俺がやるべき唯一のこと)  作者: 端桜了/とまとすぱげてぃ
第十四章 夏の終わり、百合の鳴く声

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再会のハグ

『もしもし』


 蒼の寮(カエルレウム)の廊下を歩く俺の耳へと、聞き覚えのある声音こわねが入ってくる。


 襟元に着けられた小型マイクとスピーカーを通し、先導している霧雨キリウに届かないくらいの小声で、フーリィは語りかけていた。


「……何時いつ、着けました?」

『さっきのおしゃべりの時に』


 隣に並んでいる先生アシュリィは、どっちつかずの態度で見て見ぬ振りをして、俺は何食わぬ顔で歩き続ける。


『その殺気立ってる女性ひと、お友達?』

「ココまで、得体の知れない人間を友人にしようとは思いませんね……夕立ちみたいな感じで、急遽、降り注いできたんですよ」

『一応、話そうと思ったのよ』

「人形使い候補のことですか?」


 無言で、フーリィは肯定する。


『元々、学内の人間だろうとは目星をつけてたの。私の抹殺を目的として行動を起こしたのは『ダンジョン探索入門』の授業中だし、暴走した魔列車に残って魔神教の戦闘員を尋問したら指示元は学内だってわかった』

「で、今回は、鳳嬢魔法学園の魔法合宿イベント中に事が起きて、我らが蒼の寮(カエルレウム)の寮長の慧眼通りに罠に引っ掛かったと」

『その犯人候補が、全員、ヒーくんのお嫁さんだったとは思いも寄らなかったけどね。

 ふふ、重婚、おめでとう』

霧雨キリウから保護するための方便に決まってるでしょ……アイツ、本気で、あの三人を秘密裏に片付けるつもりでしたよ」


 トントンと。


 壁をノックしながら歩く霧雨キリウは口笛を吹いており、片手をポケットに入れたまま微笑を浮かべていた。


『彼女、何者? 狙いは?』

「寝不足の素敵なお姉さんですよ。三条家内の利権争いにくたびれすぎて、しわくちゃのスーツしか着れなくなった可哀想な女性ひと

 俺の脳内攻略本の記憶が正しければ、狙いは三条家全体の掌握と支配。ただ、本来、ヤツはココに居る筈がない……表面上は俺の味方のフリをしているけれど、なにが目的なのかまではわからない」

『なるほどね……それで?』


 俺の襟元から、フーリィはささやく。


『人形使いは、誰かわかってるの?』

「……さっきの立食会で、確定する筈だったんですよ」


 俺は、ため息を吐く。


「人質を救出された現在いま、人形使いはわかりやすい後ろ盾を失った。俺を葬れる機会を逸したといっても良いわけで……でも、ヤツはもう一種類、別口の人質を持っていた」

『アステミルとリウ?』


 苦笑しながら、俺は口で正解音を鳴らした。


「屋上から居なくなってたんですよ、あのふたりが。だから、俺は、人形使いが魔人ライゼリュートと共謀してふたりを人質にとったと思った。あの魔人の権能であれば、ふたりを一時的に隔離するくらいなら出来ますからね。

 だから、さっきの立食会みたいにわかりやすい場を作れば、人形使い(あっち)から接触してくると思った。こっちは切札アシュリィを使って、交渉で時間を稼ぎ、ふたりが脱出するまで待っていれば勝ちだと考えてたんですけどね」

