19 海の幸
めでたしめでたしといかないのが世の常だ。
レイギヌスの弾で呪いは消えて、元の姿に戻れたものの、身長一メートルくらいから一メートル八十センチくらいになるってのはエネルギーがいるもの。
無理したツケを払うかのように食べる食べる、もう鹿一匹分は食べたんじゃないか? それでも足りないと、蒸かしたイモを食らっているよ……。
「秋になる前に食料不足なりそうだな」
一人でこれなら二百人も呪いを解いたらどうなるか想像もしたくない。あー見なかったことにできねーかなー、畜生め!
「どうしましょう? レオナールから運びましょうか?」
「レオナールもベイガー族を支えるほどの貯蓄はない。それに、運ぶのも手間だ」
さて、どうしたものか?
「リドリル。食い物を集められるか?」
大森林の幸に期待する!
「……豆くらいなら……」
ダメでした~。クソが!
「あ、あの、それなら、漁をしますか?」
と、コルモアの者と思われる老人が会話に入ってきた。誰や?
「長老衆の一人で漁師をやっていた者です」
セオルの部下がそう教えてくれた。
そう言えば、漁をしてたな。すっかり忘れていたわ。
「リドリル。お前たちは魚は食えるか?」
「……打ち上げられた魚なら、ある……」
まるで腐ったのを食べて腹を壊したような顔で答えた。
「で、どんな漁をするんだ?」
「投網漁をします」
投網か。それじゃあまり大量には捕れんな~。
「そう言えば、戦艦があったよな」
「ありますが、戦艦で漁はできません」
「わかっている。もし、魚がいないなら沈めて漁礁にするかもしれん。浮かべていてもしかたがないだろう?」
戦艦で貿易と言う手もあるが、長い航海を支えるだけの食料はない。このまま使わず朽ちるくらいなら沈めて漁礁にするほうがいいはずだ。
「とりあえず、海にどんな魚がいるか調べてみるか。セオル。お前はコルモアを統治しろ。将軍兼町長だ。ギギも手伝ってやれ」
「はい、わかりました」
「わかりました。やりましょう」
「ゼルたちは警備と狩りだ。秋まで持つくらい狩ってこい」
「わかった」
「リドリルたちは食えるものを集めろ。呪いを解くのは食料を集めてからだ。いいな?」
「わかりました」
んじゃ、解散と、それぞれの仕事をさせた。
「お前、名前は?」
会話に入ってきたセオルの部下らしき男に尋ねた。
「ゴドルと言います」
「なら、お前が漁を仕切れ。あと、漁師を集めろ。これからどんな魚がいるか調べる」
ゴドルに指示を出し、オレは港へと向かった。
「あの頃のままだな」
海に船を見つけてここにやってきた頃となんら変わってない。いくつかの小屋があり、小船が何隻かあるくらい。
「いや、少し寂れているか?」
軍人どもが好き勝手して漁どころではなかったのだろう。まったく、統制の取れてない軍は野盗と変わらんな。
「そう言えば、砂浜ってここだけだよな」
なぜかここだけC型の湾になっており、五十メートル級の船が湾内に入ってこれるほど深いようだ。
この海の向こうにはなにがあるんだろう? なんて感傷に浸ってたら遠くでなにかが跳ねた。
「クジラかな?」
この世界の海にもモンスターはいるそうだが、自分より巨大なものは襲わず、滅多に陸には近づかないそうだ。
さすがに数キロ先までいけないので、顔が出るくらいまで入り、雷を四方に放った。
毒蟲が自分の毒で死なないようにオレも自分の雷では死なない。なので海の中でもやってみたが、ちょっとピリッときたな。
「お、魚が浮いてきた」
けど、どれも小魚でオレの胃を満たすものはいなかった。
「レオガルド様!」
お、ゴドルたちがやってきたか。
「お前たち、浮いている魚を集めろ!」
せっかくなのでゴドルたちに集めさせた。
「結構な種類がいるんだな」
見聞するために捕まえた魚を砂浜に並べてもらった。
鯵っぽいのや鯛っぽいもの、アイゴのようなトゲを持つような魚もいる。ファンタジー感のある魚はないな。なんかちょっと残念……。
「季節によって捕れるものはわかっているか?」
「はい。冬は波が高くて漁には出れませんが」
あー確かに。冬は波が高かったな。日本海か! とか突っ込んだことあるわ。
「漁をできるヤツはこれだけか?」
二十人といないな。前はもっといただろう。
「……はい……」
まあ、訊くまでもないか。
「仕方がない。この人数でやるしかないか。保存法とかあるか?」
「主に塩漬けです。あと、魚醤を作ったりします」
へ~。魚醤あるんだ。そりゃ料理の幅が広がるな。
「捌いて干物にしたりはしないのか?」
「人手があったときはしてましたが、今は塩漬けばかりです」
確かに捌くのは手間か。ハァ~。手作業な時代は大変だぜ。
「なら、塩漬けにしろ。オレはもう少し海の魚を調べる」
泳ぎは湖で覚えた。潜水も十分は余裕だし、風を使えば三十分は潜っていられるぜ。
あとは任せて海へと泳ぎ出し、湾の中頃で海中へと潜った。
汚れてないからか、海の透明度は高く、海底までよく見える。
しばらく海中散歩をしていると、シャコガイみたいな化け物貝がたくさん生息しているのを発見した。
爪で剥がし、蹴りながら砂浜へと運んだ。
「レオガルド様、その貝は?」
「よくわからんが、デカいから捕ってきた。ちょっと離れていろ」
ゴドルたちを離れさせ、シャコガイ(仮)へといい感じの雷を放った。
レオガルド流、雷焼き!
で、いい感じに焼けたので、こじ開けて臭いを嗅ぐ。
悪い感じはしない。貝の臭いだ。
一口噛り、モシャモシャと味見をする。うーん。悪くはないかな?
「誰か味見してみろ。よく焼けたところをちょっとだけだぞ。苦かったり舌が痺れたらすぐに吐き出せ」
目で牽制し合っていると、老人が名乗り出してシャコガイ(仮)を切り分けて口にした。
「……やはり、コノリ貝だ……」
「知っているのか?」
「はい。種類は違いますが、故郷で食ったことがあります」
「そうか。なら、これをベイガー族に食わせるか」
量的には鹿一頭分はある。絶滅させないていどに捕ってくるか。




