76 訓練
騎士たちに鋼の槍を授与してやった。
どこぞのゲームなら中盤から出てくる武器だろうが、この世界ではかなり貴重なものになる。
まあ、相手になるのはAランクのモンスターまでだろうが、霊装術や呪霊を纏わせたら強度や効果が勝り、SS、いや、光の霊力を込めてレイギヌスにしたらオレですら殺せるものになるだろう。
「ゼル王に代わり、ルゼ・ミナレア公爵が汝らを騎士に受勲する」
槍はオレが。受勲はルゼにやらせた。受勲できるのは王族とするためにな。
「その槍は守護の槍。レオノール国に害なす者に振るう槍であり、弱者を背にして戦う槍でもある。その魂に刻め! お前たちは王の槍にしてレオノール国の精鋭。そして、レオノール国の誇りであるとな!」
景気づけに雷を天に向けて放った。
高揚した騎士たちも守護の槍を掲げ、雄叫びを上げた。
「ゼル王より祝い酒をいただいた。ミナレアの民よ、騎士を大いに称えよ!」
獣神の巫女たちが樽を運んできてミナレアの民に酒を振る舞って回った。
「こうやって人を纏めるんですね」
笑い合って酒を飲み交わミナレアの民を見ていたルゼが感心したように呟いた。
「これが正しいと言うわけじゃない。ゼルム族だから成功したんだ」
人間だったらこうも上手くはいかないだろうし、ゴゴール族もそうだ。個と全のバランスがよく、強さが誇りと思っているゼルム族だからこそ可能な方法なのだ。
「人間は秩序をもって制し、ゴゴールは力をもって制す。ゼルム族は誇りをもって制する、だな」
ちなみにベイガー族を制すのは食だな。食えることを示せば他より従順な種族だ。
「よく見てますね」
「見てもわからないことはあるさ。もし、わからなくなったら相手の価値観を知ることだ。知ったらそこから攻めていき、新たな価値観を植えつけてやればいい」
人が人を治めるだけでも大変なのに、種が違う存在を治めるなど苦難しかない。手探りでやっていくしかないさ。
「まあ、お前はミナレアを治めるのに力を入れろ。他種族のことはオレやゼル王に任せたらいいさ」
オレの場合は従わせる絶対的な力があるから多少のごり押しはできる。飴と鞭でやっていけるさ。
なんにせよ、オレは騎士を訓練して、レオノール国としての誇りを植えつけることだ。
「騎士が弱くては話にはならん。それはわかるな?」
走り込みの折り返し地点にできた広場を訓練場とし、そこに整列させて訓示を与える。
「はい。それは、まあ……」
一人の男が同意の頷きをした。
「この中でチェルシーを単独で倒せる猛者はいるか?」
出会った頃はA級モンスターだったが、エサに困ることなくなってからはS級に育っている。こいつら全員で戦っても負けることはないだろうよ。
「同種ならお前らは強い。力を合わせたら人間の軍隊でも相手できるだろう。だが、モンスターとなると話は違ってくる。納得できない! って者はいるか?」
この地に産まれ、モンスターに怯えて生きてきた者ならそんなことは言えないだろう。沈黙が返ってきた。
「戦い方を知らないなら覚えるだけだ」
オレ用に作ってもらった木の剣と謎触手でつかみ、木の槍を咥える。
某三刀流のパクりのようだが、謎触手は百キロも持てない。モンスターには使えないので人用だ。咥えている槍が主武器。なので一刀流です。
……槍でも一刀流って言うんかな……?
「オレが相手になる。まずは十人一組になってかかってこい!」
謎触手を振るい、双剣をぶつけて鳴らし、木の槍を振るった。
戸惑う中、三人が飛び出してきた。
走り込みでも率先して動いていた三人だな。
謎触手で相手するが、力が凄い。打ち負けてないぜ!
木の槍を振るうも、機敏に躱わされた。まあ、手加減はしてるんだがな。
「七人、混ざれ! 他は組を作れ!」
一人の男がそう指示を出すと、戸惑っていたヤツらの顔つきが変わり、組を作り出した。
「お前、名前は?」
指示を出した男と向き合い、名前を訊いた。
「ミゼルです!」
「よし、ミゼル。お前をこの組の組長とする。他二人は副組長だ」
組長とかアレな集団っぽいが、団にするにはまだ早い。騎士団の形ができるまでは組でやっていこう。
三十分くらい相手してやり、次の組と交換する。
二組目は、ちょっと纏まりが悪いな。個人プレーをする者ばかりだ。
「強者が相手なら纏まれ! 役割を決めろ! 撹乱して声を出し合え!」
同じく三十分くらい相手して次の組と交換する。
六組もあると一回りするだけで三時間もかかった。さすがに疲れたぜ。
「ミゼル。話し合って組分けしろ。これでは訓練にもならない。オレも訓練の仕方を考えるから」
その前に腹が減った。なにか食わないと力が出んよ。ってか、騎士団を支える部隊も創らないといかんな。町に戻らないと食事できんしな。
「今日はこれで解散だ。明日またここに集合しろ」
そう告げてエサを探しに駆け出した。
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