『よくもまぁ、この短期間に。

 相変わらず、怖いくらいに頭が回るわねぇ』

「あんただって、なにも言ってないのに立食会の場をセッティングしたでしょうが」

『人質が解放されたのはわかってたもの。

 人形使いが切れる選択肢カードは限定されてたし、自暴自棄になって直接的に手を下してくれないかなって期待しただけよ』


 飲み物でも飲んでいるのか。


 マイク越しに、艶めかしい嚥下音が聞こえてくる。


『……というか、魔人ライゼリュートまで関わってるの?』

「言ったでしょ、『歴史に名を残すレベルの超有名人』って。

 うちのキリウちゃんの親友らしいですよ」

『さすがに、魔人レベルだとは思わないわよ。頭痛くなってきた。もう、私、早退してもいい?』

「夏休みに早退もクソもないでしょ。

 ようこそ、楽しい魔法合宿へ」

『…………わーい』


 それとなく。


 霧雨キリウは俺の様子を窺っており、俺は微笑みながら襟を正すフリをしてマイクを回収する。


「切ります」

『壊していいわよ』


 指で押し潰して、俺は残骸をポケットに放り込む。


「坊っちゃん、独り言ですかぁ?」

「友達いねーから、独りでボソボソしゃべってんだよ。俺レベルのぼっちになると、口腔の衰えを防止するためのすべ会得えとくしてんだよ」

「…………」


 己からぼっちを選んだ黒砂にじっと見つめられ、俺は静かに顔を背けた。


「着きましたよ」


 寮内の一室。


 扉を指した霧雨キリウは、ニヤニヤとしながらささやいた。


「おふたりはココに」

「お前が開けろ」

「いやぁ、さすが、三条家のお坊ちゃまになると人を顎で指図出来るようになるんですねぇ。スンバラシイ。この三条霧雨(キリウ)、心の底から感激しちゃいましたよぉ」

「…………」

「はいはい、では、開けさせて頂きますよ」


 霧雨キリウは、扉を押し開けて――


「「あいこでしょっ!!」」


 無限あいこ地獄が眼前に開いた。


「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」


 バカな……アレから、何日経ったと思ってる……屋上から移動させられているにも関わらず……なんで、未だに『じゃんけん』を続けられるんだ……あいこに対するモチベーションの高さがオリンピック選手並だろ……表彰台に上がっても、あいこを続けられる気概は人生において必要ないのに……。


「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「「あいこでしょっ!!」」

「…………」

「止まらないんですよ」


 煙草を吸いながら、死んだ眼をした霧雨キリウはささやいた。


「なにをしても、あいこが止まらないんですよ」


 ブルブルと震えながら、俺は、先生アシュリィの方を振り向いた。


「せ、せんせい……ふたりとも、死んじゃうよぉ……このふたり、じゃんけん過労死ラインをとっくの昔に超えちゃってるよぉ……超過じゃんけんで労基署から注意を受けても、やめられないとまらないレベルのあいこを繰り広げてるよぉ……!!」

わたくしに、ダーウィン賞受賞内定済みの愚か者(フール)を押し付けないでくれる?」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は、ふたりのあいこの間に突っ込み――蒼白の閃光が炸裂し、弾き飛ばされてズザーッと床を滑る。


「あいこで防壁出来てる!!」

「……諦めたら?」


 早くも諦めたらしい黒砂は、ちょこんと座り込み、蹲って泣いている俺にささやく。


「……諦めて?」


 諦め過ぎて、最早、命令やん……。


 無意識下で、邪魔立てするものを弾き飛ばしているらしいふたりは、幾重にも重なるグーとチョキとパーで応戦を繰り返している。


 狭い室内には渦巻状の突風が暴れ狂い、ギシギシと軋み音を立てながら崩壊を予感させていた。


「世界が、あいこで壊れちゃう!!」

「くくっ、あながち、冗談とも言い切れない迫力がありますねぇ」


 余裕そうに紫煙をくゆらせている霧雨キリウは、気持ちよさそうに突風を浴びながらライターで遊んでいる。


 どうする……どうすれば、俺は、このふたりをあいこから救えるんだ……ウロボロスの輪と化した三竦みから抜け出す手立ては……そうだ、あいこ……あいことは、ふたりが同じ手を繰り出し続けることで……。


