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いねむりひめとおにいさま【プロット版】  作者: つこさん。
第二部

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居眠り姫と王女様・18

ジャスト2000字ですー




ユーリアはキラキラした瞳でヨーゼフの腕の中の少女を見、ヤンはその様子にふっと笑った。

「メヒティルデ殿下は両陛下によく似ておいでです。

とても愛らしいと誰もが言います」

「メヒ…」

ユーリアはそれがトラウムヴェルト王国現国王の末の子の名であることに気付き蒼白になった。

由緒正しき一般人のユーリアが拝謁に適うわけがない相手である。

ザシャはユーリアの心中を察して胃が痛くなった。


「ユーリア嬢、わたしが君の身元保証人になった。

なので固まらなくていい、君が善良な市民であることは知っている」


ヨーゼフは安心させようとユーリアへと告げたが、身元保証人という言葉にかえってユーリアは委縮した。

それはユーリアがなにか粗相をしでかせば、ヨーゼフに咎めが及ぶということである。

とんでもないところへ来てしまった、と今更後悔したところで遅い。



「殿下、ご挨拶ができますか」



ヨーゼフの問いかけにメヒティルデは頷いた。

屈んで足元へと下ろされると、メヒティルデは幼いながらも美しい淑女の礼を取った。

「トラウムヴェルトおうこく、ジークヴァルトのむすめ、メヒティルデでございます」

可愛すぎてルドヴィカとユーリアは心中で悶えた。



「ご挨拶ありがとうございます、殿下。

わたくしはヨーゼフの孫娘、ルドヴィカでございます。

こちらはわたくしの従者ザシャ、そして画家のユーリア・ミヒャルケ様です。

おめもじ叶い光栄に存じます」


ルドヴィカも礼を取り、名乗りを上げることの適わない二人を紹介した。

それに応じてザシャとユーリアは慌てて頭を下げた。



「がかとは、なんですか?」

メヒティルデがヨーゼフを見上げてこっそり訊いた。

ぜんぜんこっそりになっておらずその場の全員が和んだ。


「絵を描くことを生活の支えとしている職業の方のことですよ。

ユーリア嬢はとてもお上手に絵を描かれるので、この中庭の様子を描きに来られたのです」

「なかにわの、なにをかきますか?」

「さあ、どうでしょう。

ご自分で訊ねてごらんなさい」


メヒティルデはヨーゼフに背を押されると、ユーリアに大きな瞳を向けた。

「なかにわの、なにをかきますか?」

ユーリアは王族と直接会話という庶民に許されるわけのない栄誉に際し、大いに混乱して答えた。

「ええええっと、描きます、はい、なんでも!ええええ、ええっと、はい、なんでも!」

「おはなをかきますか?」

「はひっ、かきます!」

「いけがきもですか?」

「はい、かきます!かかせていただきます!」


少しだけ思案顔をしたメヒティルデは、ヨーゼフのフロックコート(ゲエロック)の裾を引いて引き寄せると、その耳に小さな手を当てて何事かを囁いた。

「ご自分でお願いしてごらんなさい」

ヨーゼフが言うと、彼女はヨーゼフの後ろに隠れてしまった。

困ったように笑いながらヨーゼフはユーリアに向き直り、メヒティルデの代弁をした。


「描いて見せてほしいそうですよ」




****




霧雨の降る中庭の回廊で、にわかに写生会となった。

写生をするのはユーリアのみなので、厳密に言うと観賞会かもしれない。

使い込まれた折り畳みの踏み台に腰を下ろし、中庭に向かって画材を広げていく。

メヒティルデだけでなく全員が興味津々で眺めた。

ユーリアが手に取った黒い棒状のものを、メヒティルデが「それはなんですか?」と訊ねた。


「コンテ、と言います。

こうして素描をするときに、鉛筆の代わりに使います。

消えにくて、絵がきれいに仕上がります」


ユーリアはさらさらと見本に一輪の百合の花を描いてみせた。

「すげー」とザシャが小声で言った。


「すげーとはなんですか?」

「…お知りにならなくてよい言葉です」

ザシャはヨーゼフに小突かれた。



「あちらに見える、丸屋根四阿(パビリオン)を描きましょうか」



写生に入ったユーリアは先程のように慌てふためく様子もなく、表情すら変わったように思えるほどに別人だった。

ルドヴィカは心中できゃーきゃー言い、ヨーゼフとヤンは面白そうに成り行きを見守っていた。


物の数分で写生帳の中には、そのものを写し取った丸屋根の四阿(パビリオン)が現れた。

メヒティルデが本物と見比べながらほー、と感嘆の息を吐く。


周囲の花垣の様子を描き加えて、「できました」とユーリアは言った。



興味津々で覗き込むメヒティルデに写生帳を渡すと、彼女は神妙に受け取ってしげしげと眺めた。

「…がかは、よいのですね」

メヒティルデの持つ語彙で褒めようとしたのだろう。

飾り気のないその言葉にユーリアは泣きそうになるくらい感激した。



「あの…」

おもいきってユーリアは声を上げた。



「もし、もし…許していただけるなら、殿下を…。

メヒティルデ殿下を、描かせていただけませんか」



一世一代の大勝負だった。

言ってしまってから、静まり返った空間に、あ、やっちゃった、と額に脂汗を感じながらユーリアは思った。



「…わたくし…?」



メヒティルデは大きな瞳をさらに大きく丸くし、そして、小さなくしゃみをした。


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アンケートは終了しました。ありがとうございました!!!


結果は第二部「居眠り姫と王女様・1」の後書きです。



スピンオフ作品


わたしの素敵な王子様。[短編]


君の愛は美しかった[連載]



いただいたショートストーリー


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童話【居眠り姫と王子様】 作者:もふもふもん

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