211 歴史に名を残す
弟子たちを鍛えながら騎士たちの模擬戦をさせるための闘技場予定地を拓いていった。
秋も半ばになった頃にサッカー場くらいに拓き、爪で土を耕していく。
ゴードに騎士を呼びにいかせ、きたら細かい枝や石を拾わせ、均すために走り回ってもらった。
ほどよく均されたらオレが歩いて地面を固めていった。
「こんなものかな? ヤトア、ロズル。ちょっと組手をしろ」
観覧席予定地に伏せて見やすさを確認する。
三メートルくらい土を盛ったが、もうちょっと高くしたほうが全体を見回せるかな?
土を集めてきて一メートルくらい高くした。うん。いい感じ。
あとはマイノカから闘技場を管理維持するヤツらを連れてきて整備させた。
十日ほどでそれなりに完成。騎士を十対十にして模擬戦をさせた。
訓練用の槍(先を丸くして革を巻いたもの)での模擬戦だからそう強い力は出せないが、模擬戦なのだから問題ない。折れないように戦うのも訓練だ。
一通り模擬戦をやらせ、温泉で汗を流させたら闘技場に集合させた。
「これからお前たちには使節団の前で模擬戦をしてもらう」
「我々ですか?」
「ああ。騎士はレオノール国の要だ。諸島連合体に騎士ありと示すものだ」
反論はない。だが、納得できてない表情だ。
「諸島連合体としてはレオノール国の力を知っておきたいところだろう。同盟を結ぶに値するかとな」
はっきり言えばこれは見世物だ。使節団を喜ばすためのな。だが、そこにレオノール国の力はこれだけあるぞと知らしめることも混ざっている。
「人間からすればレオノール国は未知の国だ。獣が国を創ったくらいにしか思ってないだろう」
使節団の中にもしょせん獣の国としか思ってないヤツがちらほらと見れたからな。
「まあ、それはこちらも同じだ。お前たらちの中にも人間など野蛮としか思ってないヤツがいるだろう?」
この中には帝国との戦いに参加した者も半分以上いるし、コルモアに住む人間との交流も少ない。人間の本質を知らないだろう。
「それは仕方がないことだ。責めることはない。だが、騎士がそれでは困る。お前たちはレオノール国の槍であり盾だ。敵を見誤られては困るのだ」
と言ってわかってくれるなら苦労はないんだがな。
「諸島連合体はレオノール国を記録している。お前たちのことも記録するだろう。それはすなわち、人間の世界に騎士のことが知られると言うことだ。この意味がわかるか?」
「……敵に恐れられる存在であれと?」
ほぉう。わかるヤツがいたか。
「そうだ。敵に弱いと認識されるか、それとも強いと認識されるか、お前らはどちらがいい?」
こいつらにはプライドを刺激したほうが早い。厄介ではあるがな。
「……強い敵と思われるほうがいいです……」
「そうだな。それに、人間の世界に騎士の強さが知らされると言うことは、お前らの存在が全世界に知らされることでもある」
名誉と誇りに敏感な騎士たち。すぐに理解して目を見開いた。
「騎士は歴史に残る。レオノール国に騎士ありと知れ渡る。何百年と歴史に刻まれるのだ」
それでやる気全開。どう見せるかを話し合い始めた。
「お披露目は五日後くらいにする。あと、Aランクのモンスターを捕まえてくる。騎士の力を見せつけろ」
騎士二十人ならAランクモンスターを倒せるはず。バリュード辺りなら問題あるまい。
弟子たちを連れてバリュード探しに出た──のだが、必要なときにいないのが世の常。ほんと、まったくいないよ。
「師匠。あれでいいんじゃないか?」
さて、どうしたもんかと悩んでいたらヤトアがなにか言い出した。
なんだ? とヤトアが指差す方向に茶色いバルバ(鶏のデカいヤツね)が数匹いた。
「珍しい毛色だな」
黒か白のしかいなかったのに、茶色いとか新種か?
「準モンスターか。まあ、倒したら食えるし、あれでいいか。お前ら、無傷で二匹捕まえろ。残りはオレが食うから」
久しぶりのバルバ。美味しくいただくとしよう。