「そうか、わかったぁ!! オラァ!!」


 グー。


 俺は、ふたりがチョキを出したタイミングでグーを叩きつける。


「っしゃぁ!! 俺の勝ちぃ!!」

「「…………」」


 無言で。


 殺気立ったふたりは、俺のことをめつけ――


「えへへ、優しい師匠に勝ちを譲ってもらっちゃったぁ。優しい師匠に。あたかも、大海の如く慈愛溢れる師から、この身すべてに別け隔てなく母性を受け取っちゃったぁ。えへへ、弟子に勝利を譲れるなんてさすがは大人の師匠だぁ」


 満面の笑みを浮かべた。


「仕方ありませんねぇ! 古今無双、一騎当千、我強強師こと、私に甘えているヒイロはなにかと弟子力に頼りますからねぇ! いけませんねぇ! ん~? 師である私の底抜けの優しさに甘えたらいけませんよねぇ! ん~? ん、ん、ん~???」

「燈色、また、私に甘えたくなってしまったのですか。ふふ、構いませんよ。姉であり師である私に甘えるのは当然の摂理ですからね。ただ、そこに立っている師もどきの口車に乗せられて、彼女を師だとは思ってはいけない」

「ヒ・イ・ロ・はッ!!」


 がばりと、師匠は俺を抱き締める。


「私の弟子ですぅ〜!! 後方師匠面して、つちかってきた時の重みがあるんですぅ~っん!! それに、私とヒイロは一緒にプリクラ撮ったりお泊りしたりカツアゲしたり、と~ってもなかよしの師弟なんですぅ~!! 貴女みたいな急に女出してきたいやらし誘惑タイプのポケ○ンに惑わされたりしませんぅ~!」


 負けじと、リウは俺を抱き込む。


「誰がポケ○ンですか、このボケモンが。

 燈色は、私の弟で弟子です。弟でありながら我が子のようにも思っているので弟子だ。いい加減、理解しなさい、アステミル・クルエ・ラ・キルリシア。私は彼を家族だと思っているし下心はひとつもない、その大して大きくもない胸で誘惑してるのは貴女だ」

「はんぁ~? 私、胸のサイズは標準的ですけどぉ~? ラピスより、ずっと大きいですけどぉ~? そもそも、そういういやらしい感じのいやらし力溢れるセリフで、ヒイロを惑わしてるのはそちらではぁ~? 私、ラピスより大きいですけどぉ~? ラピスより大きいのは確実ですけどぉ~?」


 ぎゅむぎゅむ。


 間に挟まれた俺は、泣きながら歯を食いしばる。


 舌を噛み切ってしまいたい……今生に別れを告げることで、俺が決して喜んで挟まっているわけではないことを示したい……脳が壊れる……月檻、代わってよぉ……こころが……壊れちゃいそうだよぉ……。


「だったら、勝負しましょうかぁ!? 白黒つけましょうかぁ!? どっちがヒイロの師匠に相応しい存在なのかかち合いますかぁ!?」

「よろしい、望むところだ」


 ふたりは、無言で睨み合う。


「「では、じゃんけんで――」」

「ふりだしに戻るのやめろぉ!!」


 俺は、柔らか地獄から抜け出し号泣しながら叫ぶ。


「そんな場合じゃねぇんだよ!! 青少年の心をラブコメディで惑わす時間は終わりだ!! ライゼリュートとか出てきて大変なんだよ!! 魔人だよ魔人!! ふたりで力を合わせて、友情ビーム的ななにかで戦う場面なんですよ!!」

「へぇ、なら」

「そうですね」


 ふたりは頷く。


「「先にライゼリュートを倒した方が師匠で」」


 ………………そうなる?

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― 新着の感想 ―
姉弟子がとんだ流れ弾を食らっている
[一言] アステミル立ち絵公開されて見て思ったんすけどそのサイズに対してその大して大きくもない胸で誘惑してると言える劉の胸はどれだけでかいんだ…?
[気になる点] 八つ当たりでぶち転がされるライゼリュートきゅんカワイソー…… [一言] オイオイオイあいつ死んだわ
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