173 闘技場計画
ギギたちとのキャンプが終わればゼルたちとのキャンプをする。
「よいの? マイノカを離れて?」
「ギギと巫女たちがいるし、銃士隊も残してある。三日くらい問題ない。今は余暇を楽しめ」
すっかり国王が板についてきたゼル。仕事人間──仕事ゼルムになったものだ。
「上が休まないと下も休めないものだ。よほどのことがなければ休むことも大事にしろ」
まあ、王なんて休まることもない職業だし、オレがいる間は仕事ゼルムにならないよう心がけてやろう。レオノール国が落ち着くまではゼルが王でないと困まるからな。
「てかお前、娘がいたんだな」
珍しい亜麻色の髪と尻尾とか初めて見た。
「新しく妻にした者との間に産まれた子だ」
そう言えば、ゼルム族も一夫多妻が当たり前の種族だったっけな。
「妻は何人いるんだ?」
オレと会ったときは一人で、ジュニアだけだったはずだ。
「今は四人だ。大部族から突き上げがあってな。周りと相談して娶った」
「それは大変だな。ちゃんと順位はつけておけよ。王国が滅びるのは外敵からの侵略か後継者で揉めるかだ。骨肉の争いはするなよ」
「わかっている。周りからもラゼからも言われている。次の王はジュニアと知らしめている。レオガルド様も認めているからな」
「ふふ。ちゃんとやれてるようだな」
少し前まで原始的な暮らしをしていたとは思えない成長振りだ。
「人間から学んでいるよ。ほとんどが戦いの歴史だったがな」
「人も獣も戦いの連続だ。強い者が弱い者を食う。食われるのが嫌なら強くなれ。賢くなれ。強い国を創って生き残れ、だ」
「レオガルド様が常に言っている言葉がわかってきた。レオノール国が纏まらなければ我らに先はないことがな」
人間の歴史は戦いの歴史。負けた国がどうなるか聞けば嫌でも考えさせられる。自分たちが負けたときどうなるかをな。
「まあ、今は余暇を楽しめ。妻や子と触れ合え。国は守る砦であり安息の地でもある。守るべき理由を作れ」
ゼルの下半身に謎触手を絡ませ、湖に放り投げてやる。うん。ティラノサンダーを食ってから謎触手の力も増してるぜ。今なら二百キロまでイケる気がするぜ。
「ジュニア。お前もこい!」
余暇ではあるが付き添いのヤツらにオレとゼルたちとの関係を知らしめるためでもある。
オレらが仲良くしてるなら国民はゼルを支持するし、ジュニアが後継者だと認識する。ゼルム族がレオノール国を仕切っていると理解するだろう。
他の種族への配慮もしなくちゃならないが、そのうち公爵家を立ち上げて不満を抑えればいい。この大陸は一種族だけで生き残ることはできないのだ。民主主義が台頭してくるまでは国王制や貴族制を織り混ぜてやっていくしかない。
他の子たちとも遊んでやり、性格などを知っていく。もちろん、妻たちとも交流する。その背後にいるヤツらを知っておかなくちゃならんからな。
余暇が終われば計画していたことを始動するべく発明家で技術局局長たるマルジェムを神殿に呼び寄せた。
「お前とこうして話すのも久しぶりだな」
マイノカに帰ったきたときは挨拶を交わすくらいには会っていたが、ゆっくり話すのは八年振りだろうか? なんだか老けた感じがする。
「そうですな。わたしとしては毎日が楽しくてあっと言う間でしたが」
「充実な日々を送れててなによりだ。風車のこと聞いている。よく作ったもんだな」
人間の世界で水車はあるが、風車はまだ生み出されてなかった。
なので、試しに一つ作らせてみたが、思いの外順調で、湖畔に四基、鎧竜牧場に二基、作ったそうだ。
「船も造ってみたいですが、やりたいことが多くて手が出せません」
「ふふ。それは長生きするしかないな」
「はい。百歳まで生きて空を飛ぶ機械を造ってみます」
戯れに飛行機のことを語ってやったらマルジェムの目標となってしまった。うん。よけいなこと言ってゴメンよ。
「今日、お前を呼んだのは闘技場の構造を知っているかだ」
「闘技場、ですか?」
「ああ。人間の世界に戦士を戦わせて見世物にするところはなかったか?」
ここが異世界でも人間なら闘技場を造って、殺し合いを見世物にしているはずだ。
「ありました。と言いますか、ミドガリア帝国ではたくさんありますな」
やはりあったか。中世レベルまで発展してるだろうに、まだやってんのかい。
「まあ、さすがに殺し合いはさせないが、技を競う場所は欲しいと思っている。ゼルム族もゴゴール族もまだ力が正義と信じているからな。その息抜きとなる場所が必要なんだよ」
「レオガルド様は本当に獣とは思えない思考をしますな」
「それは今さらだ。オレが一番獣らしくないと思ってるよ」
マルジェムにはオレが別の世界から転生したとは語ってない。だが、マルジェムなら自分なりの考えを持っているだろうよ。
「闘技場ですか。わたしは興味がないのでどんな造りかは知りません。ですが、開拓団には剣闘士や職人もいますから、コルモアにいけば携わった者がいると思います」
マルジェムは知らんか。まあ、闘技場は建築系だ。興味の外にあっても仕方がないか。
「そうか。なら、コルモアで捜してみるか」
「わたしも協力できることがあるならいつでも声をかけてください。レオガルド様のやることは興味深いですから」
「ああ。そのときは頼む」
マルジェムとの会談を終え、オレ付きの巫女にギギを呼んでもらった。




